1-9 君の事
スプーンの使い方を教えてやると、天音はすんなりと覚えてくれた。
ココアのときと同じように、一口含んでから目を丸くして弥一を見つけたあと、勢い良くパクパクと食べ進めていく。
この様子だと随分空腹だったのだろう。
米粒一つ残さず綺麗に食べ終わったのを見計らって、弥一は「天界」のことを聞いてみることにした。
「あのさ、あの人が言ってた天界っていうのはどこのことなの?」
「そのままだ。雲の上の世界、簡単に言うと神様が住んでいる所だな」
「神様……?じゃあ、きみやさっきの人は神様なの?」
「あいつはそうだが私は違う。私は……下っ端みたいなものだ」
なるほど。と言うにはあまりにも突拍子もない事過ぎて納得はしたくないが、あの男が神様だというのなら部屋を修復するのも、泡になって消えたのも、願いを叶えると簡単に言ってくるのも全てに合点がいく。
「じゃあ次の質問。きみは何の疑いをかけられているの」
「……放火だ。誰かが天界で一番偉い奴の家に火を付けた。私は呼び出されて家に行っただけで、何もしていない。本当だ」
「火を付けた奴に心当たりは?」
「知るか。知ってたら見つけて突き出している」
やはり嘘をついているようには見えない。
今まで色々なバイトをして、色々な人を見てきたが、嘘をついている人と言うのは大体が目を逸らすか、必要以上に見つめてきたり、言葉の端々に妙な高揚があったりと、不自然なことが多かった。
しかし天音はどの行動もしていない。
それなら、冤罪を晴らすために何かしてやりたいと思った。
「わかった。願い事考えてみるよ」
「三つも叶えられるのに、そんなに悩む必要あるのか?人間っていうのは、つくづく欲深い生き物だな」
「きみも人間だろ」
「……さあ、どうだろうなぁ」
そう言って天音が敷いてある布団に潜り込んだ。
時計を見れば、時刻は深夜を回っていた。
明日は休みだから、天音の服やら何やらを買いに行こう。
近くの古着屋に行って、スーパーと百円均一で日用品を買って……下着も買わなければいけないが、本人を連れて行かなければサイズがわからない。
服を買ってから考えよう。
明日の予定を組み立てながら、薄い毛布を羽織って弥一も眠りについた。