6-7 レッドアイ
従業員に案内されて、用意されていた席へ着く。それからすぐに運ばれて来たのはサーモンのマリネと色鮮やかな野菜が美しく盛り付けられた前菜。
食べ終わる頃には、かぼちゃの冷製スープが空の皿と差し替えられた。
「お前が作る物とは全く別物だな」
スープを飲み終わり、魚料理が運ばれて来た所で天音が顔を上げた。
じっと見つめられてから、弥一はようやく先程の待ち合わせで天音に気付かなかった理由がわかった。
「あ、目が黒いのか」
思わず口に出してしまった。
まるで会話が成り立っていない事に天音が眉を顰める。
「お前が付けろって言ったんだろ」
そうだった。
あの赤い目は悪目立ちするから、カラーコンタクトを付けろと言ったのだ。
「自分で言っておいて何だけど、なんか全然印象違うな。別人みたい」
「そうか?」
不思議そうに天音が顔を傾げる。
それから料理を一口食べて、「そうかもな」と言い直した。
「さっきの前菜に使われていた野菜だが、お前が作った野菜炒めや煮物と同じ食材を使っていた」
「……あんなお洒落なの俺には作れないよ」
「そうじゃない。つまり、盛り方や味付けで印象なんかどうとでも変わるんだよ」
その実は何も変わらない。
天音はそう続けた。
「雰囲気が良いからって良い奴だとは限らないって事だ」
「そうだな。俺もそう思うよ」
ナイフとフォークを置く。
お洒落に小さく盛り付けられた魚はすぐに食べ終わってしまった。
「コレも、見た目が良くて美味いが腹いっぱいにはならないな」
「じゃあ食べ終わったらカフェに行ってみようか。軽食くらいなら出してくれるよ」
天音が嬉しそうに頷く。
それは慈愛を含んだような天女の微笑みのようにも見えるが、ただの食い意地で形成された笑みである。
魚料理を食べ終わり、肉料理が出てきて、その後はデザートを楽しんだ。
そんな豪華な食事の後は、先程の話通りカフェへ向かった。
昼に寄った時より照明が落とされたカフェの店内は酒を楽しむのにピッタリな落ち着いた雰囲気に変わっていた。
「サンドイッチとケーキが良い」
「じゃあ……卵のサンドイッチと苺のショートケーキをお願いします」
メニューを見るなり、天音が指を指す。
それをそのまま弥一が注文した。
「せっかくだしお酒飲む?」
「美味いのか?」
「カクテルなら飲めるんじゃないかな」
「じゃあ任せる」
少し考えてから、レッドアイと弥一の分はバーテンダーおまかせで注文した。
甘い物ばかりでは飽きると思ったからだ。
「トマトジュースのカクテルだよ。酔い難いし、飲みやすいと思う」
「ふうん」
細長いグラスに注がれたそれは、その名の如く、天音の瞳と同じ美しい真紅のカクテルだった。
天音のレッドアイと共にでてきたのは、シャンパングラスに入った透明感のある赤色のカクテル。
バーテンダーはキールロワイヤルだと言った。
「じゃあ、乾杯」
「ああ」
軽くグラスを合わせてから、天音が一口飲み込む。
フルーティーなトマトの甘味と微かなビールの苦味は口当たりがさっぱりとしていて飲みやすいようだ。
「どう?飲めそう?」
「悪くない」
「そっか。良かった」
淡い間接照明が、天音の横顔を照らす。
それが妙に艶やかに見えてしまい、弥一は目を逸らしてグラスを一気に呷った。