6-3 くじ引き
ゆっくりと店内を回って、レジで会計を終えたらくじ引きの補助券を貰った。
キャンペーンをやっている、という店員の説明を聞き流し、天音に券を渡す。
袋詰を始めた弥一の横で、天音がその券の説明をじっと読んでいた。
「これを5枚集めるとくじ引きが出来るらしい。特賞は豪華クルーズ船宿泊旅……クルーズってなんだ?」
「船だよ。大きな船に泊まれるんだって」
「船……。なんだ、海か」
「船って言っても、ホテルと変わらないよ。海の上って事を忘れるぐらい揺れないし、部屋も涼しくて綺麗だし、出てくる料理も美味しいものばかりだったな」
天音の目がキラリと輝く。
海は嫌いだが美味しい食べ物は好きな女だ。
弥一の言葉に釣られて、キョロキョロとくじ引き会場を探している。
「弥一、くじ引きしにいくぞ」
「あのなぁ……5枚ないとできないんだぞ」
「しょっちゅう買い物に来てるんだから5枚くらいあるだろ」
「いや、そんなに……」
あった。
財布の脇で、くたくたになって潜んでいたそれは紛れもなく補助券4枚。
天音が持っているものと合わせて丁度5枚だ。
「丁度5枚だなぁ?よし、引いてこい弥一」
「……わかったよ」
期待している天音には悪いが、当たった所でポケットティッシュだろう。
天音は恐らく、くじ引きというものをよく分かっていない。ガッカリするのがオチだ。
そんな事を思いながら、入口近くに設置されている特設台へと向かった。
長テーブルの上には、木製の回転式抽選器が置いてあり、数人の客が並んでいた。
ガラガラと重い音が響き、当たり前のようにポケットティッシュを渡される客を横目に、弥一も後ろに並ぶ。
手前の客がガラガラと音を立てて抽選器を回す。からん、という軽快な音のあと鐘の音が鳴った。
「おめでとうございます!5等の商品券です」
客が嬉しそうにそれを受け取る。
どうやら5等以上が当たると鐘を鳴らしてくれるようだ。
「次のお客様どうぞ」
言われて弥一が前に出る。
くたくたの補助券を店員に渡すと、抽選器を回すように促された。
ほんの少しだけ、淡い期待をしながら重い抽選器を回す。
1等とは言わないので、せめて商品券でも当たらないだろうか。
ガラガラと抽選器の中の玉が一緒に回る。
小さな穴から赤色の玉がひとつ、出てきてから店員がはっと息を飲んだ。
先程よりも勢い良く、鐘の音が響く。
「おめでとうございます!!1等のクルーズ船宿泊券です!」
ぽかん、と口を開ける弥一の隣で、天音がニヤリと笑った。