6-2 冷たくて甘い
肺を焦がすような暑さの中を歩くのは拷問のようだった。
煌々とした太陽と、それを照り返すアスファルト。
上下から貫いてくる強い熱気は、部屋に居た方がマシだったのではないだろうかと何度か二人の心を折りに来た。
外に出た事を後悔したが、スーパーに辿り着いて自動ドアを通ればそこは楽園に等しいとすら思った。
ひんやりと冷たい空気が身体を包めば、すうっと汗が引いていく。足は自然とフードコートの方へと向かい、いつの間にかかき氷を購入していた。
「うまい」
「そうだね」
いちご味のシロップが掛けられたかき氷の上にはソフトクリームが乗っている。
スプーンのように先が広がったストローでソフトクリームを一口含んだ。
さっぱりとしたミルク味を堪能した後、今度は粗めに削られた氷を掬う。
いちご味のシロップが口の中で氷と共に溶けて無くなれば、再びソフトクリームを掬い上げては交互に二つの食感と甘さを楽しんだ。
「うまかった」
「そうだね」
いちごシロップで舌を真っ赤にした天音が満足そうに笑う。
あれだけアイスを食べたのにかき氷まで食べてしまって、後で腹を壊すのではないだろうか。
そんな弥一の心配をよそに、天音がじっとソフトクリームのメニューを見つめている。
「今日はもう買わないからな」
「……別に食べたいと思って見ていた訳じゃない」
本当だろうか。
やはり買えと言われる前に、弥一はさっさとフードコートから天音を連れ出した。
「お前の部屋はあんなに暑いのに、どうしてここは涼しいんだ?」
野菜を選ぶ弥一の後ろで天音がぼやく。
「ここはエアコン効いてるからなぁ。天界はそういうの無いの?」
「エアコン……?そんなものは無い。そもそも上に居る奴等は暑さも寒さも感じないからな」
どうやら天界にはエアコンが設置されていないどころか、存在すらしないようだ。
「へぇ、便利だなぁ」
「だから下界は住み辛いんだよ」
暑さに苦しまず寒さに震えず飢えもない、苦しみの無い世界なのだ、と天音は言う。
しかしそこから落とされた事で、天音の身体は人間と同じように不便なものになってしまったのだとも言った。
「でも、何も感じないっていうのも少し寂しいかもな」
「ふん、馬鹿なお前なら言うと思った」
天音が鼻で笑う。
その横をすり抜けて、アイスが陳列されている場所へ向かった。
「だって暑くなければアイスを食べる必要ないし、食べたいと思わないだろ」
天音が平らげてしまった氷菓と同じものの前に立つ。
それを期待の眼差しで眺めている天音には応えず、アイスの陳列棚から離れた。
明らかに落胆した天音が、眉間に皺を寄せる。
「おい、買わないのか」
「どうせお前が全部食べるんだし、これにする」
そう言って手に取ったのは細長い容器にカラフルな液体が入った、一見ジュースのようなもの。
陽気なイラストが描かれたパッケージの中に10本程度入ったそれは、とてもアイスには見えなかった。
「なんだよそれ。ジュースか?」
「凍らせるとアイスになる。意外と美味しいよ」
ふうん、と未だ腑に落ちない返事を天音が返す。
他のアイスクリームに後ろ髪を引かれるが、もうすっかり前を行ってしまった弥一の後を天音は渋々追った。