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5-6 理由


 眠りたくない理由とは何だろうか。

 何も考えていない、楽観的でお人好しな馬鹿だとばかり思っていたが、何か重大な悩みでも抱えているのか。

 洗い物をしている弥一を見つめながら、天音は今までの言動を思い出していた。

 

「どうした?」

 

 顎に手を当てて、難しい顔をしている天音の前に弥一が座った。

 きょとんとして、天音を覗き込むその顔はいつもと変わらないように見える。


「別に。弥一、さっきの薬ちゃんと飲んでおけ」

「ああ、あれ……大丈夫かな」

「効き目は保証すると言っていた。天才を豪語するくらいなんだから、大丈夫だろ」


 矢張り効き目を疑っているようだった。

 無理もない。

 自分を誘拐して殺そうとして来た者など信用できる訳が無いのだ。

 仕方無くフォローの言葉を並べる天音に弥一は目を丸くした。


「珍しいな。お前がそんな風に言うなんて」

「は?……あ、いや、別にお前を心配して言ってる訳じゃない」

「え?……へぇ、心配してくれてたんだ」

「違うって言ってんだろ!さっさと薬飲んで寝ろ!」


 わかったよ、と弥一が笑う。

 天音に睨まれながら、先程薬箱にしまった小瓶を取り出してカプセルを一つ口に含む。

 それを水で流し込み、振り返ると押し入れの中から布団が出されていた。

 

「ほら寝ろ。私も寝る」

「うん。じゃあ、おやすみ」


 乱雑に置かれた布団を敷き、電気を消して中に入る。

 消す間際、襖の隙間から見える天音の顔は、なんだか緊張しているように思えた。


「天音……今日はなんか変だな」

「……お前が夜ふかしばっかりしてるからだ」

「ああ、知ってたんだ」


 ぼんやりと言葉を返した弥一が話を続ける。

 

「夢を、見るんだ」

「夢?そんな事が原因で眠りたく無いのか」

「ああ……いつも、良くない夢で、俺は……」


 言葉の続きを待つ。

 待っているうちに、すう、と深い吐息が聞こえた。


「寝たのか」


 返事は無い。

 代わりに規則正しい寝息が響く。

 襖から顔を出して見てみれば、弥一はぐっすりと眠っていた。

 連日の寝不足で薬が思ったよりも早く効いてきたのだろう。

 あとは朝まで眠れれば良いのだが……。

 隙間から弥一の様子を眺めながら、天音も眠る事にした。


 ───────────


 天音がふいに目を覚ましたのは、夜中の二時を回った頃だった。

 目が覚めたついでに弥一の様子を伺う。

 相変わらず規則正しい寝息を立てている事に安堵して再び目を閉じたのだが、すぐに弥一の細い呻き声が上がった。


「おい弥一」


 押し入れから降りて、弥一の横に座る。

 呼び掛けてみたが、返事が無い事からうなされているのだと察した。


「う……、ごめ……ん……な、さい……」


 呻く寝言は時折謝罪の言葉を漏らした。

 額に汗を浮かべ、苦しそうに顔を顰めて、大きな手が布団を掻く。

 

「何をそんなに謝る必要があるんだ」


 当然だが、天音の質問には答えない。

 代わりに、閉じられた瞼から涙が一つ流れた。


「弥一、お前本当は幸せになりたくないんじゃないのか」

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