5-3 煮魚定食
赤魚の煮付け、ほうれん草のおひたし、大根の漬物と味噌汁に白いご飯。
その他に二種類の常備菜を小さなちゃぶ台の上に並べる。
並べられたおかずを前に、ドッペルゲンガーは歓喜の声を上げた。
「やったー!まともな飯だ!見ろよマスター、これが飯って言うんだぜ」
「……君は随分お人好しだな、白浜弥一君。こんな悪魔と君を殺そうとした奴のために食事を作るなんて、お人好しを通り越しているのでは無いのかね」
馬鹿とは言わないが、そう言いたいのだろう。
苦笑いする弥一の横で、天音が眉間に皺を寄せた。
「こいつが馬鹿なのは否定しないが、感謝くらいしたらどうなんだ」
「勿論、感謝はしている。だから君の条件通り……」
「サンキュー白浜弥一!じゃあいただきまーす!」
新堂の言葉を遮り、ドッペルゲンガーが箸を持つ。
そのまま軽快にパクパクと食べ始めると同時に「うまい!」と感涙の声を上げた。
それを新堂が苦々しい顔で見つめている。
「新堂さんもどうぞ」
「いや、私は……」
「あ、すみません。魚苦手でした?お肉焼きましょうか」
「いや、その…………いただこう」
重々しく、新堂が箸を取る。
それから味噌汁を一口飲み、副菜のおからの煮物を食べ、煮魚を二口程食べてから、箸をゆっくりと置いて、顔を伏せた。
……やはり嫌いなものがあったのだろうか。
弥一が心配そうに覗き込む。
「……口に合いませんか?」
弥一の言葉に新堂は首を振り、顔を上げた。
「とても、美味しい」
上げた顔には涙が伝っていた。
それは溢れて頬を伝い、白衣の上に落ちる。
隣でドッペルゲンガーが驚きの声を上げ、慌てた弥一がティッシュを差し出した。
「何泣いてるんだよマスター。確かに泣くほど美味いけどさ」
溢れる涙をティッシュで拭い、ついでに勢い良く鼻をかむ。
それからすうっと息を吸って、大きく吐き出した。
「美味しい。私の母も……こんな味付けをしていた。思い出したんだよ、昔の事を……」
新堂が遠い目で空を見つめる。
それから口にしたのは、新堂がまだ不老不死ではない頃の話だった。