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俺は糞を踏む。

作者: 一ノ瀬 遊


ハートロック王国、辺境の田舎町シャイブ。


今日はこの田舎町で年に1回の行事がある。

それは教会で行われる神託の儀である。

今年成人を迎える者にスキルを与えると言うものだ。

スキルによって大半進む職業が決まる。

剣術や槍術なら兵士や騎士などの職に進みやすいし、

斧術ならきこり、薬術なら医者や薬師などに向いているのだ。

これはあくまでも向いていると言うだけで、

必ずならなきゃ行けないと言うわけではない。


ここに今日神託の儀を迎える青年が居た。

名前はザック。

彼は冷めていて面倒くさがりだ。


神託の儀か...。

だな...。

どうせなら地味なスキルがいい...。

ってか布団から出たくない...。


「こらぁ!ザック!いつまで寝ているの!?

そろそろ起きて準備しないと神託の儀に間に合わないわよ!!」


来た...。

母さんのモーニング怒鳴り。

毎日毎日早起き過ぎるって...。


俺はそんな事を思いながら仕方なく起きる。

これ以上愚図ると何をされるか分からないからだ。

前に愚図った時には布団ごと縛られて町中引きずり回された。

あれはものすごく恥ずかしかった。


俺は顔を洗いに部屋を出て洗面台に向かうと親父が居た。


「おうザック!おはよう!!今日はいい天気だぞ!」


「おはよう...。うん。いい天気だね...。」


「そうだ!天気も良いしこれからランニングでもしないか?」


「い、いや...。やめとく。これから神託の儀だし...。」


「あちゃー!今日は神託の儀か!ならしょうがない!!父さんはひとっ走り行ってくるわ!母さんに言っといてくれ!」


「...うん。」


朝からランニングってどんだけ元気だよ...。

親父とのランニングも良いことはない。

あれはランニングではない。鬼マラソンだ。

何度も付き合わされたが、3日3晩走らされ、まさに地獄。

うちの両親は普通とはどこか違うといつも思っていた。

まぁ優しいのだが...。


俺は顔を洗いリビングに行くと朝御飯が並んでいた。

パン、スクランブルエッグ、スープ、サラダで良いものをハンバーグ、ステーキ、シチューまで並んでいた。


....こんなに朝から誰が食うねん。


「ほらほら早く座って食べて!

私は忙しいんだから。ってあれ?お父さんは?」


「父さんはランニングに行くって行ってたよ...。」


「あのバカ...!あったまきたぁ!

ザック、お母さんちょっと出てくるからちゃっちゃと食べちゃいなさいね!」


そう言うと母さんは俺の返事も聞かずに家を飛び出して行った。


やっと静かになった...。


俺は静かになった部屋で優雅に食事を楽しんだ。


あぁ~。もう食えない...。

朝から作りすぎだって...。この残ったのどうするんだろう...?


そう思っていると、


「ただいま!!」


帰って来たみたいだな。

見ると母と母に引きずられている親父の姿があった。


「お、お帰り...。早かったね。」


「もうこの人ったら王都まで行ってるんだもん...。探すのに少し時間かかったわ。」


....王都?

今、王都って言ったよな?

嘘だろ...。王都まで馬車で1週間かかる距離だぞ...。


「しょうがないだろ!

夢中で走ってたらそこまで行っちゃってたんだから!!」


「今日は大事な日だからランニング禁止って言ったじゃない!」


「動かさないと何か体が気持ち悪いんだよ!それに色々と用事があったし...。」


王都まで行っている親父もすごいが、母さんはどうやって追いついたんだ?

本当にこの夫婦は謎だ...。


その後2人の言い合いは平行線のまま10分も続いた。

その間俺は神託の儀に向かう準備をした。


「あ、あの...。これから行って来るね。」


「気を付けて行ってきなさいね!!」


「ザック頑張って行ってこい!」


頑張るって何を...?

神託の儀は神父さんが頑張るものだけど...。

まぁいいか...。


「行ってきます。」


俺は教会に向かって歩き出した。



「アナタ。ザックはいいスキル貰えるかしら?」


「さぁな。そればっかしは神のみぞ知るってヤツだな。

でも、俺たちの子だからな。

面白いスキルもらうんじゃないか?」


「そうね。スキルがどうであれザックはしたいことをしてくれればいいわ。」


「そうだな。精一杯応援してあげよう。」


「ええ。」


ザックの両親タイアードとアメリアは教会に向かう息子の背中を見送った。



足取りが重い...。

体が拒否しているだろうな...

アイツらも居るんだろうな~めんどくさい...。


そんな事を思いながら教会についてしまう。

すると、


「オォイィ!!うすのろザック!

出会ったらすぐ挨拶こいやぁぁ!!」


「....キンダル。」


嫌な奴に速攻会ってしまった...。

最悪だ。

彼の名前はキンダル。事あるごとに取り巻きを引き連れて俺に絡んでくる。


「ザックのクセに生意気だぞ!」

「そうだそうだ!!」


キンダルの金魚の糞がなんか言っている。

なんで絡むのは俺なんだろう?

他にも居るだろうに?

謎だ...。


「お前まさかいいスキル貰えるとか思ってんじゃないだろうなぁぁ!?あぁ!?」


「....おもってないよ。俺は無難なスキルでいいんだ。ってかスキルに興味はないし。」


「なぁに格好つけてんだぁ!!お前なんかどうせ雑魚スキルだ!ザックの雑魚スキル!」


「あひゃひゃ。キンダルさん面白いっすね!最高っす!」


本当は面白くないクセに顔ひきつってるのバレバレだってーの...。


「そうだろ、そうだろ!俺たちが先に神託の儀受けるからザックゥお前は一番最後な!!」


「....。」


「返事はどうしたぁぁ!?」


「...わかった。」


神託の儀の順番なんてどうでもいいんだよ。

あぁ....早く帰って寝たい。


俺はキンダル達の後に付いていった。

もう神託の儀は始まっていて大半の同世代がスキルをもらっている。

レアなスキルはまだ出てないみたいだった。


「次は居ないのか...?」

神父さんが言うと、


「俺たちまだ受けてないぞ!」


「早く来なさい!」


「ちっ!偉そうに...。俺から行ってくるわ。」


キンダルが神父の前に立つ。


「この魔法の玉に触りなさい。」


キンダルが魔法の玉に触ると淡い光が放った。


「....よし。神よ。.......汝に祝福を与えたまえ...。おぉ、素晴らしい...。

キンダル。

そなたのスキルは上級斧術だ。おめでとう。」


「さすが、キンダルさんっす!!」


ここに来て初めての上級スキル。

意気揚々とこっちに帰ってくる。


「俺ぐらいになるとこんなもんだ。へへん。

おら!お前達もさっさと行ってこい!」


「「はい!!」」


キンダルの金魚の糞達も神託の儀を受けたが、探索術、回復術、剣術と平凡なスキルに終わった。


「ザックゥゥ!!次はお前だぁ!早く行ってこい!どうせショボいスキルだから精一杯笑ってやるぜ!!」


お前に言われなくても行くし...

本当にいちいちうるさい奴だな...。

うるさいのはうちの両親だけでいいわ...。



クシュン!

??

タイアードとアメリアは同時にくしゃみした。

「誰か私たちの噂しているのかしら?」

「多分な...。」



俺は神父さんの前に行った。


「君は...タイアード殿とアメリアさんの息子だね?」


「...はい。ザックと言います。」


「そうか...。もうそんなに時が経ったのだな...。」


???

この神父さんは両親の知り合い?

こんな人家に来たこと無いけどな...。


「ザック君。この魔法の玉に手をかざしてくれないか?」


「は、はい。」


考え事してた俺は一瞬ハッとしたがすぐに意識を現実に戻して魔法の玉を触った。


あれ?

全然光らないな...?

キンダルの時は淡い光が光ってたのに...。

ってことは俺は平凡スキルゲットかも!


「神よ...。神の祝福を汝に与えたまえ。」


神父さんがそう言った瞬間だった。

魔法の玉が眩しいくらい光った。


「な、なんだこれは...。こんなことは今まで一度もなかったぞ。」


神父さんも驚いている。

しばらくすると光が落ち着いてザックの神託の儀が終わった。


「こ、このスキルは!?」


「何なんだ!!早く言えよぉぉ!」


キンダルは大声をあげる。


「ザ、ザック君のスキルは....。」


「スキルは?」


「[糞を踏む者]だ。」


「はっ!?」


「へっ!?」


俺も変な声が出た。

何だよ...。[糞を踏む者]って...。

それはスキルじゃなくて称号だろ。

ってかくそを踏むって....。

めっちゃ恥ずかしいだけど。

何なんだよチクショウ。

やっぱ来なきゃよかった...。


俺が変なスキル授かった事でイライラしていると、

そこにキンダルが近づいてきた。


「ひゃぁーはっはっはっはっは。糞を踏むって何なんだよ!?マジ受ける!雑魚ザックから糞ザックにランクが落ちたな。あはははは!」


「あはははは!マジウケるっすね!糞ザック!」


キンダルと金魚の糞達は俺をバカにしてくる。

その笑い声が俺の中にある我慢したものの紐を緩め始めた。


「君たち!止めなさい!!

ザック君は特別なユニークスキルを授かったんだよ。

まぁ名前はアレだけど...」


特別?こんな恥ずかしいスキルなのに....。


俺が気落ちしているとキンダルが言葉の追い討ちを掛けてくる。


「でも糞を踏む者って...。....ぷっ!!

あははははは!!ダメだ面白すぎるぅ!!

今度から雑魚ザックじゃなくて糞ザックって呼ぶな!!あはははははは!!」


もう好きに呼んでくれ。

俺はどうでも良くなっていた。


「あははははは!!ザックゥゥ!!

お前が糞ならお前の両親は何なんだろうな!?

糞じゃなくてゴミだろうな!!あはははははは!!」


キンダルがそう言った瞬間俺の中で何かが切れた。


「おい...。今何て言った....?

...もう一回言ってみろ。」


「おっ?なんだ?

糞ザックのクセに怒ってるのか?

そんなに聞きたいなら言ってやるよぉぉ!!

お前の両親はゴミ....ぶぇぁ!?」


言い終わる前に俺はキンダルを殴っていた。

そして倒れたキンダルの顔を俺は何度も足で踏んだ。


「おい...。キンダル...。もう一回言ってみろよ...。」


何度も何度も執拗にキンダルの顔を踏んでる俺。

その以上な光景に周囲の人達は恐怖で動けないで居た。

キンダルの金魚の糞達もだ。


「おい...。キンダル...。俺の両親が何だって...?」


「しゅ、しゅみましぇんでひた...。」


「あ?聞こえないぞ!キンダル...。」


「しゅみましぇんでひた...。ゆるひてくだしゃい...。」


顔を踏まれてるキンダルはまともに喋れない中必死に俺に謝ってくる。


「俺の事はいい...。次に両親の事をそんな風に言ってみろ。お前を踏み殺すぞ...。」


「はひ...。もういいましぇん...。」


泣きながら謝るキンダルに俺は足を退けて、


「もう行け。」


そう言うと逃げるように俺の目の前から消えていった。


「キ、キンダルさん!!待ってください!!」


金魚の糞達もキンダルの後を追って行った。


俺は一体何を...。

まるで自分じゃない感覚に陥った。

そんな俺の元に神父さんが近づいてくる。


「ザック君。多分だけどスキルが発動したんだよ。」


「スキルが?何で?」


「君のスキルは[糞を踏む者]だろ?

さっきの子...えっとキンダルだったかな。

彼が胸糞悪いことを君に言ってたよね?」


「は、はい...。」


「その胸糞にスキルが反応したんじゃないかな?」


「そんな事で反応するんですかね...?」


「それは神のみぞ知るかな...。

スキルは神の力の一部だから私には何も言えないんだよ。

一般スキルなら解析が出てるんだけどね...」


「そうなんですね...。分かりました。」


「そんな気落ちしないで!

君のスキルは君にあったスキルのはずなんだから。」


「はい...。色々ありがとうございました。」


俺は教会を出てトボトボと歩き出した。


まさか、こんな変なスキルもらうなんて...。

一体俺が何をしたって言うんだ...。

神様のバカヤロー...。


家に近づく度にザックの気持ちはどんどん下がっていった。

そして、家の前に着くと怒鳴っている声が聞こえる。


「お宅の息子にヤられたんでございますわよ!!

私の可愛いキンダルちゃんの顔をこんなに腫らすなんてどういう教育しているんざますの!?」


「奥さん。落ち着いてください...。

うちの息子には重々言っておきますから...。」


キンダル親子がうちに怒鳴り込んできたのだ。

成人してて親同伴で文句言いに来るってどんだけ甘やかされているんだよ...。

子が子なら親は親だな...。

しかも、キンダルは大袈裟に松葉杖ついて包帯をグルグル巻きにしてきた。

腕とか足に何もしてないし、完全に金を揺すってくるんだろうな...。はぁ~...。


俺は深くため息をつく。


それにしてもキンダルの奴まだ懲りてないみたいだな...。

俺はわざとらしく親子の前を通る。


「ただいま。どうしたの...?何かあった?」


俺がそう言うとキンダルが怯えてキンダル母の後ろに隠れた。

怖いなら来なきゃ良いのに...。


「アンタねぇ!?うちのキンダルちゃんをこんな顔にしたのはぁぁ!!」


「...そうだと言ったら?」


「謝罪しなさい!!そして慰謝料よ!!

ここまで怪我させたんだから当然よね!!」


ほら来た...。

親も糞野郎だな...。

俺はキンダル親子を睨む。


「な、何よ...。やるっていうの...」


俺が足を一歩近づこうとすると、


「コラァァ!!ザック!ダメでしょ!!

弱い者いじめなんかしちゃ~!」


「母さん。弱い者イジメなんかしてないよ...。

ちょっと嫌な事を言われてさ。

だよね...。キンダル?」


怯えたキンダルは高速で頷いていた。


「...それに何だい?その手と足は...?

君は教会から走って帰ったじゃないか?」


俺がそう言うと怖くなったのか一目散に走って逃げ出していった。


「あっ!?ちょっとキンダルちゃんどこ行くのぉ!?アンタ達覚えてなさいね!!」


そう言うとキンダルの母も足早に去っていった。

何だったんだ一体...

はぁ~。俺は呆れたように溜め息を付いた。


「ザック。話があります。家の中に入りなさい。」


説教か...めんどくさいな...。

俺は母アメリアの後ろをついてリビングの椅子に座った。


「ザック。何があったか包み隠さず言いなさい。私には嘘は通じないからね。」


いつも以上に真剣な眼差しで見てくる母に嘘は言わないで真実を話した。


「......って事だったんだよ...。殴った事は事実なんだ...。」


「成る程...。少しそこに座って待ってなさい。」


母さんは席を立つと外に出た。

そして、数分後に親父と一緒に帰ってきた。


「ザックゥゥ!!」


父タイアードは大きな声を上げ家に入ってきた!!

ドガッ!!

勢い良く扉が開く。

終わった...これは完全説教だな。


「ザックゥ!!良くやったぁぁ!!

さすがは自慢の息子だ!」


「エッ!?」


俺は怒られると思ってたから親父の発言にビックリした。


「いきなりそんなことするんだから良いスキル貰ったんだろ?」


親父は笑顔で言ってくる。

俺は恥ずかしくて言いたくはないし、そんな良いスキルだと思っていない...。

俺が

黙っていると母アメリアが、


「この子のスキルは[糞を踏む者]。

私たちと一緒でユニークスキルを貰ったの!!さすが自慢の息子ね!」


えっ....。

アメリアの反応も思ったのと違うし、なんでスキルの事を知っているんだろう...。

まだ言ってないのに...。


「フフン。なんで知っているの?って顔をしているわね。

私のスキルは[看破する者]って言うユニークスキルなの。

お母さんには何でもお見通しなのよ!」


マジか...。

じゃぁ今までいい子の仮面を被ってきたのもバレバレだったって事?

だるぅ~...。

なんか急にバカらしくなってきた..。


「それじゃ父さんのスキルは?」


「ん!?俺か?俺のスキルは....」


やけに貯めてくるな。

ま、まさか[勇者]とか、ものスゴい スキルなんじゃ...。


「[どこまでも早く走る者]だ!!」


「は!?」


俺は驚きのあまり顎が外れそうな位に口が開いた。

なんだよそのしょうもないスキルは...。

貯めてまで言うスキルじゃないだろう...。


「ほらほらアナタ!ちゃんと説明しないとザックがあんぐりしているわよ。」


「あぁ...。すまんすまん。

このスキルはいいぞ!なんたってどこまでも早く走れるからな!」


「アナタ!バカなの?もういい。

私が説明するわ。

父さんのスキルの良い所は、一緒に居る人のステータスまで影響するの。

だからザックのステータスもかなり高くなってるわよ。スピードとスタミナが特に。」


あぁ...。

あの地獄のマラソンのせい?おかげ?か...。

だからキンダルを殴ったときに、

ものスゴいスピードで距離を詰められたのか。

タイアード...。親父ながらおそろべし。


「ところで、ザック。お前この先どうするんだ?」


タイアードが真剣な顔で言ってくる。


「どうって?特に何も考えてないけど...。」


「お前も成人なったんだ。

いつまでも家に居てもしょうがないだろう。

やりたい事とか好きにやって良いんだぞ。」


「そうね。ザックにも私達の様に世界を回って色々見て立派な人になって欲しいの。」


立派な人か...。

俺にはなれるとは、思わないけどな...。

スキルも[糞を踏む者]だし...。

でも、両親にはこれ以上世話になるわけにも行けないしな...。

旅か...。

自由気ままに生きるのも楽しいかもな。


「わかった。やりたい事を探しに旅に出る。」


「良く言った。さすが自慢の息子だ!」


「そうね!私達の自慢の息子ね!

今日はゆっくりしてね!旅の準備は私がするから!」


「いや、自分の準備は自分でするよ。」


「ダメ!私がする!」


「ザック。母さんの言うことは聞いておけ。」


「わかったよ。頼むね、母さん。」


「うん!任して!

よし、これから買い物行って夜ご飯の準備するから~!期待しててね!」


そう言うと母アメリアは外に出掛けていった。

取り残された2人。

急に親父と2人にされると何を話せば良いのか...。

そんな事を考えていると、


「ザック...。外に出ようか...。」


「え?う、うん。」


いつもとはトーンの違うタイアードの声に少し驚きながらも後を付いていった。


家の横の庭に着くとタイアードから木剣を渡され構えてきた。


「さぁ、やろうか...。」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!何で急に戦う事になってんだよ!」


「何でって...お前。

旅に出るなら自衛位できないと死ぬからだよ。その為に訓練は必要だろ?」


「死ぬって...大袈裟な...。」


「大袈裟じゃないぞ。この町を出たらモンスターは出るんだ。

戦いを知らない奴が何人も死んでるのを俺は見ているからな。

俺はお前に死んで欲しくないから鍛えるんだ。」


「いやいや、明日旅に出るのにこんな付け焼き刃でなんとかならないでしょ!?」


「ん?そんな事ないぞ。基礎ならもう教え終わってるからな。」


「は?基礎なんて教わってないけど...。」


「まぁ、伝えずにやらしてたから当然か...。

ザック!大丈夫だ!構えてみろ。しっくり来ると思うから。」


本当かな...。

俺は半信半疑で木剣を握ってみる。

初めて握るのにやけにしっくり来る。

なんか変な感覚だ...。


「ほら、しっくり来たろ?」


「う、うん。」


「よし、なら大丈夫だな!遠慮なく打ち込んでこい!」


「行くよ!!」


俺は木剣を強く握り、タイアードに突っ込んでいく。

そして思いっきり上段から振り抜いた。



ガツーーン!!


剣と剣が強くぶつかった。


「いい撃ち込みだ!!だが。」


がら空きになった俺のボディにタイアードの蹴りが飛んできた。

俺は瞬時に判断してバックステップで避ける。


「いい判断だ。今の蹴りを所見で避けるなんて中々出来ないぞ。俺も本気で行く。」


いやいや、本気で来るなよ...。

いくら木剣でもまともに喰らったら死ぬって...。

旅に出る前に、天国に旅立ってしまうよ。

母さん、先立つ不幸をお許し下さい。


俺はそんな事を思いながらタイアードと対峙する。

それから2時間ほどノンストップで打ち合った。

結果、お互いマトモに攻撃を喰らう事もなく終了となった。


「ザック。お前スゴいな...。これなら安心して旅に出せるわ。」


「ハァハァ...。そりゃどうも...。」


俺には2時間も撃ち合って息切れ一つしてない親父の方がスゴいと思う...。

ってか本当はバケモノじゃねーかなとさえ思った。


「ザック!これ餞別な!」


タイアードは1本の剣を俺に渡してきた。


「これは?」


「その剣は俺が素材を選んで知り合いに打って貰ったザックに合うオリジナル剣だ。

せっかくだから抜いてみろよ!」


そう言われて鞘から剣を抜いてみる。

その剣は不思議な輝きを放っていた。


「なんかスゴいね...。」


「そりゃそうだろ!この剣を打ってくれた俺の仲間が最高の出来って言ってたからな!

ザック...。

もしお金に困ってもこの剣は売るなよ...。」


「売らないよ!!

俺は父さんと違って無茶はしない堅実主義だから大丈夫。」


「そうだよな....。

ザック...。ギャンブルと女とお酒には気を付けろ」


そう言ったタイアードの背後から鬼の形相をするアメリアが立っていた。


「貴方...。ギャンブルと女がなんだって...。」


ボキボキッと指をならしながらアメリアはタイアードに近づく。


「ちょっと待ってくれ...。母さん落ち着けって!今俺の若い時の失敗をだな...。」


「やかましい!!天誅!!」


ドゴォォーン!!


アメリアの右ストレートが綺麗にタイアードの顔面を捕らえる。

殴られたタイアードは回転しながら空高く舞った。


これは死んだな...。

親父無念...。


「さぁさぁザック。あんなバカほっといて家に入りましょ。」


「う、うん。」


あの親父が一撃で沈むとは、アメリア恐ろべし...。

それにしても何でアメリアはこんなに怒っているのか...?

俺には理解できなかったが怖くて聞けなかった。まぁ、聞いた所でしょうもなさそうだから聞かないが。


家のリビングに入るとアメリアは料理を始めたので俺は水浴びをして汗を流した。

さっぱりして出ていくとタイアードがアメリアに土下座していて弁明をしていたので、俺は自分の部屋に行ってベットに寝転んだ。


明日からは一人か....。

そう考えると少し寂しい気持ちになった。

両親は俺が寂しがらないようにいつも笑わせてくれたし、若干過保護気味だったが本当両親の間に産まれて幸せだった。

そんなこと考えてると自然に涙が頬を伝う。


ダメだ、ダメだ!!

泣くのは今で終わりだ。

明日からは泣いてはいられない。

俺は涙を脱ぐって深呼吸をした。


俺が落ち着いた頃、


「ザック~!!ご飯出来たわよぉ~!早く来なさい!」


「うん!今行くよ!」


俺は部屋を出てリビングに行った。

食卓には普段よりも豪勢な料理が並んでいた。

親父とも仲直りした見たいで期限が良くなっていた。

あんな勢いで殴られた親父の顔は腫れの一つもなくニコニコしていた。

どういう防御力してんだか...。



「ほらほら、ザック。早く座って。」


「う、うん。」


俺が着席するとグラスを持った親父が、


「息子の新たな門出に乾杯~!!」

「乾杯~!」

「か、乾杯。」


さっきお酒には気を付けろと言った親父はエールをグビグビ飲んでいる。

殴られた衝撃でさっきの記憶飛んでいるのか?

不思議な親だ...。


「そうそうコレ。ザックに私からのプレゼント。旅をするなら。格好良くないとね。」


広げて見ると黒をメインとした。

格好いい服とコートだった。

さすがタイアードと違ってセンスがいい。

一回タイアードが買ってきた服はセンスの欠片も無いようなだっさい服だったもんな。

あれ以来自分で買っていたけど、

アメリアとは感性が似ているのかもな。


「私の知り合いに作って貰った魔法の服一式。

付与は私が色々したから。便利よ!

だけど、お金に困っても売らないでね。

売られたら母さんショックで倒れてしまうかも...。」


「売らないよ!

どんだけお金に困るの事があるのさ!」


タイアードと同じ事を言ってくる。

うちの両親は似た者同士なんだな。

それは仲良いわけだ。

さっきのケンカ?も仲がいい証拠みたいなものか...。


「なんの付与が付いているの?」


「フフン!それは内緒~!旅をしながら母の愛を感じてみてね。」


「なんだよ...。それ...。」


うちの両親はブッ飛んでいるからな...。

鑑定屋とかあったら見てもらってもいいな。


「さぁさぁ、ザック!冷めないうちに食べましょ!」


「うん!頂きます!」


パクっ!


「母さん美味しいよ!!ありがとう。」


「良いのよ...。しばらくは私の手料理食べれなくなるんだから、お腹一杯食べてね!」


「うん!!」


「母さんの料理は本当世界一だな!」


「アナタったら大袈裟なんだから...。」


アメリアは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

本当にラブラブな事で何より。

近いうち弟か妹が出来てそうだな...。

楽しみにしてよっと。


「そうそうザック。コレお前のカード作っておいたから。」


「カード?」


「あぁ。旅をするにも暫くしたらお金もなくなるだろう。そうならない為に仕事をする必要がある。コレは冒険者カードだよ。

全冒険者ギルドで使えるから便利だぞ~!」


「えっ?俺登録してないけど...。」


「アメリアにザックの能力を聞いて成人になった瞬間、俺が勝手に発行した。」


「そういうのって本人居なくてもいいの?」


「何言ってるんだ?無理に決まってるだろ!

俺がこの町の冒険者ギルドの長だから出来るって事だ。」


「は?父さんギルド長なの?」


「そうだぞ!ってか言わなかったっけ?」


「聞いてないよ!

仕事の事なんか話さないじゃないか!」


「そうだっけか?まぁ、気にするな。

俺がどうであれザックはザックだろ?」


「そうだけど...。

何か釈然としない...。って言うと母さんも何か仕事してるの?」


「ザックは母さんの仕事も知らんのか!?

母さんの仕事は...。」


とタイアードが言おうとしたとき、テーブルのしたの方で打撃音が聞こえた。

タイアードは膝を抱え悶えている。


「母さんは専業主婦よ...。」


「いや、今父さんが何か言おうと..。」


「専・業・主・婦!です...。」


「そうだよね...。」


俺は絶対違うと思ったがこれ以上聞くのをやめた。


怒らしたらタイアードの二の舞になりそうだからな....。


「ふぅ~。いててて...。膝が吹っ飛んだかと思ったよ。母さん!ナイスキック!」


親指を立てて笑顔でアメリアに言っている。

この親父バカだ...。

まぁこの明るさが俺は好きだけど。


「ザック。とりあえず冒険者カードに旅の資金を少し入れておいたが自分でも稼がないとな!

男は働いてなんぼだ!」


「うん!わかったよ。」


働かざる者食うべからずって事か。

まあそうだろうな。


その後、俺たちは楽しく食事をした。

両親の旅の話やら馬鹿話やらしてタイアードはソファーで潰れた。

俺はそっと毛布をかける。


「母さん。洗い物は俺がするから休んでいて。」

「あら、そう...。うん。今日は甘えちゃおうかな!」


そう言うとアメリアはテーブルに座って分厚い本に書き物を始めた。

俺はせっせと洗い物を終わってリラックス効果のあるハーブティーをアメリアに出した。


「ありがとう。ザック今日は疲れたでしょ?

もう休みなさい。

明日から旅に出るのに、疲れを残してたらいい旅路にならないわ。」


「うん...。そうだね。じゃぁそろそろ寝るね。

あんまり根を詰めすぎないようにね。」


「ありがとう。ザック、おやすみなさい。

私の愛しの息子。」


「うん、おやすみなさい。」


俺は少し照れながら部屋に入った。

明日から旅か...。

何があるんだろう、まだ見ぬ土地、景色、冒険そんな事を考えるとワクワクして寝れそうにない。


.....。

..........。

............グーグー。


そんな事はなかった。

今日一日、目まぐるしく色々あったせいでザックの疲労はピークを向かえてて目を閉じた一瞬で深い眠りに落ちた。


その頃アメリアはイビキを豪快にかいてるタイアードの横で、


「出来た!ザックはビックリするだろうな!

明日か...。子供の成長は本当に早いわね...。

まぁ可愛い子には旅をさせろって言うし、ザックの旅が良いものになるといいな。

ねぇ...アナタ。」


「ガァーー!ガァーー!」

タイアードはイビキをかいて寝ている。


「本当に子供なんだから...。」

アメリアは魔法でタイアードの身体を浮かせベッドまで運んでいく。


「ふあぁぁ。私も寝よっと...。」


アメリアもベッドに入って眠りについた。

イビキがうるさいので沈黙の魔法をタイアードに掛けて。








翌朝。


「ザックゥゥ!!いつまで寝てるの!

今日は旅立ちの日でしょ!!

いい加減起きなさい!!」


「うるさいな....。

もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか...。」


「起きないとどうなるか....。わかってるよね...。」


俺は瞬時に起きた。


「ハ、ハイ!!今起きます!いや起きました!」


「宜しい。顔洗って朝食食べてしまって。」


「ハイ!」


俺はキビキビと顔を洗い食卓について朝食を食べ始めた。


「あれ?父さんは?」


「父さんは庭で日課の素振りしてるわよ!

朝から本当に元気よね。」


「本当に...。」


毎日毎日、本当にスゴいな...。

そういう勤勉な所は俺も少しは見習うべきなのかも知れない。

まぁ無理だけど...。


「ザック!これ。」


アメリアが渡して来たのは本だった。


「母さん。何これ?」


「魔導書よ!昨日やっと完成させたの!」


「魔導書!?」


「魔法を覚えると便利よ。

幸いザックは魔法力もあるから読めば覚えられるわよ!」


「いやいや...。魔法なんて使ったこと無いけど。」


「初級から上級、生活魔法まで書き下ろしたの。試しにここの所、読んでみて。」


「これは水の魔法?」


「そう。このコップに手をかざして魔導書に書いてあること詠唱してみて。」


俺はアメリアの言う通りにしてみる。


「我。水の神アクエリアスの御加護の元、恵みとなる水を産み出す。ウォーター。」


初級だし、大したことはないんだろうな...。

コップ用意されてるくらいだし。

そう思っていると全身に何かが廻り、手に集まって放たれた。


来たか!?




........。

.............。


チョロチョロ....。




俺の手からコップに水が少しづつ流れて行った。

何だコレ...。ショボッ!


「成功ね!よかった。

才能があっても出来ない人も居るのよ。

魔法は詠唱も大事だけど、イメージが一番大事なの!

ザックは初級だからこんなもんだろうとイメージしたから出来たんだと思う。

慣れてくるとイメージだけで無詠唱でも出来るようになるから。」


「....う、うん。」


「水は大事なのよ!水辺の無い所に行ったら貴重なんだから。美味しいから飲んでみなさい。

魔力で少し甘くなってるハズよ。」


俺は言われた通りに自分が出した水を飲んでみた。


「旨い!!何だコレ!?」


「でしょ!?旅には水は大事なの。

後、魔法力が上がれば威力も上がるから毎日練習してね。

あっ!魔力の残量には気を付けて。

魔力欠乏症(マインドダウン)になると気絶しちゃうから、モンスターと戦う時には気を付けて。」


「そんなのどうやって測るの?」


「魔導書に[鑑定]っていう魔法があるから後で覚えて自分に掛けて見なさい。自分のステータスが分かるから。」


「うん、わかった!母さんありがとう。」


「食べ終わったら着替えて行く準備してきなさい。」

「うん。」


俺は朝食を終わらせて部屋に行き母アメリアがくれた服に着替えた。

サイズもピッタシ。それにやけに軽い。

何の素材で出来ているんだろう?

聞くのが怖い...。

そして、親父タイアードから貰った剣を腰に納めた。

全身鏡で見てみると、いっぱしの冒険者見たいで格好いい。

実力は見合ってないだろうが...。


着替えが終わってリビングに戻るとタイアードの姿もあった。


「おう!ザック!カッコいいじゃねーか!」


「父さん。ありがとう。」


「うん!バッチリ決まっているわ!我が子ながら惚れ惚れしちゃうわ!」


「ありがとう。母さん。」


「はい。これの中に色々入っているから。バックをなくさないようにね!って言っても魔法が掛かっているからザックと私しか開けられないんだけどね。

マジックバックだから何でも入るよ!

10トン位は入るんじゃないかな?」


「マジックバック!?

それってめちゃめちゃ高級なんじゃ?」


「良いのよ~!こんなの持っている中では小さい方だし!

もっと大きいの欲しくなったら!

頑張って自分で手に入れなさい。

いくらザックが可愛いからってこれ以上甘やかすと近所の奥さんに過保護なんて言われちゃうわぁ!」


「そ、そっか...。うん。自分で頑張るよ...。」


充分過保護だけどね...。

まぁ、もらえるものは貰っておこう。俺はそのマジックバックに魔導書を入れて両親を見た。


「これから言ってくるね。父さん、母さん。

体には気を付けて、元気でいてね。落ち着いたら会いに来るから。」


「おう!ザック!頑張れよ!」


「ザックゥ~!!いつでも帰ってきていいんだからね!」


「それじゃ旅にならないでしょ!

じゃぁ、行ってきます!」


俺は家の扉を開けて歩いて行く。


後ろから両親の「やっぱり行かないで~!」という声を聞かないように俺は振り向かずに歩いた。

声が聞こえなくなって一つ息を吐く。


[糞を踏む者]なんて言うスキルを貰った俺だったが過保護な両親のお陰でいい旅が出来るんじゃないか?

いい天気でお日様も味方してくれている様だ。


町の入り口来た。

ここから始まるんだ。

俺の旅が!俺の俺だけの冒険が!

一歩町の外に踏み出す。




ムニュ。





「....ムニュ?」


俺は足元を見た。

そこには産みたてホヤホヤの糞があった。



「......。

ダァァァァァァァァァァァァーー!!

何故こんな道の真ん中にあるんだ!!

最悪だ...。

本当にクソスキルじゃねーかよ!!」


俺はウォーターの魔法でブーツを洗い、

また一歩踏み出す。




ムニュゥ。



「ダァァァァァーー!!まただ!!

アァーもう嫌だ!!クソォォー!!」




[糞を踏む者]


そんなスキルを授かったザックの前途多難の物語はこれから始まっていくのだった。





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