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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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濁流の中で ⑤



「モンタックの蜂蜜亭」を出た【鷹の爪】一行はその足で金羊(アフィティビトス)のダンジョンへと向かう。

「一度、冒険者ギルドに行かずに済むのは楽だよねー。」

ハーザーが歩きながら他のパーティーメンバーにそう言う。

「そのせいで最近は金羊(アフィティビトス)にばかり行っているがな。楽に越したことはない。」

ユーグがそう言ってハーザーに同意する。

冒険者ギルドにはいくつか特例があり、パーティー【鷹の爪】は単独で8層階に到達したことで、毎度ギルドで依頼書を提出する必要のなくなる特例の対象パーティーに認定された。

「パーティーを組んでることの利点だよな。これに関しては潜入メンバーが毎度固定できない大規模クランにはできないことだ。実際、特例の対象になってるは俺ら含めて5つのパーティーだけだし。」

そう言ってコリンも頷く。

コリンの言う通り、毎回ダンジョンの潜入メンバーの違う大規模クランは特例の対象にはならず、そのために大規模クランはその拠点をヴィルトゥスの街の中心近くに構えていたりする。



そんな話をして歩いていると金羊(アフィティビトス)のダンジョンに到着する。

5人がダンジョンの入り口へ続く階段を登っていると、白銀の髪をなびかせるオドの見知った人物が仲間達と共にオドの前を横切っていく。

「お、噂をすれば“特例持ち”パーティーの登場だ。」

コリンも“彼女達”に気づいたようで、前方を歩く女性5人組のパーティーを指さす。

そこには有望な若手冒険者(プロスペクト)ランキング不動の1位、ユキの所属するパーティー【エレメンタル・ミューズ】の5人がいた。

「ああ、そうだな。」

ユーグの声が少し低くなる。

「確かにランキング1位になるだけあってオーラがあるよね。あれで確か15か16歳でしょ?」

ハーザーもそう言って彼女たちに目を向ける。

「でも、18歳の前に冒険者になっているってことは、この街の出身って訳ではないみたいだな。」

「え。」

コリンの言葉にオドが固まる。

オドはユキがライリーの娘であると聞いていたため、てっきりユキがヴィルトゥスの出身だと思い込んでいた。オドはここにきて初めてユキがオド同様にオドと同じく18歳を待たずに冒険者となっていることに気付く。

「どうした?」

急に驚いた表情を浮かべるオドにコリンが不思議そうな顔をする。

その時、前を歩く【エレメンタル・ミューズ】のメンバーも後ろを歩くオド達【鷹の爪】の存在に気が付いたようで、5人の方に目線を送る。

「やべ、気付かれた。」

「いや、別に気付かれてもいいでしょ。」

「そろそろダンジョンの入り口に着くから切り替えろよ。」

何故か焦るコリンにハーザーが突っ込み、それをカルペラが諭す。

ユーグは相変わらず熱い視線を前の5人、特にユキに向けている。それに対してユキは薄い表情のまま冷めた視線をこちらに向けるが、途中でオドに気付き軽く会釈をする。

「知り合いだったのか?」

オドも会釈をするとコリンが聞いてくる。

「はい。ちょっとした縁で。」

「そうだったんだ。いいじゃない、数少ない同世代冒険者だね。」

ハーザーがそう言ってオドの肩を叩く。

そんなことをしてるうちに5人はダンジョンの入り口に到着し、パーティーの先頭を歩いているユーグが立ち止まる。

「ついたぞ。さあ、行こう。」

ユーグがそう宣言し、今日もオド達のダンジョン攻略が始まった。



「やっぱり明らかにモンスターの量が多いな。」

モンスターの一群との戦闘を終えてユーグが呟く。

「そうだな。今日で7層階は大体回り切ったが、8層階に行くのはやめておくか?」

「いや、行こう。」

コリンが聞くとユーグが即答で返事する。

皆もユーグに同意し、【鷹の爪】の面々は8層階へと歩みを進める。

「~~~♪」

オドが8層階に降りると、聞き覚えのある歌声が聴こえてくる。

しかし、すぐにモンスターが発生し戦闘が発生する。モンスターの発生が多いのは8層階も変わらないようで、むしろ他の冒険者の少ない深い層の方が戦闘が多いといえた。

【鷹の爪】は安全マージンを取りつつ戦闘を続ける。

しばらく戦闘を続けていると、どんどんとユキの歌声が大きくなってくる。

歌声はダンジョンの壁に反響して響くようにオドの耳に届く。しかし、他のパーティーメンバーに聞いてもオド以外に誰もその声を聴いた者はいなかった。

それでも、歌声はどんどん大きくなり、遂には音の聴こえてくる方向までも分かるようになった。

「来るぞ!!」

しかし、再びオド達の前にモンスターの一群が出現し戦闘が始まる。

オドとユーグが遠距離攻撃でモンスター達の体力を削りつつ、カルペラが大盾で待機をする。

「3、、、2、、、1、、、いま!!」

ハーザーがモンスター直撃のカウントダウンをして、オドはカルペラの大盾の後ろに移動する。

鈍い音と共にカルペラがモンスターの衝撃を受け止めると、同時にコリンとオドは一気に飛び出しして白兵戦を仕掛ける。その間、ハーザーがユーグの様子を確認しつつオドとコリンをサポートする。

「退避!!」

ハーザーが叫ぶと、それに合わせてオドとコリンが飛び退き、その直後にはその場をユーグの魔法が焼き尽くす。最後に飛び退きざまに戦槌を弓に持ち替えたオドが矢を放って最後のモンスターを仕留める。

戦闘が終わり、(はじ)けるモンスターの粒子を見るオドに視界の端を白い輝きが一瞬だが、横切る。ユキ達だ。

「ダンジョンですれ違うのは珍しい。」

ユーグも気付いたようでそう呟く。

オドの視界に映ったユキの傍らには、まるでオドの「コールドビート」のように様々な色の光粒を湛えた剣があったように見えた。


ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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