濁流の中で ③
オドが階段を登り3階に着くと、たまたま廊下を歩ていたメイドと目が合う。
「こんにちは。」
「こんにちは、オドさん。ライリー様なら執務室にいらっしゃいますよ。」
メイドはそう言ってオドにライリーの居場所を教えてくれる。
オドはメイドに感謝を述べると執務室へと歩いていく。
オドが執務室の扉をノックして中に入ると、ライリーはオドを待っていたかのように来客用のソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
「こんにちは、オド君。」
ライリーはオドにそう言うと、オドをソファーに座るように促して、自分は立ち上がる。
「ここで君と話すのは、久しぶりだね。」
そう言ってライリーはオドに紅茶を差し出す。
「ありがとうございます。」
オドが紅茶を受け取ると、ライリーはオドと向き合うようにソファーに腰を下ろす。
「いい仲間と巡り会えたみたいで良かったよ。」
「ありがとうございます。」
オドはいまいち緊張が抜けず、ぎこちない返事をする。
「ははは、そんなに固くならなくていいよ。ところで今日は何の用だい?」
ライリーは笑ってそう言うと、見透かしているような目をオドに向ける。
「はい、ライリー様にお借りしたお金を返しに来ました。」
オドはそう言うと、さきほど仮面フクロウの魔石の報酬として受け取った100万トレミの内60万トレミを机の上に出す。
「そうだと思ったよ。まさかこんなにすぐに返されるとは思わなかったよ。」
ライリーは机に置かれた金貨を数え、しっかり60万トレミ分受け取ったことを確認する。
「それじゃあ、約束通り、これは君にお返ししよう。」
ライリーが黒い漆塗りの木箱を書斎の裏から出してくる。
ガラスの蓋越しに見える『コールドビート』はオドが預けた時から変わらずに紫金色の刀身を湛えている。オドは久しぶりに見た自らの剣の放つ威厳に鳥肌が立つのを感じる。
「、、、、。」
「それじゃ、蓋を取るぞ。」
しばらく『コールドビート』を無言で眺めるオドにライリーが声を掛ける。
しかし、それを遮りように、オドはライリーの目を見て首を振る。
「どうかしたかい?」
「この蓋を開けるのは、何となく今じゃない気がします。」
「ほう、それは以前言っていた魔剣の力に頼らないようになりたいという事かな?」
ライリーが興味深そうに尋ねると、オドは少し複雑そうな表情をする。
「本当に必要な時にはこの剣を抜くという意味ではその通りなんですけど、それよりも、この剣に見合う実力を身につけないといけないような、そんな気がするんです。」
「そうか、そうか。」
オドの言葉にライリーは何回か頷いて見せる。
「ならば、オド君には、この木箱の鍵を渡そう。君が必要だと感じた時、君がこの剣に見合ったと感じた時には、いつでもここにきて剣を持ち出すことを許可しよう。」
ライリーはそう言ってオドに一本の鍵を差し出す。
「我儘を言ってしまい、申し訳ございません。」
オドはライリーから鍵を受け取ると、ライリーに深々と頭を下げる。
「うむ。失くさないようにな。」
ライリーはそう言うと執務机に座ると、呼び鈴を鳴らす。
すぐにメイドの1人が執務室に入ってくる。ライリーはメイドに木箱の鍵を首から掛けられるネックレスにできるようにして欲しいと伝える。メイドはすぐに準備にかかり、それを待っている間、ライリーはオドにヴィルトゥスでの出来事やダンジョンでの体験談、キーンの思い出などを話してくれた。
「お待たせいたしました。」
30分程でメイドが首から掛けれるように鍵を仕立ててくれる。
「わざわざ、ありがとうございます。」
オドがそう言って鍵を受け取り、それを首から掛けてみる。
オドが元々首から掛けているタマモの指輪のネックレスと当たらず長さは丁度よかった。
「これで大丈夫、です。ありがとうございます。」
オドは改めてライリーとメイドに感謝を述べる。
メイドが執務室から下がると、ライリーが執務机から立ち上がる。
「さて、オド君もそろそろ帰らないとね。もう陽が沈み始めている。」
執務室の窓には夕日で朱く染まるヴィルトゥスの街並みが見えた。
「オド君。」
オドが執務室から退出しようとした時、ライリーから声が掛けられる。
オドが振り返ると、ライリーが口を開く。
「オド君、もしも君があの剣に見合うようになりたいなら、まずは殿堂冒険者を目指すと良い。あの剣はキーンが全てのダンジョンボスを撃破して殿堂冒険者になった時に、キーンと共にあった剣だ。」
「はい。」
オドは最初からそのつもりだったため、ライリーに頷く。
「そのためには、万能な冒険者にならなければならない。些細なアドバイスではあるが、パーティーでの攻略の他に、まずは2人組のタグチームでのダンジョン潜入をして、自分の中でやれることを増やしていくと良いと思うよ。できればパーティーメンバーとは別の誰かとね。」
ライリーはそれだけ言うと、オドに笑顔を向ける。
「試してみます。今日はありがとうございました。」
そう言って、オドは執務室を後にする。
新しい装備に、大きな報酬。ライリーとの時間と目標の再確認。
充実した休日とともに、オドは明日からの冒険者稼業に思いを馳せ、帰路に着くのだった。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)




