濁流の中で ②
正午ちょうどにオドは冒険者ギルドに到着する。
「おーい、こっち、こっち!!」
冒険者ギルドに入ったオドをハーザーが手を振って呼ぶ。
オドがハーザーの声がした方を見ると既に【鷹の爪】のオド以外の4人が揃っていた。
「すいません、お待たせしましたか?」
「いや、僕達も今来たところだ。」
自分を待たせたことを心配するオドにユーグがそう答える。
「それじゃ、5人揃ったことだし行こうぜ。」
コリンに促されユーグも頷く。
5人が受付に並ぼうとすると、エルフのギルド職員が出てきて5人をギルド2階の会議室に通してくれる。
他のメンバーと共に2階にを移動する道中に一行はダンのカフェテリアを横切り、オドはダンの店にしばらく行っていないことを思い出す。
「あそこの料理、美味いよな。」
ダンの店を見つめているオドの様子に気付いたのかコリンがオドに話しかける。
オドが食い気味に頷くとコリンは微笑みつつ、親指と人差し指で輪を作って「でも、あそこは高いんだよな。」といっておどけて見せる。オドもうんうんと頷いてコリンに同意する。オドもヴィルトゥスの生活に馴染んで分かったが、街の中心たる冒険者ギルドに店を出すだけあってダンの店の値段設定は基本的に高めに設定してあった。
コリンとそんな会話をしつつ進み、一行は会議室に着く。
「こちらの部屋になります。」
ギルド職員に通されて会議室内に入ると、机と椅子が用意されており、反対側の奥には3つ並んだ椅子の左側に鑑定士と思われるドワーフの老人が座っていた。ギルド職員はオド達と一緒に部屋に入ると、鑑定士が座っている奥に回り、中央を開けて右側の椅子に座る。
「ライリー様がお越しになるまでお待ちください。」
ギルド職員の言葉を聞いて【鷹の爪】の面々がにわかに色めき立つ。
「ねえ、ライリー様って、あのライリー様だよね。」
「ああ。」
ハーザーとカルペラがひそひそと話し出し、その横でユーグとコリンは緊張しているような顔をする。
殿堂冒険者であり現冒険者ギルドのギルドマスターであるライリーの存在感は現役冒険者の中でも健在であるようで、そんな4人の様子を見てオドは「自分は凄い人に拾ってもらったんだな」と改めて思い知らされる。
そんなことを考えているとオドの耳にライリーの足音が聞こえてくる。
会議室内にいる他の人は気づいていないようだったが、次に足音に気付いたギルド職員が立ち上がって会議室の扉まで歩いていきライリーを向かい入れる準備をする。
「そろそろか。」
ユーグがそう呟き【鷹の爪】の面々は背筋を伸ばし、一同に緊張感が走る。
扉を開けてくれたギルド職員に感謝を述べてライリーが会議室に入ってくる。用意された椅子に向かって歩くライリーは一瞬オドと目が合うと僅かに口角があがる。
「待たせてしまったね。それでは、始めようか。」
「はい。」
ギルド職員が返事をして鑑定結果の報告が始まる。
結論を言うと、今回の仮面フクロウの魔石の買取価格は500万トレミだった。どうやら、魔力を貯めることができるという特質に加えて、媒体としても魔力の伝達ロスが少ないという事で、この価格となった。
「それでは、署名を。」
ギルド職員に促されて、まずは鑑定士と買取者であるライリーが順番に署名をする。
「では、代表者様も署名を。」
今度はユーグが書面を受け取り署名をする。
「ありがとうございます。以上で鑑定報告と買取契約は終了です。鑑定士様、ギルドマスター、ありがとうございました。冒険者の皆さまは現金の受け渡しがありますので、このままお待ちください。」
ギルド職員がそう言って、鑑定報告が終わる。
ライリーと鑑定士はそのまま会議室を出ていき、部屋には【鷹の爪】の面々が残される。
「まさか500万トレミも行くとはな。」
「そーだねー。武器と鎧を新調できそうだよ。」
コリンが言うと、ハーザーが同意する。
「とは言ってもだ。その額に値するレベルのモンスターを討伐したわけではない。報酬はありがたく頂くが、奢らず、気を引き締めていこう。俺たちの目標は小金持ちになることじゃないからな。」
ユーグがそう言って、少し浮ついた面々を宥める。
「ああ、そうだな。」
コリンも分かっているとばかりに頷く。
「お待たせいたしました。現金のご用意が出来ました。」
ギルド職員に声を掛けられ、5人は顔を上げる。
「壮観だねぇ。」
用意された現金の前でハーザーが呟く。
大金貨50枚、計500万トレミ。まだまだ若手の5人は滅多に目にすることのないその光景に圧倒される。ギルド職員は5人の前で大金貨が50枚あることを確認してから、それを革製の袋に入れる。
「それでは、お受け取り下さい。」
「ありがとうございます。」
ユーグが代表して袋を受け取り、現金の受け渡しも終了する。
ギルド職員が出て行ったあと、ユーグが大金貨を1人10枚ずつ配り【鷹の爪】も解散することになる。
ハーザーが飲み会を提案したが、明日もダンジョンに潜入するから、とユーグに却下される。
「僕はここで、、。」
「ああ、それじゃあ、また明日。」
オドは冒険者ギルドのエントランスで他の4人に別れを告げる。
オドは4人が冒険者ギルドを出て行ったのを確認すると、再びギルドの2階に昇り、その上の階へと繋がる階段へと向かう。
「お疲れ様です。」
オドが挨拶をすると階段を守っている衛兵が快く通してくれる。
オドは螺旋状に続く階段を登りながら、先程まで会っていたライリーにどう顔を合わそうか考えて少し緊張するのだった。
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