濁流の中で ①
翌日、本人の希望と4名の全会一致を持ってオドは正式に【鷹の爪】の一員となった。
【鷹の爪】がパーティーからユーグ達の目指すクランに昇格する為には上級冒険者2名以上かつ中級冒険者10名以上の所属が必要であり、ランクCのユーグ、コリン、カルペラとランクDのハーザーの中級冒険者4人に、新たにランクFで低級冒険者のオドが加わることになった。その日はオドのパーティー加入を祝して酒場『モンタックの蜂蜜亭』で小さな歓迎会が開かれた。
歓迎会の次の日の午前中、オドはパウと共に大通りを歩いていた。
「いやー、よかった、よかった。オド君を彼らに紹介した甲斐があったよ。」
グランツの鍛冶場に向かいがてらオドの報告を受けたパウは上機嫌にそう言って笑う。
「あいつらは何かのキッカケで世にさえ出れれば期待の若手扱いなんて忘れられるくらいに大きな存在になれるはずだからな。オド君の加入が良い刺激になってくれれば良いな。」
パウは自分のクランを辞めていったユーグ達を気に掛けているようで、そう呟く。
「オド君にとってもパーティー参加が良い機会になるといいな。」
「はい。パーティーに貢献できるよう頑張ります。」
優しく声を掛けるパウにオドが答える。
「うむ、その意気だ。」
しばらく歩いて、2人はグランツの鍛冶工房に到着する。
「ごめんくださーい。」
「おお、パウに、オドか。待っとったぞ。」
2人は工房の裏手に回りグランツ・ホルスと書かれた方の暖簾をくぐる。
今回はグランツが2人を出迎えてくれる。早く完成したオドの鎧を見せたいようで少年のようにウズウズとした表情を浮かべている。それを察してかパウがすぐに本題を切り出す。
「オド君の鎧が完成したと聞きまして、、、。」
「ああ。用意してあるぞ。」
グランツは食い気味のそう言うと、台に掛けてある布を取って鎧をお披露目する。
少しの静寂と、グランツの自慢げな顔とパウの苦笑い。台に置いてあったのは小楯の付いた左手用の篭手と右手用の肩まである義手のような物体だった。
「、、、えーっと、、、これは、、、」
「見てわからんか? 腕回りに特化して作成した鎧だよ。こんなユニークかつ性能の良いものはこの世に2つと存在しない。」
グランツとパウが言葉を交わしている横で、オドはその鎧から目が離せずにいた。
左手用の篭手にはコリンと同じように小楯が取り付けられており、銀を基調にクラッシックな雰囲気を持っている。さらに左手の人差し指にシリウス・リングを付けているオドに配慮してか、人差し指の部分だけ指が外に出るようになっている。右手用の鎧はさらに凝っており、肩当部分には狼の顔があしらわれており、肩当、二の腕、肘、篭手のパーツが締糸によって接続されている。
「装着けてみてもいいですか?」
「勿論じゃ。これはお前さんの為に作ったんだからな。」
オドが聞くとグランツはそう言って、装着方法を教えてくれる。
「これは、、、凄いですね。」
「そうじゃろう、そうじゃろう。この鎧は文字通りの“一生モノ”だよ。」
いざ鎧を装着してみると、グランツの業の細かさに気付かされる。
グランツは各パーツを締糸で接続させることで遊びを作るだけでなく、肩当、二の腕、肘、篭手の全てのパーツに段階分けをしてサイズのカスタマイズができるようになる細工をしており、現在のオドにピッタリとフィットするだけでなく成長したオドにもピッタリとフィットするように設定可能な鎧を作っていた。
試しにとパウもサイズを合わせて装備してみると、パウの体格でも使用可能なことが分かった。
「、、、これは高くつきそうだね。」
「そうですね、、、。」
パウは今度は違う意味で苦笑いをする。オドもそれに同意してグランツを見ると、グランツは笑って手を横に振る。
「いやいや、儂も舞い上がって凝ったものを作ってしまった。オドが買えない金額だったら折角の鎧がもったいない。うーむ、、、」
グランツはまじまじと自らの作った鎧を眺め、パウとオドは黙ってそれを見つめる。
「45万トレミ、だな。」
「これは絶妙な額だな。この品質の鎧なら60万トレミは下らんが、如何せん腕部分の装備だけだからな。とは言え、通常、肩当てと篭手など、両方合わせて5万トレミでも高いくらいだからな、、、。」
その金額を聞いてパウが、難しい顔をして、考えだす。
「買います。」
オドは迷わずそう言う。
オドもヴィルトゥスの街に慣れ、ある程度金銭感覚が分かってきた為、45万という金額の重さはある程度理解しているが、正直一切の迷いも無かった。
それほどにオドはこの鎧を最初見たときから気に入っていた。
「うむ、いい返事だ。」
グランツはそう言って満足気に頷く。
支払いは分割になり、鎧のメンテナンスに合わせて支払う約束になる。また、同じタイミングで補充分の鉄矢を買い取る約束もする。
取り敢えず、鎧と黒梟のダンジョンで無くした分の鉄矢を受け取ってオドとパウの2人はグランツの工房を出る。
「ありがとうございました。」
「いやいや、俺も久しぶりの戦鎚使いの後輩ができて嬉しいんだよ。また何かあれば声をかけてくれ。」
広場に出て、オドがパウに感謝を述べると、パウはそれだけ言うと手を振って去っていく。
オドはお辞儀をしてパウを見送ると、顔を上げ、次の目的地へと向かう。
仮面フクロウの魔石の鑑定結果が出たのだ。
オドは【鷹の爪】の面々の待つ冒険者ギルドへと歩き出す。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)




