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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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プロスペクト ⑫



仮面フクロウを倒したオドと【鷹の爪】一行いっこうはその後もダンジョンに留まって戦闘を続けることにした。モンスターの一斉出現は大体30分おきに発生した。


「このダンジョンを選んだのは失敗だったね。」


ハーザーが苦笑交じりに言うとユーグも頷く。


「ああ、ほぼ確実に戦闘ができるからとここを選んだんだが、まさか大半の魔石が回収できないとは。」


「でも、ユーグもその理由の半分だからね?」


真顔で言うユーグにハーザーが呆れたように返す。


先日パウと50匹以上のモンスターと遭遇したオドには余り実感が湧かない話だったが、コリンによると他のダンジョンにおいてモンスターとの遭遇は決して多いものでは無いようで、その点でモンスターの一斉出現のある黒梟エヴィエニスのダンジョンは需要があるそうだ。思い返すと確かにパウも異常ともいえる遭遇率に首を傾げていた。少なくとも、このダンジョンは力試しには最適な環境のはずだった・・・・・


「すいません、、、」


「すまん、、、」


オドとユーグが申し訳なさそうに謝る。


空中でモンスターを撃ち落とすことのできるオドとユーグは接近を待たなければいけない他の冒険者達よりも多くのモンスターを討伐できたが、肝心の魔石は空中そのままで落下し回収できなかった。加えて、スピード重視で小柄な鳥型モンスターとオドの弓の相性がハマりすぎてしまい1、2層階のモンスターの殆どが矢の一発で消滅してしまう始末だった。


結局、5人は午後からオドの矢の一撃だけでモンスターが消滅しない3層階まで降りていきオドの矢でモンスターへのダメージとヘイトを引き寄せ、接近してから討伐する方法にシフトする。




「まあ、こんなものか」


5人は夕方まで粘り、3層階相当のモンスター約40匹分の魔石を回収する。


「いやー、上出来、上出来。」


ハーザーが満足気に魔石の入った袋を見る。


オドの攻撃はとことんモンスターの傾向と相性が良いらしく、3層階モンスターですら矢だけで必要ダメージの8割近くを削れ、接近してからは少しの攻撃だけで楽に討伐ができた。オド達は一度のモンスター一斉出現で大体5匹前後の戦果という超効率的なペースで魔石を回収していた。


「それに今日で俺達への注目度も上がったんじゃない?」


ハーザーが嬉しそうにユーグに話しかける。


「ああ。このダンジョンは他人の戦闘を見れるからな。存在感を出せたかもな。それに、、、」


ユーグはそう言っておもむろにオドが背負っている弓に目を向ける。


「オドはすぐにでも有名人になるだろう。」


ユーグはそう言って微笑むのだった。






「少々お待ちください。」


冒険者ギルドに戻ってきた5人は魔石とドロップ品の買取をしてもらうために解体場へと向かったが、そこで思いがけず足止めを食らってしまう。冒険者ギルドの買取スタッフが仮面フクロウの魔石を鑑定するや否や奥に引っ込んでしまったのだ。


「ずいぶん遅いねぇ」


そう言ってハーザーが退屈そうに欠伸をする。


「そうだな。珍しいモンスターだったとはいえ強さも魔石の大きさも4、5層階と変わらなかったはずだが。」


コリンもそう言って眉をひそめる。


既に仮面フクロウ以外の魔石とドロップ品の買取は終わっており、3層階相当の魔石1個に付き1500トレミ、その他のドロップ品に合計2万トレミの値が付いている。話し合いで報酬の配分はオドと【鷹の爪】で半分づつ、【鷹の爪】はそれを山分けということになった。オドは自分1人で全体の50パーセントを貰える分け方を止めようとしたが【鷹の爪】の面々に押し切られてしまった。結局、オドは魔石で3万トレミ、ドロップ品で1万トレミの4万トレミを受け取ることになる。


「そう言えば|これはどうする? 重いんだけど。」


ハーザーは腕に抱えた仮面フクロウの仮面に視線を送る。


仮面フクロウの仮面は記念品として売らない事に決めたのである。


「一旦ハーザーが持って帰ってくれ。いつか僕達のクランハウスが出来たら、そこに飾ろう。」


しばらく沈黙をしていたユーグがそう言う。


「【鷹の爪】のクランハウスかー。夢があるねえ。」


ハーザーの顔が明るくなる。




「お待たせ致しました。」


鑑定を行った買取スタッフが戻ってくる。


「この魔石になにかありましたか?」


ユーグが聞くと、買取スタッフが真剣そうに頷く。


「皆さん、魔石についてはどれくらいの知識がおありですか?」


「魔石は魔力を伝達することのできる唯一の物質です。」


買取スタッフの質問にユーグが瞬時に応える。


「その通りです。魔石とは通常、魔力を伝達することのできる物質で、これによって私達の生活や魔法技術は飛躍的に進歩しました。また、魔石は現状ダンジョンからしか回収できない貴重な資源であり、ヴィルトゥスの主力輸出品でもあります。」


「、、、で、今回の魔石がどうかしましたか?」


コリンが買取スタッフに聞く。


「はい。今回皆さんが持ち込まれた魔石ですが、魔力の保存・貯蓄ができるという大変珍しい魔石でした。この魔石を回収できるのは十年に1回あるかないかの珍しさです。買取り額は同じ大きさの魔石の1000倍近くまで跳ね上がります。今回の魔石でしたら評価額250万トレミは下らないでしょう。」


「そうですか、、、」


ユーグは考え込むように黙ってしまい、その場に沈黙が流れる。




「とはいっても、これだけの品の買取価格は私如きの独断では決められないので一度、正式な鑑定結果を出す必要があります。」


「そうでしたか。では鑑定をお願いします。」


買取スタッフがそう言うとユーグは少しホッとした表情で頷く。


「かしこまりました。では魔石はこちらでお預かりさせて頂きます。契約書を作るので、申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちください。」


買取スタッフはそう言うと再び解体場の奥へと消えていく。


「オド。」


呼ばれてオドはユーグを見る。


「もう少しかかりそうだ。待っている間にランクアップの手続きをしてきたらいい。」


「そうですね。」


オドが承諾するとユーグは頷いてコリンの方を見る。


「ああ。俺が付いていくよ。」


コリンが頷いてオドと一緒に窓口に行くことになる。




「これで手続きは終了です。次回ランクアップ条件は3層階相当モンスター25体の討伐です。」


「ありがとうございます。」


窓口でランクアップの手続きをし、オドは晴れてランクFに昇格する。


オドとコリンが解体場に戻るとちょうど契約書の手続きが終わったところで、その日はそのまま解散することになる。とはいえ、皆、“獅子の爪”に住んでいるため途中までの帰り道は同じだった。


「それじゃ、お疲れ。」


【鷹の爪】の4人と別れてオドは大犬亭に繋がる小道に入る。


初めてのパーティーでのダンジョン探索の興奮は冷めず、オドは未だに高鳴る鼓動を感じながら帰路を急ぐのだった。




ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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