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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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プロスペクト ⑪



オドは仮面フクロウに矢を当てられるようダンジョンの入り口近くまで移動する。


既に陽が昇ってからだいぶ時間が経っているからか、ダンジョンの入り口の人はまばらだった。先程よりも高い位置から仮面フクロウを見下ろし、オドは矢の描く放物線をイメージして目を閉じる。


しばらくして目を開けたオドはユーグ、コリンの目を見て頷くと弓に矢を構える。


「すぅ、、、」


オドは息を吸いながら矢を引き絞る。


矢の角度はどんどん上がっていき、オドはほぼ斜め上に矢を向けていく。


【鷹の爪】の面々は何も言わずにオドを見つめ、たまたま通りかかった冒険者達もオドの放つ緊張感からか好奇心を胸に静かにオドの様子を見守っている。


「ふっ!!」


オドの息と共に放たれたグランツ作成の鉄矢は空気を切り裂くように唸りを上げてオドの手元を離れていく。矢はオドのイメージ通りの放物線を描いていき、高く弧を描いて上がり、落ちていく。


「どうだ!?」


コリンが叫んで矢の行方を追う。


オドも見定めすように自らの放った矢を見て、標的フクロウを見る。


「あっ!」


次の瞬間、オドが小さく声を上げる。


一瞬ではあるがオドは仮面から覗くフクロウと目が合い、睨まれたように感じた。


「行け!!」


叫ぶコリンの横でユーグは静かに熱い視線を矢に送る。


矢の推進力は低下してほぼ落下のような状態ではあるが、矢は仮面フクロウに向かって飛んで行っているように見える。たまたまオドの射撃を見ていた他の冒険者達も期待の視線を向ける。




、、、しかし、オドの放った矢が仮面フクロウを貫くことは無かった。仮面フクロウが矢の着弾を待たずに岩から飛び立ったのである。オド達に向かって一直線に。


「来るぞ!!」


ユーグが叫び、5人は臨戦態勢に入る。


オドは4発ほど続けて向かってくる仮面フクロウに鉄矢を打ち込むがことごとく避けられてしまう。


「迎え撃つぞ!!」


仮面フクロウがぐんぐんと近付いてくる。


先程までは遠くだったため仮面フクロウのサイズがつかめなかったが、近づくにつれ大きさが分かってくる。仮面フクロウはかなり大きく、高さ3m程、翼を広げると横幅はゆうに7mはありそうだった。


仮面フクロウは一度オド達よりも高い位置に移動して、そこから鉤爪を向けて降下してくる。


「“炎鷹えんよう”」


ユーグが魔法を放ち、真っ赤な炎は仮面フクロウに襲い掛かる。


仮面フクロウは一度片翼を曲げた後、炎を振り払うようにして翼を広げる。


これにより炎は振り払われてしまったが、その効果で仮面フクロウの降下速度が少し落ちる。


「よしきた!!」


カルペラが叫ぶと、ズイッとパーティーの前に位置取り大盾を構える。


ドシンという衝撃と共に巨大な仮面フクロウがカルペラに突っ込んでいき、土埃が上がる。


「“パラライズ”」


ハーザーが土埃に向かって詠唱する。


「オド君、俺は突っ込むが、どうする?」


コリンがオドを見て挑発するようにニヤリと笑う。


「行きます!!」


オドが即座に答えると、コリンは頷いて土埃へと突っ込んでいく。


ガキンという鈍い音が響く。どうやらコリンの大斧ハルバートでの一撃は鉤爪で防がれてしまったようだ。


「麻痺の魔法は効かないか。面倒だな。」


苦々しく呟くハーザーを横目にオドも戦槌を片手に飛び込んでいく。


オドは態勢を低くして接敵するとピンポイントで仮面フクロウの足の付け根に戦槌を叩きこもうとするが、あっさりと避けられてしまう。お返しとばかりにフクロウの翼が迫ってくる。


「さがれ!!」


オドがとっさに一歩引くとオドと場所をスイッチするようにカルペラが前に出て大盾で翼を受け止める。


同時にコリンが大斧ハルバートを振り抜き、仮面フクロウの腹部を切り裂く。


「hooooo!!」


仮面フクロウは一度鳴くと翼をはためかせて地面から飛び立ち、空中に退避する。


「オド君!!」


すぐにハーザーが戦闘開始時に投げ出していた弓と矢袋をオドに渡してくる。


オドはすぐにハーザーの意図を察して弓と矢を受け取ると、空中で旋回しながらオド達を狙っている仮面フクロウに立て続けに矢を放つ。


「“アイズ・アロウ”」


同時にユーグも魔法を放ち、鋭い氷柱つららが仮面フクロウに迫る。


仮面フクロウは迫りくる矢を避けながらオド達に向かって再び降下してくるが、避けきれず翼に5、6本ほど鉄矢と氷柱つららを被弾する。それでも勢いの止まらない仮面フクロウに、カルペラが再び大盾を用意する。コリンもその後ろに控えて大斧ハルバートを握りしめ、ハーザーはマナポーションをユーグに渡している。


「オド君。」


オドも仮面フクロウを見ているとユーグに声を掛けられ、耳元で何かを囁かれる。


オドは頷くと、ユーグの下を離れて再び戦槌を握りしめ、移動をはじめる。


「“炎鷹えんよう”」


仮面フクロウの接近に見計らってユーグが再び魔法を繰り出すが、仮面フクロウは知っているとばかりに一度浮いて避けると、今度はカルペラをスルーしてコリンに向かって鉤爪を振り下ろす。



“ガキン”



低く鈍い音と共に鉤爪がコリンの篭手の小盾を捉え、コリンは攻撃の衝撃で片膝を付く。


「グ、、、」


コリンが小さく呻く。


よく見ると鉤爪は小盾を貫通して、コリンの肘からは血がダラダラと滴り落ちている。


「、、、ハハハハハ!!」


突如、コリンが笑い始める。


「力比べか、滾るぜ。」


コリンの目がギラギラと輝く。


仮面フクロウは鉤爪を食い込ませながらコリンを地面に抑え込もうと力を込め、コリンはそれを押し返すように下半身に力を入れて踏ん張る。仮面フクロウもコリンの様子の変化に怯んだのか、一度鉤爪を引こうとする。


「逃がさねえよ。」


次の瞬間、コリンは鉤爪を受け止めている方と反対側の腕でガシッと仮面フクロウの足を抑える。


「うぉぉぉぉらっ!!」


コリンは驚異的としか言えないパワーで掴んだ仮面フクロウの足を一度持ち上げ、その後、地面に突き刺すように叩きつける。




「“ウェブ・アイス”」


図ったようにユーグが詠唱し、仮面フクロウの足元を氷でできた蜘蛛の巣が捉える。


仮面フクロウは焦ったように翼を振って跳び上がろうとする。

幸い、氷の蜘蛛糸は脆く仮面フクロウはてこずりながらも罠を脱することができる。しかし、仮面フクロウは焦りのせいで既に自分より高い位置にいる存在に気付けなかった。



“ゴス!!”



仮面フクロウの脳天に衝撃が走る。


天狼族自慢の跳躍力で跳び上がっていたオドが戦槌を叩き下ろしたのだ。仮面フクロウの上に行こうとする力とオドの落下の力も相まって、その効果は抜群だった。


「hoo、、、、」


仮面フクロウは声も出し切れず地面に落下し、光となって弾け、消滅する。


人一倍大きな魔石と金属製の仮面だけがその場に残る。




しばらくの沈黙。そして周囲の歓声。


コリンがガッツポーズをし、ユーグが小さく微笑む。


「うん。うまくいった。」


オドが呟くが、その声は戦闘を見守っていた他の冒険者達の歓声に掻き消される。


ハーザーが拾った魔石を見て怪訝そうな顔をし、ユーグに話しかける。


「ユーグ、この魔石、4層階の奴より全然大きいぞ?」


「そりゃそうだろう。」


ユーグは事も無げにそう答える。


「え、、でも2層階のボスじゃないのか?確かに4層のモンスターより全然強かったけど。」


「以前に調べたことがあるが、黒梟エヴィエニスの2層階ボスはフクロウじゃないよ。」


ユーグはケロッとそんなことを言い出す。


「勝ったんだ、細かいことはいいじゃないか。それよりコリンの手当てをしてやってくれ。」


そう言ってユーグはハーザーを誤魔化し他のパーティーメンバーを労いに行く。


ユーグはカルペラ、コリンに声を掛けたあと、オドへと近付く。


「ありがとう、作戦通りだ、オド(・・)。」


ユーグはそう言って手を差し出す。


「ありがとうございます。」


オドはユーグの手を握り、2人は握手する。




ユーグと別れたオドはコリンの方に駆け寄り、落ちている大斧ハルバートを拾ってあげる。


「ああ、ありがとう。」


コリンは怪我していない方の手で大斧ハルバートを受け取ると、オドを見る。


「、、、これからよろしくな、オド。」


そう言ってコリンは不器用に微笑むのだった。



ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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