運命の子 ⑥
「しめたっ!!」
南西の方角からこちらに向けて駆けてくる獣人の集団とそれに続く味方の騎馬兵を見てドーリーはニヤリと笑う。
「戦闘用意!! 敵は南西方向、挟み撃ちにて殲滅する!!」
ドーリーは打ち漏らしの無いよう部下に隊列を横一列にするよう指示し待機させると、突撃指示のタイミングを伺い、、、そして、突撃の合図を叫ぼうとする。
しかし、その瞬間、横に伸びた隊列の右翼から敵方出現の声が上がる。
「クソッ!! 東側の集団は既に辿り着いていたか!!」
そう言いつつドーリーは冷静に状況を見渡す。
…見るに西側の敵集団は騎馬兵に追われて疲弊している。一方で東側は恐らく我らより先に到着し機を伺っていたに違いない。ならば…
「南西の敵は追手8騎と左翼9騎の16騎で殲滅せよ!! 東側より出でた敵は我を含めた右翼10騎にて応対する!! よいな、どちらも打ち漏らすことのないように!!」
ドーリーはそう指示すると一気に右手へ馬を翻し駆ける。
◆
「クソッ!!」
甘かった、コウは自分達を追う騎馬兵8騎を横目に後悔する。
コウもキーン達と同様に西街門の上から敵方を狙撃するチャンスに恵まれたが、コウは歩兵は騎馬には乗れないだろうと予想し騎乗している兵士に対して矢を射るよう仲間に指示することにした。結果、8本全ての矢が騎馬兵の喉元を貫き、コウはキーン達同様に狼狽する敵兵を飛び越えて逃走に成功したのだった。
しかし、しばらく西に走ってから後方を振り返ると騎馬が追ってきているのが見えた。コウは歩兵は騎乗できないという先入観により、結果として失敗した。
「ならばっ!!」
そう言ってコウは蛇行するように逃走することで追手を撒くことを試みる。しかし、これも結果的にコウ達自身を疲弊させ、しかも霧の森入口に到着する時間を遅らせるという致命的なミスとなってしまう。結果、コウ達は追手の騎馬兵との距離を広げることができないまま霧の森へと駆けてゆくことになった。
「あと少し!!」
コウは霧の森が遠くに見え少し安堵するように呟く。
その時、霧の森の方向から狼笛の音が響き渡る。これはキーンからの警戒を伝える狼笛の音であったが、焦って状況を冷静に見れないでいるコウ達にとってはこちらに対するキーンの場所を知らせるための音であると解釈される。コウ達6人は笛の音がした方向へと目的地を修正する。
「まずいな…」
コウ達が笛の意味に気づいていないことを察したキーンは仲間にコウ達が挟み撃ちに遭わないよう笛で彼らを誘導し、そのままキーン以外の10名で霧の森へ突入するように指示する。頷いた仲間達は狼笛をキーンから受け取ると一気に東南の方角へと駆けだしてゆく。
「どうか、みな無事に大星山にたどり着いてくれ…」
駆けてゆく仲間の背中を見ながらキーンは呟き、軽く息を吐くと弓を引き絞り一番手前にいる隊列最右翼の騎馬兵に矢を放つ。放たれた矢はキーンの狙い通り敵の頬を掠める。敵兵は驚き、矢の飛んできた方向に振り向き、キーンの姿を確認する。
「敵、右翼より出現!!」
頬を矢により切り裂かれた敵兵は大声で叫びキーンの出現をドーリーへと知らせる。
「南西の敵は追手8騎と左翼9騎の16騎で殲滅せよ!! 東側より出でた敵は我を含めた右翼10騎にて応対する!! よいな、打ち漏らすことのないように!!」
少しのち、敵方の大将と思われる者が指示を出し、キーンの潜む岩場を取り囲むように騎馬兵が隊列を組んでゆく。
「絶体絶命ですね…。」
丁寧な口調とともに岩陰から敵の動きを眺めるキーンの口元は僅かに微笑みを湛えているのであった。