星空の夜(閑話)
大犬亭に戻ったオドは自室のベッドに腰掛ける。ぼんやりと天井を眺めながらオドは午前中の出来事を思い出す。
「今朝は色々あったな、、、。」
鍛冶師グランツとの出合いに【鷹の爪】との出合い。
思えばこの街で目覚めてから新たな出会いと驚きの連続だった。オドの中で大星山での出来事は未だに消化しきれていないが、目まぐるしい日々はオドの気を紛らわしてくれていた。
「少し疲れたな。」
オドはポツリとそう言うとベッドに横になり目を閉じる。
オドはそのまますぐに眠りに落ち、スウスウとの寝息を立て始める。その表情はあどけない12歳の少年のそのものだが、その姿とは裏腹にオドは過酷な道を歩むことになってしまった。
オドが目を覚ますと、既に陽は沈んでいて外は暗かった。
どうやら深夜のようで物音は聞こえない。オドはもう一度眠る気にはなれず、梯子を昇って屋上に出る。見下ろす街の灯りもまばらで、オドは置いてある赤いハンモックに寝転ぶ。
「うわぁ。」
オドの視界に満点の夜空が広がる。
見上げる星空は地上を飲み込むかのように何処までも広がっており、ハンモックの揺れも相まってオドは夜空に吸い込まれるような感覚に陥る。星々のきらめきは美しく、各々の色や大きさで己を燃やしている。特に南中にひときわ強い光を発する真っ白な星が見え、更に南の地平線側には淡い黄色をした星が瞬いているのが見えた。
「えっと、、、」
オドは何かを探すように星空を見回す。
暫くキョロキョロとしたオドは視界の端に目的の星、北天に鎮座する紫金の一等星、大星天狼星を見つける。大星天狼星は北方の地平線ギリギリに見える。オドは無言で大星天狼星を見つめ、改めてかつて暮らした大星天狼星に最も近い場所から随分と離れた場所に来てしまった事を実感する。
「、、、」
オドは手元の大きくて親指に嵌めているシリウス・リングを見つめる。
ゆっくりとハンモックは揺れ、静かに夜は更けていく。様々な記憶、様々な思い、様々な感情が頭をよぎっては染み込んでいく。世界に自分しかいないような感覚に浸りながら、オドは小さく呟く。
ーーーその血、その涙、その痛みこそ糧なれば、其方の歩みに実りが訪れん。
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