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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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プロスペクト ⑤



オドが接近するモンスターに矢を放つが、接近するまでの短時間では2体程しか仕留めることは出来なかった。


「オド君、ありがとう。後は下がっててくれ。」


そう言うとパウが取り出した戦槌を地面に叩きつける。


「“雷壁”」


突如、パウとモンスターの群れの間の地面から天に昇るように何本も稲妻が打ちあがる。

それはまるで光る壁のようにモンスターの進路に現れ、モンスターは雷の壁に突っ込むことになる。しかし、モンスターの速度は変わらず壁を突き抜けてパウに突進する。


「“帯電”」


今度は戦槌を大盾に付けて詠唱すると、パウの持つ大盾はバチバチと電気を帯びて火花を散らす。


パウはそのまま突進してくるモンスターに大盾を構えるとモンスターを跳ね返すように盾ごとモンスターに突進しぶつかり合いになる、モンスターの殆どがこの衝撃に跳ね返されて消滅する。


「あと2匹。」


パウはそう呟くと持っていた戦槌を放り投げる。


戦槌の持ち手とパウの腕は長い鎖で繋がれていて、瞬く間に残った2匹のモンスターに巻き付く。


「“通電”」


パウの詠唱と共に鎖に電気が流れ、電気に触れた瞬間モンスターは消滅する。


この間に1分もたっておらず、パウは涼しい顔をしている。

ダンが評したように盾役とは思えない手数と攻撃力だった。そして何より10匹を超えるモンスターの突進を身体1つで跳ね返してしまったパワーには目を見張るものがあった。


「軽かったな。まあ1層階だからな。」


パウはそんなことを言いながらオドの下に歩いてくる。


「お疲れ様です。凄かったです。それに、パウさんも戦槌を使うんですね。」


「そうだ。だから、昨日オド君がビンスと戦槌の稽古を見て興味を持ったんだよ。見たところ筋もよさそうだったから、うちで拾えればと思ってね。」


「そうだったんですね。」


「珍しいからな。嫌でも親近感は沸くものだよ。」


そう言ってパウが笑う。


「そうだ、この後はオド君の戦槌の腕前を見せてよ。弓は十分すぎるほど見せてもらったからね。」


「分かりました。頑張ります。」


「うむ。どんどん行こう。」




その後はパウによるオドへの戦槌講座となった。


「いいかい? 戦槌の最大の弱点はリーチの短さとそれによる速度の遅さだ。長剣や槍などのリーチの長い武器は小さな動きで切っ先に大きな動きと速度をもたらせる。間合いを殺して接近する。これが戦槌使いの最大の課題だ。俺は盾の防御によって接近するし、距離がある場合は鎖で繋がっていることで飛び道具としても使えるようになっている。」


、、、


「リーチが短いということは、腕を攻撃される可能性が高いということだ。胴回りは放っておいたとしても、腕回りの装備だけは充実させなければいけない。」


、、、


「戦槌の最大の利点はその貫通力だ。どんなに硬い装甲も貫き通す。剣や刀のように刃こぼれを気にしないでいいからこそ、打撃点に全てのパワーが収束するように打ち込まなければならない。」




タマモの形見の戦槌を受け取って以来、ちゃんと戦槌の使い方を教わってこなかったオドにとって、パウの教える戦槌に関する基本的な戦い方の講義は新発見や驚きの連続だった。パウも盾と戦槌で上級冒険者にまで上り詰めた実力に狂いはなく、考えつくされ、改良の重ねられた戦闘スタイルは精緻と呼べるレバルまで確立されていた。楽しくなってきた2人はどんどん進んでいき、気付けば時刻は夕方になっていた。


「いやあ、倒した、倒した。」


そう言ってパウがダンジョン前で伸びをする。


結局、2人はオド38匹、パウ20匹の計58匹のモンスターを討伐していた。


「とても勉強になりました。」


「いやいや、こちらこそ。覚えが早いもんだからつい楽しくなってしまった。」


2人は互いを労いあうと冒険者ギルドへと歩いていく。



◇ ◆ ◇



「これは、、、本当ですか!?」


魔石やドロップ品の検品、買い取りを行う解体場にギルド職員の声が響く。


声の原因はもちろんオドとパウの2人で、次々出される魔石に小さな悲鳴が上がる中、その半分以上を今日ダンジョンデビューの12歳の初心者冒険者がやったなどと言ったからだった。


「本当だよ。クラン・クロウ幹部である私の名誉にかけて保証しよう。」


冒険者、特に上級冒険者にとって命よりも大切な名誉に誓って保証するならギルド職員も信じるしかない。結局、魔石1個につき500トレミが支払われることになり、オドは魔石分で1万9千トレミ、その他のドロップ品で1万6千トレミの計3万5千トレミを受け取る。同時に討伐証明書が発行されオドのランクアップが認められる。


「それを持って受付に並ぶとランクアップが正式に承認されるよ。行ってくるといい。」


パウはそう言って受付を指さすと、自分は帰り支度をし始める。


「パウさんはどうしますか?」


「今日はここまでにするよ。無理に勧誘もできないからね。」


「分かりました。今日は本当にありがとうございました。」


オドが深々と頭を下げる。パウは少し考え込むような仕草をすると、顔を上げたオドに声を掛ける。


「会わせたい人がいる。良ければ明日も朝にダンさんのカフェに来てくれると有り難い。それじゃ。」


それだけ言うとパウは出口へと向かい人ごみの中へと消えていく。


オドはそのまま列に並び受付へと向かう。オドの番になって受付を見ると、朝、オドの依頼書の受付を担当してくれた眼鏡の女性だった。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。」


女性もオドに気付いたようで、眼鏡をクイッと上げる。


「魔石の検品、買い取りはあちらの解体場ですよ。」


どうやら受付の女性はオドが間違えて受付に並んだと勘違いしているようだ。

それもそのはずで、普通の初心者冒険者はモンスターを1体倒せてやっとなもので、ランクアップの条件となる1層階相当のモンスター25匹の討伐には1か月程かかるのが通常なのである。


「いえ、解体場でこれを受け取りました。」


オドがそう言って討伐証明書を見せると、受付の女性の表情が固まる。


どうやら理解が追い付いていないらしく、女性は証明書とオドに交互に目を向ける。


「倒したの? 貴方が? 38体?」


「はい。」


「本当に? 38体?」


「はい。」


女性は信じられないとばかりにヘナヘナと椅子に座り込むが、正式な証明書が出ている以上は決まった事務手続きを踏まなければならないので、終始不思議そうな顔だったが新たにランクGと書かれた緑の低級冒険者ギルドカードを発行してくれる。


「これで手続きは終了です。次回ランクアップ条件は2層階相当モンスター25体の討伐です。」


受付の女性はそう言ってカードをオドに渡してくれる。


「ありがとうございます。」


ギルドカードを受け取ったオドは大犬亭へと帰る。


身体の疲労が大きかったが、始めてのダンジョン潜入、初めて自分で稼いだお金にオドの心は弾んでいた。




ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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