自由都市での新生活 完
結局それ以降はヨハンの言っていた通り5つのダンジョンを他の主要クランの護衛と共に回った後、残りの主要クランの冒険者の指導による稽古期間となった。とは言え、オドがまだ12歳と若いというのと戦槌という特殊な武器を主としていることから、見込みがないと思われたのか稽古は専らビンスと行うこととなった。
「うん、悪くない動きだ。とにかく大切なのは安全マージンを取って戦うことだ。心理的にも、肉体的にもな。いわゆる“遊び”が緊急の出来事から自分を守ってくれる。」
「はい!!」
「よし、では、もう一度。」
ビンスとオドは再び1対1を再開する。
ビンスもまた、オドがこれまで出会ってきたヴィルトゥスの冒険者達の例に漏れず強かった。とにかく無理をしない、しかし押さえるところは押さえているといった具合でまさに経験を積んだベテランの戦闘スタイルだった。
「駄目だ。身体能力に頼りすぎている。眼は良いんだ、後はスキルと考えて戦うことだ。」
「はい!!」
「もう一度。」
オドは『コールドビート』なしでの戦闘力がこの数週間で格段に上がっているように感じていた。
そして、その戦闘力が自分自身の実力であることも痛感していた。
ビンスが鉄杖というマイナーな武器を使用していた事もあり、武器の長所を活かす戦い方や独特な武器独自の手数の増やし方など、とにかく為になる学びが多かった。そもそもオド自身、大星山で狩りの仕方は習ったものの戦闘の仕方を基礎から教わったことがなかった為、ビンスとの稽古は非常に楽しいものがあった。
「今日はここまで!!」
ビンスの声が冒険者ギルド2階の練習場に響く。
「冒険者ギルド研修は明日で最後だ。毎日言っていることだが、冒険者の資本は身体だ。怪我1つで1週間、1ヶ月の稼ぎが無くなる物と思え。もし死んだら全てがお終いだ。これからお前らはどこかのクランに入るかもしれないが、最後に自分を守れるのは自分だけだ。とにかくダンジョンを生きて帰る、今はその為に強くなれ。以上、解散。」
ビンスの締めの一言で今日の稽古が終わる。
新人冒険者研修も残すところあと1日となっていた。オドは練習場を出るとダンのカフェへと向かう。
「オド、お疲れ。明日で最終日だな。」
カフェに行くとダンがそう言ってオドを出迎える。
ダンはオドにブランケットを渡すと店の奥へと戻っていく。
実は、オドは屋上でユキを見つけられなかった日から、毎日陽が昇る前の早朝から冒険者ギルドの屋上で剣舞の素振りをするようになっていた。それに合わせてダンが「ツケでいいから」とオドに朝食をカフェで取るように勧めてから、返せないままでいるユキのブランケットを研修中はダンに預けるようになっていた。
「今日もダメだった、、、。」
オドはブランケットをみて溜息をつくが、明日も早いからと気を取り直して冒険者ギルドを出る。
オドが大通りを歩いていると見知った顔とすれ違う。
「クルツナリック様!!」
「おお、オド君じゃないか。元気にしてたかね。ダンとティミーから話は聞いているよ。」
クルツナリックはオドと久々に会って気分を良くしたようで、オドと一緒に大犬亭に行くことになった。
ティミーもクルツナリックの顔を見ると、酒を奥の蔵から出してきて、オドも合わせ3人で夕食を取る事になった。
「クルツは相変わらず強いな。」
「いやいや、ティミーが弱すぎるだけだよ。」
クルツとティミーは旧知の仲なだけあって楽しそうに飲んでいる。
オドも若干、場酔いしたのか、少し疑問に思っていた事を聞いてみることにした。
「あの、今思うと、ライリー様もクルツナリック様も、ティミー様もクランについて教えて下さらなかったのは何故ですか? 全く教わってなかったのはクランについてだけだったように思うのですが。」
オドがそう聞くと、クルツナリックもティミーも少し渋い顔をするが、ティミーがしょうがなくといった風に口を開く。
「いや、実は我々世代の元冒険者は今のようなクラン制度には反対しているんだよ。特にライリーはその筆頭でな。言いづらかった所もあるんだよ。」
「そうなんですか?」
「我々の頃にもクランはあったが多くて精々2、30人程だった。確かに大規模クランによるクラン内の序列に基づいた新人の教育制度は冒険者増加と死傷者減少に一役買っているのは認めるが、そのせいで冒険者の馴れ合いと大人数パーティーが増え、名誉を追う者が減ったんだ。ここ最近ではボス・スレイヤーも滅多に現れなくなってしまった。」
「つまり冒険者の数は増えたが、質は落ちたということだな。」
ティミーの説明に付け足すようにクルツナリックがそう言う。
「現にライリーの後継者となりそうな殿堂冒険者は未だに現れていないからな。だからライリーとしてはオド君に大規模クランに入ってほしくなかったから言わなかったというのもあるだろう。実際、大規模クランに入れば冒険者としてはCランクもあれば食っていけるからな。そりゃダレるってもんだ。」
「そう言うものなんですね。」
オドは図らずも知ったヴィルトゥスの抱える問題に驚きを隠せなかった。
「まあ、人というものは自由になると多少の不自由を受け入れても組織に属したがるものなのさ。」
クルツナリックはそう言って笑うのだった。
◇ ◇
次の日、オドは朝の剣舞を始めてから、初めて寝坊した。
遅くまで3人で話していたのが悪かったのか、起きた頃には既に陽が出ていた。
オドは急いで着替えると大急ぎで大犬亭を出る。
「むう。」
道は当然ながらいつもより混んでおり、オドは軽く舌打ちをすると屋根に飛び乗って走る。
しばらく屋根の上を飛び移りながら走っていると、オドの耳に待ち望んでいた歌声が聞こえる。
「よし!!」
オドは小さくガッツポーズをするとグンと速度を上げ、一直線に冒険者ギルドへと駆けていくのだった。
冒険者ギルドに着いたオドは、速度をそのままに階段を駆け上がる。耳に届く彼女の歌声はどんどん大きくなっていく。
「ハアハア。」
息を切らしながら遂にオドは屋上に繋がる扉の前に着く。
歌声はまだ聞こえている。
オドは少し、扉を開けて屋上を覗くと、目を閉じてヴィルトゥスの街に向かって高らかに歌うユキの姿があった。
「ふう。」
オドは一度呼吸を整えると、掴んでいるドアノブに力を入れる。
そして、扉を開くのだった。
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