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運命の子 ⑤


キーンの率いる東方面への逃走班5人は問題なく街門に辿り着いた。キーンは少し振り返り全員が付いてきている事を確認すると、脚に力を込め一気に石造りの東街門の一番上まで跳び上がる。4人の仲間もそれに続くと街門の上に着地する。


「騎馬兵が8に歩兵が30か。」


街門の上から下に待機する敵兵の規模を把握すると、仲間に矢を取り出すように指示すると青色の液体が入った瓶を手渡す。


「これは効果の強い麻酔薬だ。これを血液に混ざれば人であれば丸1日は起き上がれない。」


そう言うとキーンは見本を見せるように自らの持つ矢のやじりを瓶に突っ込み液体にひたす。これを見て仲間もキーンに続いて慣れない手つきで鏃を瓶に突っ込む。


「逃走において最も厄介なのは敵の機動力だ。今回の場合は騎馬がこれに該当する。馬防具で急所を守られている馬を矢で殺すのは不可能に等しい。あいにく今は毒薬も持っていないから、今回は眠ってもらうことにしよう。」


そう言うと皆に弓を構えるよう指示する。


「一人二頭だ。私は打ち漏らしを狙う。とはいえ撃ち合いにはなりたくないので、一撃づつで片付けてくださいよ。では、、、放て!!」


キーンの一言で一斉に街門上部から矢が放たれ、間髪おかず第二矢も放たれる。結果、8本すべてが騎馬の装備の隙間を射抜く。騎馬は大きく痙攣するとその場に死んだように倒れ眠り込む。麻酔薬の効果は抜群のようだった。


「流石。」


キーンは軽く微笑むと街門の屋根部分から一気に跳躍し、狼狽する敵兵を飛び越えて着地する。キーンは振り向き他の4人も付いている事を確認すると、置き土産と言わんばかりにこちらに気づいた敵方の方向に向けて仲間の弓の腕前によって無駄になった麻酔薬付きの矢を放ち、街門に背を向け東方面へと駆けだす。


「敵はあちらだ!! 追え!!」


東街門での迎え撃ちをドーリーから任された親衛隊員はそう叫びキーン達を追おうとするが、次の瞬間、彼の喉元をキーンによって放たれた矢が貫き、鏃やじりに塗られた麻酔薬が効果を出す前に彼は絶命する。キーンの放った矢で絶命した仲間とグングンと遠ざかるキーン達の背中、そしてピクリとも動かない騎馬に東街門に残された37名の親衛隊は絶望とともに立ち尽くすのであった。











キーン達はしばらく東へと疾走すると後ろに敵兵が見えないことを確認して、北へと方向転換をする。敵方の大将であるドーリーの予想通りキーンの狙いは霧の森である。


実は霧の森には天狼族にのみ伝承される“攻略法”がある。伝承による攻略法は霧の森を「彼の森は来訪者を望む場所へと導く。望む場所へと至りたければ、もやに惑わされず霧を分けて真っ直ぐに突き進むべし。」と表現している。天狼族は霧の森に入る際にそれぞれ行きは“フールの街近く”、帰りは“大星山麓”と心に唱え真っ直ぐに霧の中を突き進む。すると通常は通過に1週間程はかかるはずの広大な森にも関わらず、ほぼ半日で森を通過し目的の場所に出ることができる。


しかし、伝承により分かっている通過方法はこれのみであり、裏返せば、目的地がなければ迷子になり、目的地を間違えれば全く違う地点に出る。そしてなにより、一度でも霧の森に足を踏み入れたならそこからは直進しか許されず引き返すことはおろか進路を変えることも許されないという大きな難点を抱えている。











キーン率いる東方面組は無事合流地点となっている霧の森入口に到着した。彼らの移動速度はドーリーの予想を遥かに超え、誰よりも早く霧の森へと到着した。キーン達が入り口で待機をしていると遠くから土煙とこちらに向かって騎馬を走らせる武装した一団が見える。


「敵のようだ。隠れよう。」


そう言うとキーンは仲間と共に近くの岩場に身をひそめる。キーンの目撃した騎馬の一団はドーリーの率いる精鋭部隊であった。その数はドーリーを含めて19名、その全てが騎乗している。ドーリー霧の森の前まで来ると周囲を見渡す。キーン達は岩陰で息を潜める。


「周囲に注意しつつ待機!!」


どうやらドーリーは隠れるキーン達に気づかなかったようである。しかしドーリーの部下達が常に周囲を警戒する態勢になりキーン達は岩陰から身動きが取れなくなってしまう。キーン達は見つかるかもしれないという強い緊迫感に長時間耐得ざるを得なくなるのであった。




緊張でどれだけ時間が過ぎたかわからない。


キーンが仲間たちの顔を見ると皆それぞれが置かれている状況に疲弊しきった様子である。どうにかしなければ、そうキーンが思っていると遠くで土煙があがり、それに続いて大きな音がこちらに迫ってくる。キーンが岩陰から音のする方を覗くと遥か彼方からコウを先頭に西方面への逃走班が駆けてくるのが見えた。仲間の無事にホッとしたキーンだが彼らの後ろに続く騎馬兵を見て顔を青ざめる。


「最悪だ。」


そう呟くと、天を仰ぎ見る。


「天狼王さま、もしも我が祈りが届くならどうか彼らに力をお貸しください…。」


天に願いを込めると、キーンは気を引き締めるように大きく深呼吸するのだった。





ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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