自由都市での新生活 ⑫
オドはユキにブランケットを返すのを諦め、せっかく寄ったということでダンのカフェで朝食を取る事にした。まだ早朝ということもあり、カフェはガランとしていた。
「おまち。」
ミアンはまだ来ていないようで、ダンが朝食セットを出してくれる。
「ありがとうございます。」
オドはダンにそう言って、今朝のセットを見る。
今日はシンプルに7枚のスコーンと一緒にティーカップとティーポットが置かれている。試しにティーポットの中身をカップに注いでみると不思議な香りと共に薄茶色の飲み物が出てくる。
「今朝はそれか。」
見たことのない飲み物にオドが困惑していると、いつの間にか現れたライリーがオドに声を掛けてくる。
「ライリー様、おはようございます。」
「うん、おはよう。それより、飲んでごらん。美味しいよ。」
そう言ってライリーはオドにその飲み物を勧める。
オドが試しに少し啜ってみると少し不思議な香りと共に仄かな甘さと独特の舌触りが口の中に広がる。甘さは控えめになっている様で、これが一緒に出されたスコーンの甘さとマッチし相性抜群だった。
「ほうじ茶ラテと言うんだ。イナリ王国原産の茶葉を使うそうなんだが、これが美味しいんだ。」
そう言ってライリーも早速ダンに朝食セットを注文する。
「そういえば、そのブランケットの持ち主は見つかったのかい?」
ライリーはオドが膝に置いていたユキのブランケットを指さして聞く。
「ユキさんの持ち物だったそうです。」
オドは何となく躊躇いを覚えたが素直に答える。
「そうか、ユキの物だったか。ユキとは会ったことがあるのか?」
「はい、何回かすれ違ったことがありまして、昨日初めて話しました。」
そう言うとライリーは少し考え込むように黙る。
「、、、、そうか。ユキには俺から渡しておこうか?」
「いえ、お礼もしたいので、自分でお返しすることにします。」
ライリーの申し出をオドは断ることにする。
ライリーはそんなオドの反応に少し驚いた顔をしていたが、すぐに笑いだす。
「ハハハ。そうだな。それが良い。」
その時、ダンがライリーの分の朝食セットを持ってきて、会話が中断する。
オドもスコーンとほうじ茶ラテが美味しすぎて、気付いたら皿もティーポットも空になっていた。ライリーはダンにオドに追加分を作るように言う。ダンは少し渋い顔をして「お前は俺らにはいつも我儘だよな。」とライリーに愚痴をこぼしつつ「すぐに出すよ。」と言って奥へと下がっていく。
「あの、、、」
「お代は俺が出すよ。」
オドが何か言いかけるとライリーはそう言って軽く手を振る。
「それより、この後は何か予定でもあるのかい?」
「あ、はい。新人冒険者研修の2日目で白鯨の丘に行きます。」
「そうか、楽しんでくるといい。そういえばオド君は鎧の準備はあるのかい?」
そう言われてオドは初めてビンスにも鎧を持ってくるように言われていたのを思い出す。
「用意していませんでした、、、。」
「そうか、なら担当職員に言えば貸してくれるだろう。まあ、少し大きい鎧しか無いかもしれないけどね。ダンジョンに潜るようになったら嫌でも揃えなければいけないだろう。まあキーンは嫌がって本当に着けていなかったけどね。」
そう言ってライリーは懐かしそうに笑う。
その後ダンが追加分のスコーンとティーポットを持ってきてくれると、席が空いていたせいかダンも一緒に座って3人で朝食を食べることになった。ライリーが50代、ダンが40代、オドが10代と随分世代の違う3人だったが、会話は盛り上がり、オドは楽しく朝食を終えることができた。
オドはダンにブランケットを預けることにして前日に言われた研修参加者の集合場所に行く。
既に昨日見た面々が集まっていて、ヨハンも今日はしっかりと間に合っていた。
ビンスが来た時にオドが鎧を持っていないことを伝えると、あっさり受付で貸し出し用の鎧を借りることができた。
「それでは、これより白鯨の丘へと向かう。こちらは今回、同行して頂くクラン・ホエールの方々だ。くれぐれも彼らの指示に従うように。それに反して命を落としてもそれは自分の責任だからな。以上。」
ビンスはそう言って後ろに控えていた40人程の一団を紹介する。
オドは聞きなれない“クラン”という言葉に戸惑いを覚え、隣にいたヨハンに聞いてみることにする。
「あの、すいません。」
オドがヨハンの腕をつつくとヨハンは少し怪訝そうにしながらオドを見る。
「なんだ?」
「あの、“クラン”って何ですか?」
「お前、そんなのも知らないのか?」
「ヴィルトゥスに来たばかりなので。」
オドがそう言うとヨハンは根が良いのか渋々といった様子ながらオドに教えてくれる。
「“クラン”っていうのは要は冒険者の集まった組織だ。総数で5000人規模の大クランが12個あって、さっきのクラン・ホエールもその1つだ。大体は本拠地のある市街地の名前からクラン名を取ってることが多い。奴らは鯨だから“鯨の目”に本拠地がある。クラン同士は常に勢力や縄張り争いをしていて、奴らはお父様の所属するクラン・アイの最大のライバルだ。これらの12のクラン以外にも中小合わせてヴィルトゥスには100ものクランがあるらしい。まあ15人のクランはクランというよりパーティーだけどな。」
「そんなのがあったんですね。」
オドは初めて知った情報に驚く。
そんなオドの様子にヨハンは溜息をつく。
「こんなのに意地張って負けたのがバカらしくなるな。お前に、、、」
「オドでいいです。」
「じゃあ、オド。教えてやる。恐らく今日から全てのクランがそれぞれ俺らの護衛や稽古の指導役をすることになるだろう。そこで目を付けられた奴には研修終了後にスカウトが行くんだ。まあ、もしスカウトが来なくてもクランの入団試験に受かればいいだけだけどな。奴らは4年に1度、開催される英雄祭の目玉行事のクラン対抗戦に向けて、とにかく血眼になって優秀な冒険者を探しているんだ。」
そんなことを話していると白鯨の丘の入り口に着いた。
ビンスの指示で20人程の研修生は4グループに分けられ、それぞれに10人程の現役冒険者がついた。どうやら皆、中堅レベルの冒険者のようでそこそこ装備も整っていて研修参加者に傷1つ負わせないつもりのようだ。
「ここで怪我人なんて出そうものなら格好の笑い物だからな。クランの面目を潰さないよう上層部も護衛役の冒険者も必死なんだ。」
同じグループになったヨハンが耳元でこっそり教えてくれる。
「それでは出発!!」
ビンスの号令でグループがダンジョンへと入っていく。
ダンジョンの入り口は大人が10人程並んでも通れる程の広さだった。
護衛の冒険者達も慣れている様で研修参加者にマップを見せながら進んでいく。ビンスの説明に会った通り、水をモチーフにしたモンスターや魚のような姿をしたモンスターが数多く出現した。護衛役の冒険者達も流石で全く焦ることなく流石のチームプレイでモンスターを捌いていた。
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