自由都市での新生活 ⑪
遅めの昼食を終えオドはダンのカフェを出ると、ダンに言われた通りライリーの元へと向かう。
3階に繋がる階段へ向かうと、衛兵が挨拶をしてオドを通してくれる。
オドは階段を登りライリーのいるであろう執務室へと向かう。執務室の前に着いたオドは何回か扉をノックするが、中からの反応はなかった。
「失礼します。」
恐る恐るオドが扉を開けて執務室に入ると、中には誰もおらずテーブルの上に置手紙があった。
【用がある者は4階闘技場へ】
置手紙を見たオドは執務室を出ると、その足で闘技場へ向かう。
闘技場に入ると剣を振るライリーの姿があった。
ライリーは筋骨隆々とした上半身を晒し流れるように素振りをしていた。その動きには無駄がなく全てが意志の下に統率された静と動であり、オドは思わずジッとその動きを見てしまう。まさに超一流冒険者の素振りだった。
「おお、来たか。」
そんなオドに気付いたライリーが声を掛ける。
「はい、ダンさんにライリー様に会いに行くよう言われまして。」
「そうだったか。久し振り、と言っても5日くらいぶりか。元気にしてたかい?」
「はい。お陰様で、ティミーさんにも良くして頂いています。」
「そうかそうか。」
そう言って笑いつつライリーは控室の方から一本の木刀を取ってくると、それをオドに投げて渡す。オドは受け取った木刀を見ると、その形は『コールドビート』によく似ていた。そして何より、重かった。
「馴染みの鍛冶師に言って作ってもらったんだ。重さも樫の中でも特に重い種を使っているから、本物に近い重量だろう。」
そう言うとライリーはオドの身体をジッと見ると、ニカッと笑う。
「まずは基礎と身体作りだな。」
オドは否応なしに稽古する流れとなり、与えられた木刀を握る。
「オドはさっきの動きを見たことあるだろう?」
ライリーにそう言われ、オドは初めて先程ライリーの行っていた素振りが、天狼族が剣契で行う剣舞と同じものであったことに気付く。それほどまでにライリーの動きは洗練されていた。
「はい、知っています。」
「なら話は早い。あれを、ひたすらやろう。剣舞を教わった時に聞いただろう? 剣舞は筋力増強の身体作りもそうだが、それ以上に自分の身体と精神を調和させるための物だ。イメージ通りに身体を動かし思った速さ、思った軌道で剣を振る。イメージ通りに身体を止めて、ここだという所でピタリと剣を止める。それが無意識でも出来るように反復を繰り返す。全てはここからだ。」
オドはコウに剣舞を教わった日々を思い出す。あれから半年も経っていないが、もう遥か昔のように感じられる。戻ることのできない日々の記憶への思いを振り切って、オドは剣舞を始めるのだった。
◇ ◇
「うん、最初はこんなもんだ。」
2人並んで剣舞をすること約3時間、ライリーはそう言って素振りを止める。
オドはライリーとの差に愕然としていた。
まずは圧倒的に体力と筋力の差があった。オドは素振りを初めてすぐに疲労の蓄積や集中力の切れがそのまま体の動きに現れた。それに比べライリーはこの3時間、一切そういったことは無く常に正確無比な剣舞を続けていた。
「久々にやっても身体が憶えているもんだな。まあ現役時代は毎日やっていたからな。」
ライリーはそう言うと肩を回す。
「そうなんですか?」
「ああ。こういうのは反復が全てだからな。それにキーンが毎朝やってたもんだから俺らの習慣になってな。あの頃はキーンに追いつこうと必死だったよ。」
ニカッと笑うライリーにオドは力無い笑みを返す。
「オド君はこれからだ。とにかく習慣にして長く続けることだ。キーンも剣を握ったのはオド君と同じ頃だろうからな。木刀は持って帰っていいからね。」
そう言うとライリーは軽く手を振って執務室へと戻っていく。
オドは既に痛み始めた腕で木刀を持つと控室へと戻り水浴びをする。
水浴びを終えたオドはライリーに挨拶を冒険者ギルドを出る。外は既に暗くなり始めており、オドは大犬亭へと足を向ける。
この日の帰り道は身体の重さとともに、いつもより長く感じられた。
大犬亭に戻ったオドは夕食を取る余裕もなくそのままベッドに入り眠りに落ちる。
オドが目覚めると外はまだ暗かった。
試しに大犬亭の屋上に出てみると少し冷たい風が吹いてくる。オドがぐるりと全方位を眺めてみると東側に見える黒梟の丘の輪郭が微かに明るくなってきているのが見えた。
「ぐっすり寝ちゃったな。」
オドはそう呟くと軽く伸びをする。
筋肉痛で痛む腕を擦りながらオドはエアーで剣舞の動きをしてみる。
朝の冷たい風が肌にあたり心地いい。しばらく動いていると身体が火照ってきて腕の痛みも馴染んでくる。
「行けるかな。」
オドはそう言うと下の部屋に戻って貰ってきた木刀を取り出す。
オドは木刀を構えると一度大きく深呼吸する。そして、かつて父親がそうだったように、東の城壁から差し込む朝日に照らされながら剣を振るうのだった。
◇ ◇
しばらく大犬亭の屋上でオドが剣を振っていると徐々に全身の感覚が深まっていく。
そんな時、オドの耳に遠くからの歌声が届く。素振りを止めて歌声の聴こえた方向を見ると、朝日を受けて影を落とす冒険者ギルドが見えた。
「あ。」
オドは何かを思い出したように自分の部屋に駆け降りるとユキから借りたままになっていたブランケットを引っ張り出すと慌てて一階へと降りて扉を開ける。が、すぐに大犬亭に戻ると服を脱いで水浴びをする。水浴びを終えると、改めて装備を整えて大犬亭を出ていくのだった。
早朝ではあるが冒険者ギルドへの道は混んでいた。
走りながらオドは冒険者ギルドを見上げる。オドには歌声が届いているが、道行く他の冒険者は平然としていて聞こえていないのか、それとも聞きなれているだけなのかオドには判別が付かなかった。
「しょうがない。」
オドは小さく言うと、路地裏に入って一気に建物の屋根の上まで跳び上がると、そのまま屋根の上を走って一直線に冒険者ギルドへと駆けていく。
冒険者ギルドに着いたオドはそのまま階段を登ると屋上へと出る。
オドは屋上を見回すが、そこにユキの姿はなかった。
どうやらオドとは違った階段を使って降りたようで、ちょうど入れ違いになってしまったようだった。オドは急いで行きとは違う階段を使って下に降りたがユキを見つけることは出来なかった。
もしかしたらと思いダンのカフェにも行ったが、ユキを見つけることは出来なかった。
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