自由都市での新生活 ⑨
「それでは、はじめ!!」
2人には木剣が渡され、ビンスの掛け声でオドとヨハンの模擬戦闘が始まる。
とはいえ、オドにとってはヨハン程度は相手にもならないのは明白だった。
剣の修練はそれなりに積んでいるようで基本に忠実な剣の構えはしているが、緊張で身体は強張っている。オド自身も剣の修練は殆ど積んでいないが、持ち前の観察眼と大星山で鍛えた身体がある。しかし、それだけである。
「うーん。」
オドはヨハンと対峙して少し唸る。
ライリーに言われオドも感じていたことだが、ターニャとの戦闘の勝因には『コールドビート』との魔力の同調によるところが大きかった。『コールドビート』が手元にない今、オドには抜きん出て並ぶ物の無いような、圧倒的といえる力はなかった。
「しょうがない。」
オドはそう呟いて身体の力を抜くと、一気に地面を蹴りヨハンへ接近する。
急に動き出したオドを見てヨハンは慌てて剣を振りかぶるが、既に遅かった。ヨハンが剣を振りかぶりきる頃には既にオドはヨハンの懐まで接近し終わっていた。オドはそのまま拳を握りしめると思いっきりヨハンの顎をアッパーで下から殴り上げる。
「うっ!!」
鈍い音と共に、ヨハンが後ろに吹き飛ぶ。まさにスピードとパワーのゴリ押しという力業でオドは戦闘を終わらす。ヨハンも何とか立ち上がるが、既にふらついており戦闘を続けられそうにはなかった。そもそもスピードもパワーも上回っている相手に勝つためには経験が物を言い、ヨハンにそんな経験値はなかった。
「そこまで!!」
ビンスの声が響き戦闘が終了する。
ビンスは2人を労うように拍手をすると、まずはオドに声を掛ける。
「いやはや、これ程とは。まさにポテンシャルを感じたよ。成長が楽しみだ。」
オドはビンスに軽く会釈する。
ビンスは満足そうに頷くと、今度はヨハンの元に行く。
「いいか、これが今の君の実力だ。ダンジョンに潜れば最後に自分を守れるのは自分しかいない。自分の実力も、相手の実力も、見誤ればそれは死に繋がる。ダンジョンに潜るというのは、そう言うことなんだ。」
ビンスはそうヨハンに告げると今度は戦闘を見ていた他の研修参加者の元へと向かう。
「最初は誰でもあんなものだ。ヨハンじゃなくても同じような結果になっていただろう。だが、それは仕方ない。お前らの最大の武器は伸びしろだ。これからダンジョンに潜るなら常に己を鍛えろ。自分に合った武器を、戦い方を探せ。挫折と失敗こそが最大の経験値だ。分かったか!!」
「「はい!!」」
ビンスの声に研修参加者は大きな声で返事をする。
「ただ、、、死なない程度にな。」
そう言ってビンスは笑うのだった。
その後、ビンス率いる新人研修の一団は冒険者ギルド2階の会議室に移動した。
どうやら、今日は座学のみのようで、全員が椅子に座るとビンスはダンジョンについての説明を始めた。
「まずは知っているだろうが、各ダンジョンの説明からだ。ヴィルトゥスには、、、、」
ここからはオドの知っていることや知らないこと、様々なダンジョンに関する知識の説明がなされていく。オドはビンスの言葉に耳を傾け、それをメモしていく。
--------------------
ダンジョンについて
ヴィルトゥスには白鯨、銀狼、金羊、黒梟、青龍の5つのダンジョンがある。ダンジョンの名前は、そのダンジョンの主であるボスを表している。
ダンジョンは下へ下へと階層構造になっており顕層階と深層階に分かれている。
顕層階は複数人での攻略が可能なエリアで全てのダンジョンが13階までである。顕層階は既にその全容が攻略により確認されておりマップもある。
深層階は単身での攻略しか許されない。これは深層階が常にその構造を変えているからであり、同時に侵入したとしても各々が違う場所に出てしまう。また、常に構造が違うため深層階のマップも存在しない。深層階は広大な洞窟空間になっていて、そのどこかにボスの待つ空間がある。
基本的に下の階層に行けば行くほどモンスターは強くなる。
定期的に各階層の主となるモンスターが出現する。新人は要注意。顕層階10‐13層のモンスターはそこそこ経験を積んだ冒険者でも単身で倒すのは難しい。新人では1層さえも奥の方は単身で挑むのは危険。深層階に行くのは超上級冒険者だけ。
モンスターは地上の生物とは違い、生きてはいない。
モンスターは魔力を帯びており倒すと消滅する。その際に核となっていた魔石と共に鉱物やアイテムをドロップすることがある。下層のモンスターであればあるほど魔石のサイズは大きくなり、稀少性の高いアイテムをドロップする。モンスターは倒してもダンジョンより無限に出現する。過去にモンスターがダンジョンからヴィルトゥスの街に溢れたことがあるらしい。
ダンジョンごとに出現するモンスターの種類に特徴がある。
まずは相性のいいダンジョンを見極めるのも重要。大まかな特徴は以下。白鯨:水系統、魚のモンスター。銀狼:土系統、獣のモンスター。金羊:魔術系統、植物・動物全般のモンスター。黒梟:風系統、鳥のモンスター。青龍:火系統、ドラゴンのモンスター。
とにかく最初はパーティーに属し、経験者と共にダンジョン攻略を進めるべき。
--------------------
「こんなところだな。」
そう言ってビンスが話すのを止める。
研修参加者達がペンを走らせるのを終わらせるのを待ってビンスは再び口を開く。
「ダンジョンに関する大体の概要は以上だ。まあ、行ってみないと実感が湧かない部分もあるだろう。明日は実際に白鯨の丘を見に行く。もちろん冒険者も同伴するので心配しなくてもいい。質問はあるか?」
ビンスは研修参加者を見渡し、挙手がない事を確認する。
「うむ。それでは今日と同じ時間に冒険者ギルドの西側出口に集合だ。鎧を忘れるなよ。それでは、解散。」
ビンスの言葉に、研修参加者が各々の冒険者が帰路に就く。
ビンスに会釈して会議室を出ると、だいたい昼過ぎ位の時間だった。沢山メモをし、頭を使ったオドは空腹感を覚え、お腹を抑える。ふと、冒険者ギルド2階の反対側にダンのカフェを視界が捉える。
オドは空腹に耐えられないとばかりにダンのカフェへと走っていくのだった。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)




