自由都市での新生活 ④
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翌日、正式にオドとライリーは借用の契約を結び『コールドビート』の質入れが決まった。
ライリーからオドに貸し出された金額は大金貨4枚(40万トレミ)、金貨18枚(18万トレミ)、銀貨18枚(1万8000トレミ)、銅貨18枚(1800トレミ)、一分銅20枚(200トレミ)の計60万トレミで、この額は大体初心者冒険者の5ヶ月分の総報酬に値する程度の金額だった。
「これで契約は以上だ。少なくはないが多すぎる額ではないだろう。しっかりと返してくれよ。」
ライリーはそう言うとニカッと笑う。
「はい。今日までの厚い待遇の御恩は忘れません。必ず返済します。」
オドはライリーに強く頷く。
「ああ。それと時間ができたら君の剣を振りに来なさい。僕が相手するよ。」
ライリーは最後にそれだけ言うと客間を出ていく。
オドはほんの数週間ではあるが自分の過ごした客間を見渡す。そもそもオドが持ち込んだ物と言えば武器と着ていた服くらいなもので残りは全て客間に用意されていた物を使っていた。
「ありがとうございました。」
自分の武器を全て装備し、受け取った金の入った袋を握りしめ、オドは客間にお辞儀をして扉を出ていく。誰もいなくなった客間の窓から暖かな光が静かに差し込む。
◇ ◇
客間を出たオドはそのままで冒険者ギルド1階のエントランスまで降りる。
オドはライリーに渡された入居申請書を見る。
ライリーが言うにはこの紙をギルドの受付に提出すればいいそうで、オドはそれに従って他の冒険者と同様に受付の列に並ぶ。冒険者ギルドの中央には16個の受付窓口があり各列に冒険者が7、8人程並んでいる。
オドが観察していると、すぐ要件が終わる場合もあれば、じっくりと話し込む場合もあるようだった。幸いオドの並んだ列は調子よく進みすぐオドの番がくる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。」
受付の女性が声を出し、オドの番を告げる。
受付に座る女性はエルフのようで白い肌と長い耳が特徴的だった。
オドが少し緊張しながら進むと受付の女性と目が合う。どうやらオドのような少年が受付に1人で並ぶのは珍しいらしく、女性の瞳に一瞬、驚きと哀れみの色が映る。オドもそれを見逃しはしなかったが、それが嘘かのように女性は何事もないようにオドから書類を受け取る。
「少々お待ちください。」
書類を受け取った女性は最初、書類に目を通していたが、一度目を見開き少し慌てたように立ち上がり奥の書類管理室へと入っていく。しばらく待っているとその女性と共にターニャが出てきた。
「お待たせしました。」
ターニャはそう言うとオドに書類を渡してくれる。
「ありがとうございます。」
オドが書類を受け取るとターニャが小さくオドに手招きする。
オドが顔を近づけると小声でダンのカフェに行くように耳打ちをされる。オドはターニャに小さく頷くと受付から離れる。
「いらっしゃい!!」
オドがダンのカフェに行くとダンのパートナーで猫人の店員ミアンが声を掛けてくれる。
「オド君、久し振りじゃない? 今日は1人でのご来店?」
「いや、ターニャさんにここで待っているようにって言われたので、、、」
「ターニャ? そりゃまた時の人からのお声がけだねえ。」
「時の人?」
ミアンの含みのある言い回しにオドが首を傾げる。
ミアンはオドの様子を見ると、オドをカフェの一角にある席に連れて行き、ひそひそと話し出す。
「オド君は知らなかったのね。実はターニャが最近、“鯨の目”に住む近頃グイグイ来ている若手冒険者からの求婚を断ったって噂なのよ。その冒険者は乗りに乗っているみたいでボス討伐も近いんじゃないかって言われているんだけど、、、、、」
「ミ~~~ア~~~ン~~~」
後ろから自分の名を呼ぶ怒気のこもった声にミアンはビクッと身体を揺らす。振り返るとそこには仁王立ちをして2人を見下ろすターニャの姿があった。
「ワッ、ワタシハオシゴトニイカナクチャ。」
そう言ってその場を離れようとするミアンの肩をむんずと掴みターニャが笑顔を向ける。
「貴女のお口には塞ぐものが必要なのかもしれないわね。」
ミアンはぷるぷると首を振り、解放される。
大慌てで奥に引っ込むミアンの後ろ姿に溜息を着くとターニャはオドの横に座る。
「本当に、あの子は、、、。」
そう言ってターニャは呆れたように首を振る。
「本当なんですか?」
オドの率直な質問にターニャは一瞬だけ固まるが、すぐに諦めたように微笑む。
「オド君に隠すことではないわね。でも、ミアンのように口を滑らしたらお仕置きだからね。」
そう言うターニャの笑顔に圧を感じつつオドが頷く。
「その男性冒険者から求婚を受けていたのは本当よ。なんでも強い女性が好きとかなんとかって言ってね。それで私もそろそろ身を固める時期かなと思って迷っていたのよ。」
ターニャが話だしオドはうんうんと頷く。
「ちょうどそんな時にライリー様からオド君との模擬戦闘の話があってね。それで吹っ切れたのよ。」
突然出てきた自分の名前にオドが首を傾げる。
「あの日、オド君に負けて、凄く悔しかったと同時に懐かしい気分になったのよ。私と同世代の冒険者は不作って言われていてね。私の現役時代と時期的に被った私より強い冒険者はダンさんの世代にしかいなくて、戦闘で負けたのは凄い久しぶりだったのよ。それで思い出したの。私は私より強い、憧れられる人と添い遂げるっていう昔の信条を。」
随分と冒険者らしい信条だなと思いながらオドは頷く。
「それでね、その冒険者に決闘を申し込んだのよ。それを聞いた彼も最初は女性を傷つけたくはないとか言っていたんだけど受け入れてね。ガチンコの決闘をしたのよ。」
「結果は、、、?」
オドがおずおずと聞く。
「ボロ勝ち。もうコテンパンに私が勝ったの。有り得ないくらいだったわ。あれでボス討伐も近いなんて笑っちゃうわ。それで、私が求婚を断ろうとしたら、こんな戦闘狂女は願い下げだって逃げてったのよ。それがタイムスに情報が捻じ曲がってリークされたって訳。まあ私に負けたって言わない辺りリーク元の予想はつくけど。」
そう言ってターニャが笑う。どうやら本当に未練も無いようでケロっとした表情をしている。
「それよりオド君、貴方の話よ。入居登録をしたなら冒険者登録をしないと依頼が受けられないわよ。けど、、、」
「けど?」
「冒険者登録には約2週間の研修が必要よ。」
「研修、ですか。」
ターニャの言葉をオドが繰り返す。
「そう。研修期間。ここでダンジョンの説明や戦闘の実習、アイテムの換金とかを学ぶのよ。冒険者登録と冒険者ランクの認定はその後。これは優遇措置はない。冒険者になるなら全員の通る道よ。」
「そんなものがあるんですか。」
オドは初めて聞く研修制度に頷きながら、まずはここからと意気込む。
「その表情なら心配は無いわね。まあ何が言いたかったかって言うと、この間の模擬戦闘が楽しかったってことよ。それじゃあ、頑張ってね。オド君。」
そう言うとターニャは去っていく。
オドがカフェを出ようとするとミアンがこめかみを抑えているのが見えた。どうやらターニャに随分絞られたようだ。そんな平和な光景に微笑むと、オドは前を向きヴィルトゥスの街へと冒険者ギルドを出ていくのだった。
安直ではあるのですが1トレミ=1円換算で大丈夫です。大金貨=10万トレミ=諭吉10枚、金貨=1万トレミ=諭吉1枚、銀貨=1000トレミ=英世1枚、銅貨=100トレミ=100円玉、一分銅=10トレミ=10円玉のイメージです。その為、オドの受け取った額は日本で言う60万円です。ちなみに、冒険者ギルドの地下には大量の金が保管されているなんて都市伝説があるという設定があったりします。いつの時代、どんな世界でも稀少性は信頼と結びつくものなのかもしれません。




