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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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自由都市での新生活 ③


「まずは、薄々感ずいているだろうが、俺がオド君に特別手厚い待遇をしている理由についてだ。」


ライリーはそう言うとオドをじっと見る。


「まあしがない引退冒険者の昔話だがね。かつて俺はダン、クルツナリック、ティミーの4人でパーティーを組んでいたんだ。当時27、8歳ぐらいの俺は向かう所敵なしでね、既に皆ボス・スレイヤーになっていた。その中でも俺はその時には3つのダンジョンを踏破していて、正直に言って有頂天になっていたんだ。」


ライリーはオドを見て目を細める。


「そんな時だ、ヴィルトゥスに1人の北方出身の獣人が現れた。その獣人は翡翠色をした魔剣を持った19歳の青年で、名前をキーン・カノプスと言った。そう、君のお父様だ。」


驚きの表情を浮かべるオドにライリーは微笑む。


「キーンはヴィルトゥスに来た時には既に相当やり手の剣士でね、瞬く間にこの街で頭角を現した。俺ら4人も最初はそんなキーンが気に入らなかったが、ある時キーンと一緒にダンジョンに行く機会があってね、その時に受け入れざるを得なかった。」

ライリーは目の前に座る少年をかつての戦友に重ね合わせて言葉を続ける。

「ヤツは俺達よりも一回り歳が下だったが、彼こそが俺達の世代を代表する冒険者になるということを確信した。キーンにはそれだけの実力とうつわ、そして、なによりはながあった。俺達4人はキーンとすぐに仲良くなった。あの頃は5人全員が殿堂冒険者になって、ギルドマスターにキーンがなる日を夢見たものだ。しかし、、、ヤツはヴィルトゥスには残らなかった。」


ライリーはオドの横に鎮座する『コールドビート』を見る。


「キーンはヴィルトゥスに滞在した5年間で全てのダンジョンを踏破した。たったの5年で全てを成し遂げるのも、24歳という冒険者としての全盛期に達する前の年齢で殿堂冒険者となったのも、この街の長い歴史の中で彼、キーン・カノプスしかいない。しかし、、、そんな偉業を達成した日に、キーンは笑っていなかった。そして、次の日、キーンはヴィルトゥスから姿を消したんだ。」


オドの記憶が正しければ、オドの産まれた12年前、キーンは30歳手前だったはずである。オドは今まで知る事のなかった父親の過去にただただ衝撃を受けていた。


「その日、僕とクルツ、ティミー、ダンはそれぞれキーンから手紙を受け取った。そこにはキーンのカノプスというファミリーネームが偽名であったこと、俺達への感謝、そして“するべきことができた”とだけ書いてあった。最初はキーンに捨てられたような気分だったし、街の世論も殿堂冒険者という栄誉への裏切り行為として受け止められ、既に街にいないキーンへのバッシングの声が上がっていた。僕達は当時のギルドマスターにキーンの行方を問い詰めたが、ついにギルドマスターが口を割ることは無かった。」


ライリーはコーヒーをすすり、一度息を吐く。


「それでも、俺達とキーンの間の友情は本物だったし、きっと街を去るべき理由があったのだと後になって納得できるようになったよ。だからこそ、あの日、精霊の森で倒れているオド君を見つけた時、本当に驚いた。服装もそうだが、その長く量のある髪とキーンに似た雰囲気、なにより君の傍らに落ちていた魔剣。すぐに察したよ。」

ライリーが再びコーヒーを一口飲む。

「君が目覚めた後、君からキーンのその後を聞かされた時はもうかつての旧友に会えないことを知って思わず眩暈がしたよ。それと同時に彼のこの世への置土産であるオド君に同情したし、助けたいと思ったんだ。」


ライリーはそこまで言うとソファから立ち上がり窓の外へと目を向ける。


「これが、わざわざギルドの客間を空けてまで、君をもてなした理由だよ。」


オドは父・キーンの繋いだ自分とヴィルトゥスの縁に不思議な気分になり、ふと傍らの『コールドビート』に目を落とす。『コールドビート』は変わらずその場に鎮座し、オドの目に刀身に刻まれた一節が映る。


「しかし、」


ライリーがオドに振り返る


「君もまたヴィルトゥスの市民となる事になった。君が社会ヴィルトゥスに出る以上、これからは特別待遇をする訳にはいかない。ここは実力ちからうんの街、これらは自分自身で掴み取る物だ。この街で暮らす以上は常に己の行動には責任が付いて回る。それが自由都市で生きることの代償となる。君にはそれをわかっていてもらいたい。」


ライリーは再びソファに腰を降ろし、コーヒーに口をつける。


「とはいえだ、オド君。君は一文無しだ。今日までの待遇については僕の責任だ。しかし、これからの新生活には金が要る。ツテもないだろうから僕が資金を貸そう。」


ライリーの言葉にオドが顔を上げる。


「ただしだ。それには君の魔剣『コールドビート』の質入れを条件とさせてもらう。かわりに、暇になった時に僕の所に来れば、僕との稽古の時だけ『コールドビート』の使用を許可しよう。これでどうだ?」


ライリーの言葉にオドは少し俯き傍らの『コールドビート』に目を落とすが、すぐに意を決したように顔を上げる。


「よろしくお願いします。」


「うん、よろしい。まあ、質としてもだが、オド君には『コールドビート』の魔力に頼らなくても強い冒険者になって欲しいからね。」


オドの回答に満足したようにライリーは頷く。


「話は以上だ。長々とすまなかったね。お金は明日までに用意しよう。それまでは『コールドビート』は君が持っているべきだ。」


ライリーはそう言うと立ち上がり執務机に戻る。


「失礼しました。」


そう言って執務室を出ていったオドの足音を聞きながらライリーは窓から見えるヴィルトゥスの街並みを眺める。


「俺もまだまだ甘いな。」


小さくライリーはそう呟くのだった。


ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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