自由都市での新生活 ②
ライリーはオドを連れて冒険者ギルドの西側出入口を抜ける。
時刻的にはまだ早朝だが、既に1階のエントランスロビーには人が集まり始めていた。
ライリーとオドは続々と冒険者ギルドに入ってくる人々を避けて大通りを西へと進む。ライリーは深々と被ったフードで視界が悪いはずなのにも関わらずグングンと進んでいく。
「なんでフードを被ってるんですか? 雨なんて降っていないですよ?」
ライリーの横にピッタリとくっつき移動するオドは、不思議に思ってライリーに問いかける。
「ここでは有名人だからね。下手に詮索されたりしないようにさ。」
そうオドに返しながらライリーは内心“特にオド君のことを”と呟くのだった。
大通りを真っ直ぐ進むとY字路にぶつかる。
Y字路の左側は“白鯨のダンジョン”に続き、右側は錬金術ギルドがあり、その先には“獅子の爪”の市街地が広がる。ライリーは迷わずY字路を右に進んでいく。ノースウェスト錬金術区の横目にしばらく進むと市街地“獅子の爪”が現れる。その頃には陽も登り始め街に活気が出て道には多くの人々が歩いている。
「こっちだ。」
ライリーはそう言うと市街地に入っていく。
いくつか角を曲がり、どんどん道が狭くなっていくがライリーは気にせず進んでいく。
徐々に人通りはまばらになっていき、最終的には誰もいない路地裏へと景色が変わっていった。
「さあ、着いた。」
ライリーがそう言って角の前で立ち止まる。
オドがライリーを見ると、フードを取ったライリーがオドに角を曲がるように促す。オドはライリーの前に出て角を曲がると、細い道が緩やかな階段で登りになっており、その先に行き止まりが見えた。行き止まりには木造で2階建ての一軒の宿が立っている。その宿は屋上もあるようで、柵と紅い布のタープが見える。その建物は石造りの多いヴィルトゥスの中では珍しく映った。
「目的地はあそこですか?」
オドがライリーに問うとライリーは頷く。
オドが緩やかな階段を進み、宿の前に立つ。
扉の上に木枠が掛けられており、そこには『大犬亭』と書かれている。オドが宿を見上げていると、ライリーがオドの近くに歩み寄る。
「この宿をオド君に紹介しようと思ったんだ。ここの亭主とは顔馴染みでね。」
ライリーはそう言うと大犬亭の扉をノックする。
「いらっしゃい。うちに何の用ですか。」
そんな言葉と共に眼鏡をかけた初老の男性が姿を見せる。
男性は背が高く背筋はピンと伸びている。表情は優しげな面持ちで、神父のような恰好をしていた。
「おう、ティミー。俺だ。」
「なんだ、貴方でしたか。それと、、、」
ティミーと呼ばれた男性はオドをジッと見る。
「オド・カノプスです。はじめまして。」
オドがすかさず挨拶をすると男性も「ティミーと申します。はじめまして、オド君。」と挨拶を返してくれた。ティミーはライリーとオドを大犬亭へと引き入れて、ドアを閉める。
大犬亭は中も全て木造でできており、そこそこの広さがあった。
ライリーはオドに2階も見てくるように言うとティミーと話し始める。
「ティミー、彼次第ではあるんだが、オド君をここに居候させて欲しいんだ。」
「それはいいですが、、、オド君は“彼”の血族ですか?」
「ああ、そうだ。」
「やはりそうでしたか。、、、懐かしいですね、、、」
そう言ってティミーは自分の手元を見てからライリーを見る。
◆ ◆
オドが大犬亭の2階を見て回り1階に降りると、ライリーとティミーは昔話に花を咲かせていた。
オドとしては木造建築に大星山の頃の雰囲気を感じ、気に入っていた。
「ああ、オド君。どうだった。」
「はい。良かったです。」
オドに気付いたライリーに声を掛けられ返事する。
「そうか、そうか。オド君次第だが、ティミーはこの宿に下宿してもいいと言ってくれているよ。まあ、どうするかはギルドに戻ってから聞くよ。話したいこともあるしね。」
そう言うとライリーは立ち上がりコートを羽織る。
ティミーも立ち上がると2人を扉まで見送る。
「お茶も出せないですまなかったね。ここに下宿しなくても、たまに遊びに来てくださいね。若い人と話すのは楽しいですから。」
ティミーはオドにそう言うとライリーに手を挙げて2人を送り出す。
◇ ◇ ◇
オドが冒険者ギルドに戻ると『コールドビート』を持ってライリーに執務室に来るよう伝えられた。
一度部屋に戻ったオドはすぐに『コールドビート』を背負って執務室へと向かう。
「失礼します。」
オドが執務室に入るとライリーが紅茶を淹れていた。
「ああ、来たか。そこのソファに座って待っててくれ。」
そう言われてオドがソファに座って待っていると、ライリーがオドの分の紅茶を用意してソファの前の机に置き、ライリーは執務机に置いてあるコーヒーを持ってオドの向かいのソファに腰掛けた。
「オド君がヴィルトゥスの街に住むに当たって話しておきたいことがあるんだ。」
窓からは登りきっていない陽が差し込み、執務室はコーヒーの匂いで満ちていた。
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