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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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新たな土地、新たな人々 ⑭

◇ ◆ ◇ ◆ ◇


かくして天狼族シリウス生き残り(サバイバー)たる少年、オド・シリウスは、その名をオド・カノプスと偽り自由都市ヴィルトゥスの市民として受け入れられることとなった。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



模擬戦から2日後、オドに冒険者ギルドからの外出許可が降りた。


初めて冒険者ギルドの外に出たオドはクルツナリックに案内されて部屋探しへと行くこととなった。


オドが最初に案内されたヴィルトゥスの中心部の一角であるノースイースト商業区では市場や屋台が道に並び、多くの冒険者達が行きかう賑やかな場所で、小さな商会や質屋がひしめくように並んでいた。次にオド達が訪れたサウスイースト鍛冶区にはその名の通り鍛冶師達の工房が並び、煙突から絶え間なく煙が立ち上っていく。


更にサウスウェスト商業区には大きな商会や高級レストラン、更には商会が共同で運営する大型商業施設が並び、きれいな恰好をした人々が忙しく道を行き来している。中心部で最後に訪れたノースウェスト錬金術区では不思議な色や形のデザインをした錬金術師の工房が並び独特な雰囲気を醸し出している。


「今日はここまでだね」


陽が傾き始め空がオレンジ色に染まる。空を見上げてクルツナリックはそう言うと冒険者ギルドへと戻る。市街地の案内は翌日にする事になった。



◇ ◇



次の日、オドは早朝からクルツナリックと2人で市街地を見に冒険者ギルドを出る。


クルツナリックは支部長なだけあり有名人なようですれ違う冒険者の中にはクルツナリックに挨拶する者もいる。クルツナリックは片手を挙げてそれに返すとオドを連れて大通りを進んでいく。


オドがまず案内されたのがヴィルトゥス南部、ハッタン地区に属する“鯨の目”と“龍の右翼”の2つの市街地だった。“鯨の目”は閑静な高級住宅街で大きな邸宅が立ち並んでいた。市街地には水路が通されており、そこを行き来する商船を見ることができる。


「“鯨の目”に住めるのは商売で儲けた者や冒険者や鍛冶師として名を上げ財を成した者達じゃ。その代わり税金も多く取られるがな。そういう意味で、ここに住むのは特権であり、憧れでもあるんだよ。」


「それじゃあ、クルツナリック様の家はここにあるのですか?」


そう問うオドにクルツナリックは笑って首を振る。


「足るを知る事が肝要なのだよ、オド君。君もそのうちわかるさ。」


それだけ言うとクルツナリックは南大通りを挟んだ反対側、“龍の右翼”へと足を向ける。


“龍の右翼”も“鯨の目”程ではないが庭付きの一軒家が並ぶ住宅街で閑静な面持ちをしている。こちらには冒険者と鍛冶師が多く住んでいる様で、格好良い鎧を纏った冒険者が道を行き来していた。


「次は東側、ブルック地区へ行こう。」


オド達は鍛冶区を抜けてヴィルトゥス東部、ブルック地区に属する“龍の左翼”と“ふくろうの右翼”へと向かう。移動してオドがまず驚いたのは市街地の雰囲気の違いだった。ブルック地区の市街地には一軒家もあるが宿アパートが多く、宿の1階はパブのような居酒屋や食堂、アイテムショップや武具店、骨董商など様々な店が開かれ、先程までの閑静な市街地から一転、生活感あふれる騒がしい市街地となっている。オドにとっては初めて見る商品や美味しそうな香りに溢れ、オドはきょろきょろと周囲を見回す。


「これで驚いちゃあいけないよ。さあ、次はロンクス地区だ。」


市街地に興味津々といった表情のオドにそう言うとクルツナリックは北へと足を向ける。


オド達がヴィルトゥス北部、“ふくろうの左翼”が属するロンクス地区に入るとそこも雰囲気が全く違っていた。“梟の左翼”には小さな宿アパートが所狭しと並んでいるが人通りはなくガランとしている。


「ここにはヴィルトゥスに入居したての言わば下積みの冒険者が多く暮らしているんだよ。彼らは依頼を取るために早朝から冒険者ギルドに向かうから日中は余り人がいないんだよ。」


クルツナリックの言葉に頷きながら自分もここがスタート地点なのかなとオドは思うのだった。


「最後は西側だ。さあ、行こう。」


陽が傾き始めるなか、クルツナリックとオドは西側へと歩き出す。


錬金術区を抜けて最後にオド達が訪れたのはヴィルトゥス西部、“獅子の爪”と“狼の牙”の2つの市街地が属するクイーン地区だった。夕暮れ時なこともあって道には多くの冒険者が溢れていた。雰囲気はどことなく反対側のブルック地区に似ていて、灯りが多く灯り、食堂やパブから冒険者や錬金術師達の賑やかな声が聞こえてくる。ブルック地区との違いは市街地で見かける冒険者に少し獣人が多いように見えることくらいである。


「ちなみに私は“狼の牙”の住民なんだよ。」


そう言われてオドは少し驚く。クルツナリックの姿はからはクイーン地区のような雑多なイメージがわかなかった。


「そうなんですか。」


オドが驚いたように言うとクルツナリックはケラケラと笑う。


「良い酒場があって、騒がしい飲んだくれ共がいてくれれば、それで満足だよ。」


そう言ってクルツナリックは御猪口をクイッと仰ぐ仕草をして微笑む。


「まあ、オド君には“獅子の爪”がオススメかな。あそこはライリーの出身地区だし、君にも縁のある街だよ。それじゃあ、今日はギルドに戻ろう。」


クルツナリックはそれだけ言うと冒険者へと歩き出し、オドもそれに続く。


冒険者ギルドまで戻り、オドはクルツナリックに案内の感謝を伝える。クルツナリックは軽く手を振って、“狼の牙”の方面へと帰っていく。


オドは深々と頭を下げてそれを見送るのだった。



ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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