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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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新たな土地、新たな人々 ⑫



暗い廊下の先で楕円形の闘技場がオドを出迎える。


闘技場はそこそこの広さがあり、それを囲うように観覧席が段々になって設置されている。


「紹介しよう。現在、僕の客人として当ギルドに滞在している、オド・カノプス君だ。今回は彼にターニャ君の相手をしてもらう。」

ライリーがそう言うと支部長達と思われる他の観覧者が少しざわつきだす。


どうやらオドのような未だ12歳の少年をライリーが客人としてもてなしていることに違和感を抱いているようだ。並んで座る彼らはひそひそと隣同士で話合いながらチラチラとオドに目線を送る。


「ライリー殿。この街の部外者をヴィルトゥスの中枢たる冒険者ギルドにて接待しているということは、彼にはそうするそれなりの理由があるのでしょうな。」


支部長の1人がライリーに問う。

オドも薄々感じていたが、彼の口調が示すようにライリーのオドへの待遇はかなり特別なものだったようだ。そもそも情報流出に敏感なはずのヴィルトゥスの盟主が負傷しているとはいえ部外者をヴィルトゥス市民でも入れない冒険者ギルド上層階に入れるはずが無いのだ。


「彼は僕の古い友人と縁があるんだ。それに、、、うん。今に分かる。」


ライリーは少し声のトーンを抑えて自分の前に並んでいる支部長に伝える。

声のトーンが低いせいでオドはライリーの声を聞きとれず、疑問が胸に残る。どうやら支部長達も納得していないようでオドに見定めるような目線を送ってくる。


「失礼致します。」


オドが支部長達の視線に耐えていると闘技場の反対側からターニャが姿を現す。


ターニャも今日はいつものエプロン服ではなく冒険者風の戦闘服を身にまとっている。ターニャもオド同様鎧は身に着けておらず盗賊シーフ風の軽装備だが左右の腰にダガーを5本ずつ、太ももにナイフを1本ずつ装備しているのが見える。


「よし、これで揃ったな。」


そう言ってライリーが立ち上がる。


「それでは、これよりターニャ・アルザース、オド・カノプス両名による模擬戦を始める。ルールは簡単、どちらかが戦闘不能になる、もしくは、どちらかが降伏をした段階で決着。以上だ。各々存分に己が実力を発揮することを期待する。」


ライリーの宣言でその場の雰囲気が引き締まる。

ターニャがタガーを両手に握るのを見てオドは戦槌を握る。スピード勝負の接近戦に『コールドビート』のような長剣は不利に思えた。


「それでは、、、、はじめ!!」


ライリーの宣告により戦闘が始まる。



最初に仕掛けたのはターニャで、一気に床を蹴りオドに接近するとタガーを一閃する。それをオドは屈むようにして避けると戦槌をターニャの手元へと振り上げる。迫る戦槌をターニャはタガーで防ごうとするが、戦槌の重さによりダガーは弾き飛ばされる。


「っく!!」


ターニャは一気に後方へと飛び退くと再び腰のダガーを握ると、それをオドに向けて投擲する。オドは迫るタガーを一本は避けもう一本は戦槌で叩き落す。


「っふ!!」


ターニャはさらにもう2本タガーを投擲する。今度もオドはこれを避ける。しかし、オドが有利に見えたのはここまでだった。ターニャは速度のギアを一気に上げ、オドに迫っては切りつけ、飛び退いては投擲を繰り返す。オドも攻勢に出ようとするが、飛んでくるダガーの処理で間を埋められてしまう。


「ちっ!!」


飛んでくるダガーを戦槌で叩き落し、オドは舌打ちをする。オドは完全にターニャの術中に嵌っていた。

ターニャは敢えてダガーを闘技場内に散らばらせ、ダガーの落ちている方向に飛び退くことで絶え間のない一方的な攻撃を実現させていた。オドも飛んでくるダガーを一箇所に集めたり、飛び退く方向を予測しようとするが、ターニャはかなり戦闘慣れしている様で全く上手くいかない。


、、、このままでは負けないけど、勝てもしない。


久々の戦闘に当初はバタついたが、オドも徐々に感覚が戻り状況を俯瞰で見れるようになってきた。

オドにとってターニャの攻撃を避けるのもタガーの処理もそこまで難しくはないが、ターニャは上手くオドの出鼻を挫き、このままでは埒が明かない。


「ならば、、、!!」


オドは戦槌を腰に差すと、『コールドビート』を抜き放つ。


、、、ドクン!! と鼓動が強まり、『コールドビート』が光を放つ。ターニャもオドの纏う雰囲気が変わったのを見て一度距離を取る。


「、、、ほう。」


2人の戦闘を見ていたライリーは『コールドビート』を抜いたオドを見てニヤリと笑う。

『コールドビート』の放つ光はオドの身体も包み込み薄っすらとオドの身体が輝く。オドの瞳も『コールドビート』の放つ光のようにゆらゆらとオーロラの雄姿を映す。


「あれは、、、魔剣か!!」


にわかに支部長達がざわめくが、もはやそんな声はオドの耳には届かなかった。


オドは自分の感覚が深まっていくの感じる。

普段は何となくしか感じれない第6感ともいえるような感覚が手に取るように分かった。


「うん。こんな感じだ。」


オドは小さく呟くと、ゆっくりとターニャの方向へと踏み出す。


当然ターニャもダガーでオドに切り掛かろうとするが踏み出そうとした瞬間にオドの身体が半歩右にズレる。ターニャは危険を感じ咄嗟に飛び退くがオドは変わらずゆっくりと歩いている。


「、、そう。」


オドのしたことは単純で、ターニャが踏み出そうとした瞬間に右に移動しターニャの間を外しただけなのだが、始動の瞬間ドンピシャでそれを行うことでターニャの攻撃の出鼻を挫いた。


オドは同じことを投擲の場合でも行う。つまり、ダガーを投げようとする瞬間、ターニャの修正が効かないようなタイミングに半身だけ身体をズラすのだ。


「っち!!」


今度はターニャがイラつきだす。


攻撃が全てオドの不思議な間によって潰されている。

オドはターニャに近づいてきているため、攻撃対象がどんどん大きくなっているのに碌に攻撃ができない。


「何が起きているんだ、、、!!」


観戦している支部長達は目の前で起きている不思議な現象に困惑する。

クルツナリックもまた目を見開いてオドの動きに釘付けになる。12歳の少年は一度も剣を振ることなく、ゆっくりと歴戦の冒険者を追いつめていた。


「参りました。」


結局、オドは『コールドビート』を振ることなくターニャとの模擬戦に勝利した。


「オド・カノプスの勝利!!」


ライリーがオドの勝利を宣告する。


拍手が闘技場に響き、オドは『コールドビート』を鞘に納める。

拍手が鳴りやむのを待ってライリーが口を開く。


「2人ともお疲れ様。オド君、おめでとう。君の勝利だ。ターニャ、お疲れさま。後で少し話そう。だが、その前に、、、、」


ライリーはオドに目を向けるとニヤリと笑う。


「次は俺が相手だ。」

ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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