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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第1章 自由都市ヴィルトゥス(前)
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新たな土地、新たな人々 ⑩


オドのいる部屋に入るライリーの腕には漆塗りの黒い木箱が抱えられている。


「失礼するよ。」


ライリーはオドのいる机まで来ると、そこに木箱を置く。


ガラス製の蓋からはオドの剣『コールドビート』がその姿を見せる。


「明日のためにオド君にはこれを返さなければと思ってね。」


そう言うとライリーは木箱の蓋を開け、『コールドビート』をオドの前に置く。オドは『コールドビート』を持ち上げ、まじまじと手元に戻ってきた自分の剣を見つめる。


『コールドビート』はオドの髪と同じ青黒い刀身に光を映して金色のツヤを輝かせる。オドが剣の柄を見ると、変わらずそこには『その血、その涙、その痛みこそ糧なれば、其方の歩みに実りが訪れん』という一節が刻み込まれている。


「僕の歩み、、、」


オドは小さく呟くと剣の柄をギュッと握りしめる。


長い柄と太い刀身はオドの身体にフィットし、剣の重みと冷たい感触がオドの手にズンと馴染む。


「大事な剣なんだな。」


そんなオドの様子を見てライリーが声を掛ける。


「はい。血の契約を交わした剣ですので。」


オドがそう言うとライリーは「そうか。」とだけ言って頷く。



オドが一通り『コールドビート』の確認を終えて、剣を鞘に仕舞い終わるのを確認してライリーが口を開く。


「それで、明日の模擬戦についてなんだがターニャに言ったようにヴィルトゥスの支部長も同席する。」


ライリーが言うには、支部長とはヴィルトゥスの街の中心部のノースイースト商業区を取りまとめるニック商業ギルドのギルドマスター、サウスイースト鍛冶区を取りまとめるヒート鍛冶ギルドのギルドマスター、ノースウェスト錬金術区を取りまとめるブレイズ錬金術ギルドのギルドマスター、サウスウェスト商業区を取りまとめるレイク商業ギルドのギルドマスターの計4名のギルドマスターに加えて、鯨の目、狼の牙、獅子の爪、梟の左翼、梟の右翼、龍の左翼、龍の右翼の郊外7つの市街地にて選出された代表者を合わせた合計11名を指している様で、これらの支部長がオドとターニャの模擬戦を観覧するそうだ。


挿絵(By みてみん)


「まあ、オド君はそんなに気張らずにやってくれればいいよ。」


ライリーはそう言って軽く手を振る。


「あの、ターニャさんは納得してるのですか?」


オドが恐る恐る聞くと、ライリーは事も無げに頷く。


「うん、さっき改めて確認をして彼女の同意を得たよ。それに、明日の模擬戦は彼女の為のものでもあるからね。」


ライリーは含みを持たせてそう答える。


「さっきも言った通りオド君は気張らずに、実力を見せてくれればいいからね。」


ライリーはそれだけ言うと立ち上がって部屋を出ていく。


「それじゃ、また明日。明日の朝には迎えが行くだろうから部屋で待って居てくれ。」



◇ ◇



ライリーが部屋を出てから数分後、今度はターニャがオドの部屋に入ってくる。

ターニャはカートを引いており、そこには相変わらずの大量の昼食が載せられている。


「朝はゴメンね。」


ターニャは開口一番オドに謝る。


「それはいいんですけど、ターニャさんは模擬戦に納得してるんですか?」


オドは気になってライリーにした質問をターニャにもぶつける。


「ライリー様の命だからね。仕方ないわ。でも、、、」


そこまで言って、ターニャはオドの目を見る。


「やるからには負ける気はないからね。」


ターニャの目には冒険者時代そうだったことを思い起こさせるメラメラとした闘志が宿っている。


「わかりました。」


オドはそんなターニャの姿に少し安堵を覚える。


「ところで、、、やっぱり僕に出される食事、多くないですか?」


しかし、そんなこと以上にターニャの引いているカートの存在感が大きく、オドは思わずここ数日来の疑問をぶつける。とにかく、どこに行ってもオドに出される料理は尋常ではない程多かった。


「これもライリー様の命よ。」


ターニャはそう言って大量の料理をオドの部屋の机に並べる。


「ありがとうございます、、、。」


オドはもはや諦め混じりの声で感謝を述べ、大食いチャレンジへと挑むのだった。



◇ ◇



午後、昼食を何とかやり遂げたオドのもとにヒーラーのクルツナリックが訪れる。


クルツナリックはオドの左肩の状態を確認すると、ニッコリと微笑み「うん、うん」と頷く。クルツナリックはオドの左肩に巻かれた包帯を外すと、傷口にそっと掌を当てる。


「それじゃあ、力を抜いて。」


クルツナリックはオドに深呼吸を繰り返すように言うと、魔法を発動させる。


淡く白い光を発しクルツナリックはオドの肩に回復魔法をかける。オドは左肩が温かくなっていく感覚を感じながら深呼吸を続ける。


しばらく経ち、クルツナリックがオドの左肩に当てた手を離すとオドの左肩は完全に完治していた。左肩には傷跡ひとつ残らず、完璧に以前の状態に戻っていた。


「ありがとうございました。」


オドは初めて体験する回復魔法に驚きつつ、クルツナリックに感謝を述べる。


「いいんですよ、オド君。それよりも明日の模擬戦、楽しみにしていますよ。」


クルツナリックが言う所によると、実は彼は市街地の一角である“狼の牙”の代表者としてオドとターニャの模擬戦を観覧するそうだ。


「ターニャ殿は現役のころは一流の冒険者でしたからねえ。オド君の奮闘に期待してますよ。」


そう言うクルツナリックの顔はどこかウキウキしているように見えた。


「それではオド君、君の健闘を祈っています。」


そんな言葉を残してクルツナリックはオドの部屋を出ていく。


オドは完全復活した左肩の感覚を確かめるため、再び『コールドビート』を取り出すのだった。

ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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