新たな土地、新たな人々 ⑥
しばらくエントランスを眺めたのち、オドは再び階段を登って客人用の部屋へと戻る。
オドが部屋の前まで行くとターニャと白衣を着た男性が立っていた。
初老の白衣の男性はヒーラーであった。
ヒーラーは回復魔法という稀少な魔力に適性を持つ者に与えられる称号であり、通常なら国家に召し抱えられていることが多い。しかし、そんなことは露も知らないオドは気落ちしていたこともあり軽い会釈だけでサッと部屋に入ってしまう。
「ちょっと、オド君!! 先生に挨拶しなきゃ。貴方の傷を治しに来てくださったのよ!!」
ターニャは少し焦ったように言うがヒーラーは笑ってそれを宥める。
「ほっほっほ。いいんですよターニャ殿。私は気にしませんから。」
ヒーラーはそう言うと部屋の椅子に座るオドの下へ歩いていく。
「始めまして、オド君、、かな。私はこの街に住むヒーラーのクルツナリックと申します。今日はオド君の傷の回復の手助けをしようと思うのだが、いいかな?」
「はい、、、お願いします。」
オドは初めて聞くヒーラーという言葉にどぎまぎしつつも包帯の巻かれた左肩を出す。
「はい、ありがとう。それでは、、、」
クルツナリックがオドの左肩に人差し指を当てて小さく呪文を唱えると指先に光が灯りオドの体内へ魔力が流れ込んでいく。クルツナリックは目を閉じて指先に集中している様だったが、しばらくして手を放し目を開ける。
「うむ。傷に関しては毒がもうすぐで抜け切るから問題ないよ。傷口を回復魔法で塞ぐのはその後だね。まあ大体あと2,3日程度だね。」
そう言ってクルツナリックはニッコリと微笑む。
「それよりも、、、ターニャ殿、一度外してもらえるかな。」
しかし、すぐに真面目な顔となりターニャに部屋を出ていくよう伝える。
クルツナリックはターニャが出て行ったのを確認してから口を開く。
「オド君。君は自分の心臓にかかっている魔法について何か知っているかい?」
突然の質問にオドは驚くが心当たりが無いと返す。
「些細な違和感でも、ちょっとした出来事でもいいんだ。君の心臓について何か心当たりはないかい?」
クルツナリックにそう言われ、オドはそういえばとある日を境に心臓の鼓動が以前より強く、速くなったこと。それ以来、以上に食欲が強くなったことを話した。
クルツナリックは真剣にオドの話を聞いてうんうんと頷く。
「すまないがオド君、もう一度魔力を流させてくれ。」
クルツナリックはそう言うと今度はオドの首筋に人差し指を当てて小さく呪文を唱える。
先程よりも長い時間クルツナリックは魔力を流した。
とても集中している様で少し息が荒くなり額に汗が滲んできている。しばらくして遂に指先をオドから離すとクルツナリックはどこかスッキリしたように笑いだす。
「ほっほっほ。そうですか。そうですか。これは珍しい!!」
困惑するオドを他所にクルツナリックは1人楽しそうにニコニコしている。
「オド君、、、そうですね。今は沢山食べて身体を大きくしなさい。」
クルツナリックはどこか微笑ましいものを見るような目でオドを見て、「沢山食べ、運動するように。」と伝えるのだった。
「それじゃあ3日後に、また来ます。」
クルツナリックはそう言って立ち上がるとドアの方へと歩いていく。
ドアを開けると、最後にオドの方を見て再び「身体を大きくすること!!」というと部屋を出ていく。
ドアの外ではターニャとクルツナリックが話している様で、耳の良いオドにもその会話が聞こえる。
「それでは私はライリー殿に報告を、、、。それと、彼がここにいる間は食事の量を増やしてあげてください。、、、はい、、、、はい。、、、それでは。」
会話が終わったようでターニャが部屋のドアを開ける。
「クルツナリック様が後2,3日は安静にするようにとのことなので今日はこの部屋にいるように。」
ターニャはそれだけ言うと再びドアを閉めるのだった。
◆ ◆
「親子愛のなせる業ですなぁ。」
クルツナリックはライリーにオドの容態を報告しに行く途中、小さく呟くのだった。




