新たな土地、新たな人々 ③
ギルドマスターの執務室を退出したオドはターニャと呼ばれていた女性に連れられ、目を醒ました部屋まで戻ってきた。オドが女性に話しかけようとしていると、女性はそれに気づいたようで声を掛けてくれる。
「ターニャでいいよ。」
女性がにっこりと笑う。
女性は30代前半くらいで、オドにとっては天狼族以外で初めて接する大人の女性だった。
冒険者ギルドの職員なのか制服にエプロンを付けている。
「ターニャさん、先程はすいませんでした。」
オドはいきなり短剣を突き付けた無礼をターニャに謝罪する。
「いいよ、気にしないで。そういえば剣はどうしたの? 返してもらってないみたいだけど。」
「傷が治ったら返すと言われました、、、。」
少し不服そうに言うオドを見てターニャは朗らかに笑う。
「まあ、ライリー様に預けるなら安心よ。多分、ギルドマスターの執務室はこの大陸で一番安全な物の預け先よ。」
「あの、、、あのギルドマスターってそんなに強いんですか?」
オドが気になって聞いて見るとターニャはきょとんとした顔をする。
「そりゃあ強いに決まっているわよ。なんせ今は世界に1人しかいない殿堂冒険者である御方よ。知らない?」
そう問うターニャに対しオドは首を横に振る。
「そう、本当に知らないのね、、、。」
ターニャは少し不憫そうにオドを見るが、すぐに表情を戻すとオドに声を掛ける。
「それじゃあ、この街について私が教えてあげる。付いてきなさい。」
そう言うと再びターニャはオドの部屋を出ていく。
オドもそれに付いていき、長い階段を登る。
ターニャに案内されたのは冒険者ギルドの屋上だった。
扉を開くと風が吹き込んでくる。オドが屋上を見ると先客がいたようで、一人の少女が立っている。
オドより少し年上だろうか。
長身で銀色の鎧と剣を装備したその少女は白い髪を風になびかせ街を見下ろしている。白い髪は陽の光を反射し銀色に輝いている。オドは何故か少女の後ろ姿から目が離せなかった。
「あら、ユキちゃん。」
ターニャに声をかけられ少女が振り返る。
「だから、ちゃん付けしないでください。」
振り向きざまに少女はターニャに不満を言う。
少女が振り返るとオドと目が合う。
少女の目は淡い水色をしており、その肌は透き通るように白かった。
少女はオドと目が合うが、すぐに目を逸らすと何も言わずに屋上を降り去っていく。
「もう、あんなにそっけなくしなくてもいいのにね。」
ターニャはそう言うと、オドを屋上の縁まで連れていく。
冒険者ギルドの屋上は物凄く高かった。
冒険者ギルドは他の建物の3倍近い高さがあるようで、屋上から街の全域が一望できた。
冒険者ギルド周辺の建物は比較的大きく、朱色の屋根が特徴的で、その奥に沢山の小さな家々が並んでいるのが見える。冒険者ギルドから4方向に大通りが伸びており、今まで見たことが無い程沢山の人々が往来していた。
「絶景でしょう? これが世界第2の大都市、自由都市ヴィルトゥスよ。」
これまで小さな集落で100人程の天狼族として生活してきたオドにとって、これほど巨大な都市も建物も見たことは無く、何より人の多さに圧倒されていた。
「ねえ、丘が見えるでしょ?」
ターニャは都市を囲むように鎮座する丘を指さす。
丘は5つあり文字通り都市をぐるりと囲んでいる。丘にはそれぞれ洞窟の入り口のようなものがあり、そこに向かって道が設置されている。その道も人の往来が激しいようだ。
「あの丘がダンジョンよ。ダンジョンはいわば魔物の巣窟で恩恵の源でもあるわ。魔物を倒すと素材や食材、鉱物などをドロップするのよ。ダンジョン探索は冒険者の仕事で、ダンジョンのおかげでこの街が成り立っているのよ。」
ターニャの言葉を聞いてオドは角鹿と海蛇の洞窟を思い出す。
「だから、この街はダンジョンの恩恵を守るために外壁を巡らせているのよ。ダンジョンにはボスがいて、ボスを倒すと名声が手に入るわ。それとは別にランク制度があるけどボス・スレイヤーの名声は別格よ。なんせ達成するのは5000人に1人いるかいないかだもの。」
ターニャは、そこまで言うとオドを見る。
「そして、、、殿堂冒険者は全てのボスを倒した者に与えられる栄誉なのよ。殿堂冒険者は冒険者ギルドのギルドマスターに任命され、この大都市の首長として行政を受け持つの。だから、あなたが会ったライリー様はこの街で一番強くて、偉い人なのよ。」
ターニャに言われオドは実感がわかないながらにライリーの凄さを知るのだった。




