侵略者 ⑥
オドにとって久々の狩りは順調とは程遠いものだった。
力んでしまっているのか普段のように思ったところに矢が飛ばない。短剣も必要以上に力が入り獲物を不必要に痛めてしまった。
「今日のオドとムツは絶不調だなあ。」
カイが声をかける。オド同様にムツも今日はぼんやりしたり、短剣捌きがいつになく鈍かった。ムツは寡黙なため誤解されやすいが、観察眼が鋭く狩りにおいて機を逸することは殆どない。
そんな普段の狩りで活躍する2人の不調にカイとルナは驚いていた。
「2人とも大丈夫? 体調が悪いなら暫くここで休んだら?」
ルナが木陰にオドとムツを連れていき休むよう促す。オド自身は体調が悪い感覚は一切なく、むしろ身体が軽すぎて感覚がズレている位の問題だったが、大人しくムツと木陰で休むことにした。
カイとルナが狩場に戻り、2人だけが残される。
「手柄や戦場なんて、良いものじゃないよ。」
ふいにムツが呟く。
「オド、僕は人を1人殺してしまったよ。」
感情のない声でムツが呟く。オドは何も言わずにムツの話を聞く。
「敵を殺すのは当然だよね。殺さなければ殺されるんだから。それでも、それが罪であることには変わりない。僕の矢が敵の喉元を貫いた瞬間、僕は罪を背負ったんだ。」
ムツがオドの頭を優しく撫でる。
「僕の手は汚れてしまったよ。だからこそ、オドやカイ、ルナには同じ罪を背負わないで欲しいんだ。」
そういってムツは優しげな笑顔をオドに見せる。
「叶わない願いだよ。これはカイとルナには秘密にしてね。」
ムツはそう言うと木陰から立ち上がり狩場へと歩いていく。
普段はあまり自分の考えや感情を出さないムツの突然の告白にオドは驚いていた。
そして、ムツもまた、ローズやコウのようにオドを1人の仲間として大切にしてくれていると実感したのだった。
結局オドの調子は戻らず、打って変わってムツは何事もなかったかのように後半で一気に獲物を仕留めた。日が傾き、いつかのようにオドは年上の3人と共に集落への帰路に就く。
「そろそろだ。」
カイが呟き、遠くに集落が見える。夕陽に照らされてオレンジに輝く集落が、オドにはどうしようもないほどに儚く、美しく見えた。
◇ ◇ ◇
翌日、偵察部隊が帰還し天狼族に衝撃が走る。
敵の総勢が天狼族の約200倍に当たる2万にも及ぶことが伝えられた。しかし、先祖より代々この大星山で生活してきた天狼族にとって逃げるという選択肢はなく皆が無言のまま戦う準備が着々と進められていった。
そんな中、再びローズの家にタージとコウが集まり会議を開いていた。
「まさか2万とはな。我々も過大評価されたものだ。“仕掛け”を使っても全く足りん。」
「そうですね。だが、戦うしかない。1人でも生き残り、この地で血を繋げられれば我らの勝利です。」
ローズの言葉にコウが返す。
「この際、若い衆は逃がすことも考えねば。なあ兄貴。」
タージの言葉にローズは口を閉ざす。
ローズの頭にはオドが浮かんでいた。
敵がオーロラを見て攻めてきたのなら、敵の目標は天狼族の殲滅ではなくオドの殺害であることが分かり切っているからである。その為、たとえオドを大星山から逃がしたところで追手は目標が達成されるまでオドを探すだろう。
しかし、天狼族は北天を守護し、闇を祓うことがその使命であり、たとえ他の天狼族が全滅したとしても天狼王の加護を授かったオドを殺される訳にはいかないのだ。ならば選択肢は一つしかない。
「何としても大星山で敵を全滅し、敵の指揮官を殺す。」
ローズは静かに言い切るのだった。
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