侵略者 ④
長い剣契の儀式を終え、遂にオドが集落へと帰還した。
オドが帰って、まず感じたのは天狼族の面々からのオドへの眼差しの変化である。次に、天狼族の昂ぶったような雰囲気に違和感を覚える。
「とりあえず、家に帰ろう。お腹が空いた。」
そう言ってオドはローズの待つ家へと帰っていくのだった。
剣契初日に集落を出発してからオドは全く他人と触れ合わない一週間強を過ごしていたからか、自然と独り言が増え、自分の身体や感覚を素直に感じ取れるようになった気がした。そして何より、オーロラの夜に心臓の鼓動が強まって以来、身体が強く食料や栄養を求めるようになっていた。
「ただいま。帰りました。」
そう言って家の扉を開ける。奥からローズがオドを出迎えに出てきてくれる。
「お帰り、オド。よく無事に戻ってきた。」
ローズがオドを抱きしめてくれる。
「ただいま、爺ちゃん。それよりお腹が空いたんだ。」
そう言うオドにローズが目を丸くする。
それもそのはず、オドは今までお腹がなることはあっても空腹感を口にすることは一度もなかったし、そもそもオドは基本的に少食なのである。
「そうか、そうか。すぐご飯にしよう。オドの剣契の話を聞かせてくれ。」
ローズはどこか嬉し気にオドに言葉を返すのだった。
◇ ◇
オドはとにかくよく食べた。
かつてないほど食べて食べて、食べまくった。
最初、ローズはいつもオドが食べるよりも少し多めに夕食を作ったが、オドはそれを一瞬で完食してしまった。あれよあれよとオドはその晩、いつもの4倍ほどの量を食べきった。
オド自身、何故そこまで腹が減るのかはわからなかったが、とにかく身体が栄養を求めているのだけは分かった。結局、食事に夢中になりすぎたせいでローズと会話ができなかった為、夕食後に話をしようということになった。ローズが座敷で待っていると、いつまでたってもオドが部屋から出てこない。
ローズが慌ててオドの部屋に行くと、オドは泥のように眠り込んでいた。ローズはやれやれといった顔でオドの部屋の灯りを消す。
結局、オドとローズが話せたのは翌日の朝になってからだった。
◇ ◇
翌日になってもオドの食欲は高く、朝食をモリモリと食べた。
その後、ローズと2人で剣契での出来事や、ローズが長グランに復帰した事、大星山に敵が侵入してきたことなどを話した。ローズが首を傾げたのは、オドの話では天狼王が天狼伝説で語られるような闇の復活や紅き瞳について特に言及していなかった事だった。天狼王の言った“なすべき宿め”がそれに当たるのかもしれないが、未だ若いオドに降りかかる天命にしては実際の攻撃までの期間が短すぎる。
「オド、とにかくお前は天狼王様によって特別な加護と共に天命が与えられた。それにより傷つき、悲しむこともあるかもしれない。そして、その時、儂はオドの傍に居てやれないかもしれない。それでも天命に抗い、立ち上がる覚悟を、今からしておきなさい。」
ローズは最後にそんなこと言って立ち上がる。
「何かを持つということは、それに見合う義務と責任を得るということだ。」
ローズは自らの指に嵌る指輪を眺めそう呟くのだった。
◇ ◇
昼前、オドがコウのもとを訪れるとコウが一人で剣の稽古をしていた。近くにいたカイとムツに話を聞くと今日のコウと二人の稽古は中止となり、ひたすらコウは1人で稽古をしているそうだ。
「コウさん。こんにちは。」
オドが声をかけるとコウが剣戟を止め振り向く。
「おう、オド。成人おめでとう。」
「ありがとうございます。今日は一段と気合が入ってますね。」
「あぁ。ちょっと自分の未熟さに気づかされてな。」
そう言うとコウは再び剣の稽古を再開する。もはや何を言っても止めそうな気配はない。
オドもこれ以上の会話は迷惑だと感じ、その場を去る。その時、後ろからルナに声をかけられる。
「オド、成人おめでとう。カイとムツにはもう会った?」
「ありがとう、ルナねえ。さっき会ったよ。」
「そう。二人とも随分とオドのこと心配してたのよ。それでね、ムツが明日、私達4人で狩りに行かないか、だって。ムツから誘うなんて珍しいじゃない? オドはどうする?」
「いくよ。久々にみんなと狩りに行きたい!!」
オドがそう答え、翌日の予定が決まる。その後ルナから集合場所などを聞き2人は分かれる。
家に帰り、オドは再び食事でローズを驚かせた後、翌朝に備えて早めに寝床に入るのだった。
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