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侵略者 ③



「敵襲ーーーー!!」


山を登るように進軍するドーリー率いる手勢の先頭から声が上がる。


大星山は超高山の為、植生の層がいくつかに分かれている。

まず、大星山麓の霧の森には広葉樹が広がり、大星山の下層に広がる針葉樹がその境目さかいめとなっている。高度が上がるにつれ植物の高さは低くなり、オド達の暮らす集落の周囲は草原のようになっている。それより高度が上がると岩石と雪が支配する世界となる。


「してやられた、待ち伏せか。」


ドーリーは舌打ちと共に悔し気に呟く。


ドーリー達が敵の強襲を受けたのは針葉樹林層の上部であり、不慣れな高所の斜面かつ樹林の中で敵を発見しづらいという最悪なコンディションの中であった。木々の影から次々と射られる矢に先頭の部隊が壊滅する。


「む、、、?」


ドーリーはそんな絶望的な光景を目の当たりにしながらも、ある違和感を覚える。


次々と飛んでくる矢は全て正確に味方の喉元を貫いていく。

ドーリーにはその光景に見覚えがあった。


「まさか、、、あの時の、、、」


そして思い出す。


12年前、自分の順調な出世を阻んだ事件を。

敵の獣人の去った後に残された、一人残らず喉元を貫かれていた部下の死体の光景を。


「ふふふ、、はははははっ!!」


思わず笑い声を挙げる。遂に来たのだ。復讐の時が。過去の精算の時が。


「忘れもしない。キーン・シリウス、翡翠色の剣士。」


ドーリーは小さく呟く。

手勢を緊急退避させるよう指示し、大星山麓の上陸した地点で防備しながら待機するよう伝える。部下の退却を見送り、ドーリーは一人その場に残る。


その眼は復讐の炎で爛々と燃えていた。




◆ ◆




ドーリーの部隊を先に発見し奇襲をかけたのはコウ率いる東側の部隊だった。


奇襲は成功し、敵の先頭部隊は壊滅し退却していった。

奇襲の成功に皆が湧く中、コウは1人その場に残った男に向けて弓を絞る。矢を放つ瞬間、コウは男と目が合ったような気がする。次の瞬間、男の喉元を貫くはずの矢は男の肘に装備された小型の盾に突き刺さる。


「その程度か。ヤツの矢はもっと早かったぞ。」


そう呟く敵の声を聞き漏らさなかったコウは咄嗟に危険を感じる。コウは急いで味方を山の上に退避させると再び敵に矢を射る。


「それはもういい、キーン・シリウスはどこだ。」


そんな言葉と共にドーリーは矢を避け、一気にコウのいる場所まで駆け上がる。


そして、コウとドーリーの剣が交錯する。

一方はかたきとして、一方は師として、翡翠色の剣士キーン・シリウスの影を12年間追い続けてきた者同士の戦いが始まった。



◇ ◇



剣同士が何合も何合もぶつかり合う。彼らは互角にやりあっていた。


「ヤツ程ではないがお前も中々やるな。」


そう言ってドーリーはニヤリと笑う。


「そちらこそ。」


コウは表情を変えずにそれに応える。


数十合剣を交え、徐々にコウの分が悪くなるが依然として決着は付かない。

そんな時、突如ドーリーに向かって数十本の矢が放たれる。ドーリーはそれを全て避ける。コウが上を見るとタージの部隊が到着したようで、ドーリーに向かって再び矢を放とうとしている。


「こうなっては仕方ない。」


ドーリーは悔し気に呟くとサッと身体を引き、退避に転じる。


「お前、キーン・シリウスに伝えておけ。すぐに戻ってくる。首を洗って待っていろ、とな。」


そんな言葉を残しドーリーは去っていった。


若干ドーリーに押され気味だったコウはふうと息を吐く。


「お前ごとき、キーンさんの足元にも及ばないよ。それにしても、俺もまだまだ弱いな。」


こうして天狼族と枢機卿軍の最初の戦闘は幕を閉じたのだった。



ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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