剣契(後) ④
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柔らかな木漏れ日の中を僕はヒラヒラと舞う。
そこには荒廃した遺跡があった。
かつての面影を残す石床には倒れた白い石柱やモニュメントが転がり、それを生い茂った芝と水溜まりが覆う。誰もいないその場所には柔らかな陽が差し込み、花々は風に揺られる。
暖かな陽だまりの中に、ふと一人の少女が現れる。
7、8歳くらいだろうか、短い前髪に、陽に反射して煌めくレモンイエローの髪をなびかせた少女はくるくると楽しそうにその場で踊っている。弾けるような眩まばゆい少女の笑顔に僕は思わず彼女のもとまで飛んで行く。
「あら、ちょうちょさん。貴方もわたしと踊りたいの?」
少女は僕に気が付くとそう話しかける。
僕は同意するように彼女の指にとまりキスをする。
「貴方、不思議な色をしているのね。素敵ね。」
僕らは一緒に踊る。君の明るい歌声が響き、僕は、ただ願う。
この時間がいつまでも続くように。
しかし、時は無常に過ぎていく。日が暮れて、僕らは別れる。
「さようなら、ちょうちょさん。いつかまた会えたなら、今度は貴方からダンスに誘ってね。」
そういって彼女は去っていく。
旅にでる僕が、貴女に会えることはもう無いだろう。
ならせめて君との美しい思い出だけは忘れないでいよう。
僕は北に行かなければならない。本能的に知っている。
僕は海を越え、砂漠を越え、山を越えて、至るべき場所に行かなければならない。
せめてこの命尽きるまで、君を思おう。
◇ ◇ ◇
僕はどれだけの距離を飛んできただろうか。
海を越え、人々の織り成す営みを見た。
砂漠を越え、一面に広がる草原を見た。
山々を越え、この憩いの森に至った。
しかし、ここが至るべき場所ではなかった。もしかしたら、至るべき場所など最初はなからなかったのかもしれない。ならば、高い場所へ。どこよりも高い場所へ。思い出の場所から遠く離れた北の大地でも、愛しい君を見えるように。
もっと、高い場所へ。
いつかの山よりも、雲よりも、高い場所へ。北端にそびえる山を登って、一番高くまで。
苦しい。羽が重い。上を見ると2つの頂にが見える。せめて、目の前にある頂まで。
せめてこの命尽きるまで、君を思おう。
僕の羽が動いている間は。
◆ ◆ ◆
落雷の音に夢が破れる。
オドは登山の疲れもあってか、瞑想中にいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
オドは慌てて周囲を見渡すが、下祭壇は霧に覆われ周囲の景色がはっきりしない。どうやら大星山の山頂部は雲に覆われているようで、オドの座る岩から窪みの様子を確認することはできなかった。オドが周囲を見渡していると、キラキラと光る何かがオドの方へと近付いてくる。
「、、、ん?」
霧の中から一匹の蝶が現れる。
その蝶はフラフラとしながらも、命を燃やすかのように羽をはためかせオドがの真の前まで飛んでくる。
オドは何故か懐かしいような気持ちになり、ただ目の前で残り少ない命を燃やす蝶を見つめてしまう。蝶はオドの胸元にとまり、遂に動かなくなる。
瞬間、蝶は淡い金の光を放ち、光の粒子は天へと昇っていく。
オドは自分の見た夢が、きっとこの蝶の一生であったのだと何となく悟る。
もしかしたら、蝶の一生もまたオドがオドとして生き、歩んだものだったのかもしれない。少なくとも、夢の中のオドは蝶としての一生を過ごしたのだから。
オドはそんなことを思いながら目を閉じ、再び瞑想の中へ入っていくのだった。
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