剣契(後) ②
オドの剣契が始まるのと同じ頃、大陸随一の大都市であるドミヌス帝国の帝都の中心にそびえる二本の巨塔の一角、ドミヌス帝国国教会の総本山たるサン・ガルド大聖堂の地下にある秘密の広間にて、男が漆黒の石板を眺めている。
煌びやか装飾のちりばめられた修道服の上に更に豪華なマントを羽織ったその男は、丸々と太った身体とは対照的に顔が細く、その眼には野心と冷酷な怪しさを湛えている。
「あと少しの辛抱ですぞ、、、」
そういって男はその異常に大きく、しかし細く長い指を持った手で石板を撫でるように触れる。光を吸い込むような漆黒の石板には不思議な文字が刻まれており、文字は時折、禍々しく赤く光り瘴気のようなものを吐き出している。
突如、バキッという音と共に石板に一筋のひびが入り、赤い光が漏れ出る。
「これは、、、」
男がそう呟くとその顔に怪しげな笑みを浮かべる。
「ヴァックスはいるか」
男が言うと広間の影から細身の長身の男が亡霊のように音もなく姿を現し、膝を着く。
「枢機卿猊下、ここに。」
「うむ。至急、全国に散らばった親衛隊を帝都に集結させよ。」
「ハッ」
配下のヴァックスは音もなく下がっていき、広間では再び男が一人、石板を見つめる。
ドミヌス帝国国教会枢機卿、ゴドフリーは虚ろな瞳でただ石板を撫でるのだった。
◆ ◆
「急な呼び出しなど珍しいな。」
枢機卿の親衛隊帝都集結の命はかつてキーンと剣を交えたドーリーの下にもすぐさま届いた。ドーリーは12年前、キーン一人の手によって多くの親衛隊員を失うという失態により階級を落とされ、干されていたが、武術の実力によって再び親衛隊の副隊長の職に返り咲いていた。
かつての屈辱的ともいえる経験はドーリーに枢機卿に対する狂気的な忠誠心とキーン及び獣人に対する復讐心を駆り立てさせた。
「猊下の命だ。誰よりも早く戻ることにしよう。」
そういうと、ドーリーは部隊を率いて馬を走らせるのだった。
12年前ドーリー達、枢機卿親衛隊による獣人狩りが行われて以降、ドミヌス帝国内では明確に獣人差別の風潮が高まっており、かつては少数民族ではありながらも人間と共存していた獣人たちは大陸を貫く山脈を超えて大陸の西側に逃れていき、それができなかった者達は差別によって人間に従属的な生活を送らざるを得なくなってしまっていた。
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