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剣契(前) ⑪





オドが目を覚ますと、そこは教会のような空間だった。


アーチ状の青い天井、その付け根には二本の白い柱が通り、それに向かって白い円柱型の石柱が伸びる。青い壁は光を通し、ステンドグラスのよう細かく分かれて外の光を分散させ、キラキラと輝く。白い石の横長な椅子が整然と並んでおり、中央には通路がある。


「目は覚めたかい。」


そんな声がしてオドは声の主を探す。


1人の男性が椅子に腰かけているのが見えた。

オドが少し警戒しながらも近づくと男性は笑う。


「別にとって食べたりはしないさ。既に君は私に食べられているんだから。」


そういうと男性は立ち上がってオドに向き直る。

男性は細身で長身であり、全身真っ黒なスーツを着ている。軟弱そうなイメージはなく、むしろ何か不思議な力を秘めているような、そんな怪しさがあった。


「そう、君は私に食べられた。君自身の不注意でね。」


そういって男性はにっこりと笑う。


「少し混乱させてしまったかな。端的に言えば、ここは私の腹の中だ。まあ、座るといい。少年。」


男性は混乱しているオドに微笑むと、椅子の方へと手招きする。オドは警戒を緩めずにゆっくりと椅子の方へ向かう。


「戦利品を忘れているよ。」


突如、目の前から男性が霞むように消え、後ろから声をかけられる。


オドが振り向くと男性はオドが巨大な蛇に呑み込まれる直前に倒した蛇のドロップ品である海蛇の脱け殻をニコニコと笑顔で差し出している。

オドは恐る恐るそれを受け取る。


「この蛇は貴方の配下だったのにいいんですか?」


「緑鹿の奴に云われなかったかい。彼らはすぐ復活するよ。それにこれは君自身の戦利品だ。たとえ、その直後に致命的なミスをしたとしてもね。取り上げる理由がないよ。」


そういうと再び男性は消え、再び元居た場所に出現する。


「ここは僕自身の体内だ。そう驚かないでくれ。そもそも君が見ているこの姿は僕の思念でしかないから攻撃しても意味がないよ。さあ、座って。」


オドが椅子に座ると、男性は中央の通路の最前、台になっている部分に立ってオドを眺める。


「僕は青蛇せいだ、名前は無いのであしからず。さて、少し僕とお話をしようか、少年。」


男性は再び怪しげに笑う。


「まず僕に質問はあるかい? あるなら挙手を。」


そういわれオドは手を挙げる。


それを見た青蛇はにっこりと頷いて、話してよしとばかりにオドに手を向ける。


「あの、僕はまだ生きているってことでよろしいですか?」


「うん、生きているよ。いや、正確に言うと死んではいない、かな。」


意味ありげな回答にオドは背筋を伸ばす。


「では、集落に生きて帰ることはできますか?」


「それは僕次第だ。実質、君の生死は僕が決められる。まあ、今は君の生死は問題じゃない。ほかに質問はないかな。」


青蛇せいだ様と言われましたが、天狼伝説に登場する、あの青蛇様ですか?」


「そうだよ。君は緑鹿の奴にも会ったんだろう。僕も奴と同じ八神獣の一柱、あの青蛇で間違いない。」


「数々の無礼、申し訳ありませんでした!!」


オドは自分の無礼が呑み込まれるという結果に繋がったと思い咄嗟に頭を下げる。


「ふふふ、そんなことは気にしなくていいよ。君の投げた石はちょっと痛かったけどね。」


青蛇は声を上げて笑いながら手を振る。


「そもそも君の持っている弓からあの鹿野郎しかやろうの魔力を感じたから配下の目を通して観察していたんだ。」


「青蛇様は緑鹿様とは仲が悪いのですか?」


青蛇の物言いにオドは思わず質問をする。


その質問に青蛇は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。


「まあ、仲は良くないね。僕と奴とは謂わば恋敵こいがたきというヤツだったんだ。まあ奪い合った女性は僕にも奴にも振り向かなかったんだけど。」


そういって青蛇はオドを見つめる。


「今はそんな昔話はどうでもいい。本題に入ろうか。」





ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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