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剣契(前) ⑩



オドはルナに連れられ大星山の北、海を臨む洞窟にたどり着く。


洞窟は前回と同様に人一人分の穴が入り口となっている。前回との違いは洞窟の入り口が海を真下に臨む断崖絶壁にあるため、絶壁を這うように進まなければならない点であるが、その点はオドにとっては大した障害にはならなかった。


「それじゃあオド、頑張ってね」


そういってルナが集落へと帰ってゆく。


ルナの背中を見送って、オドはゆっくりと洞窟へと足を踏み入れる。洞窟の中は青い光を放つ鉱石によって明るくなっていた。内部構造は水場が多い点以外は前回の洞窟とほぼ変わらない。出現する魔獣モンスターが前回は主に草原に生息する生物がモデルだったのに対して今回の洞窟で出現する魔獣モンスターは水陸両生生物がモデルになっていた。特にイグアナやカエル、ヤモリなどは高地で生活しているオドにとっては初めて見る生物だったため探索は驚きに満ちていた。


「うーん、ダメかー。」


しかし、肝心の海蛇の姿は一向に見つけることはできなかった。


この洞窟も簡単には探索者に微笑まないということなのか、海蛇探しは進展のないまま時間だけが過ぎていく。そうこうしているうちに太陽が沈み始める時間になってしまった。


「今日はここまで。」


そういってオドは来た道を引き返す。


この時、オドの姿を水場の中からジッと見つめる影があった。


しかし、オドがそれに気が付くことはなく、オドは集落へと帰っていくのだった。



◇ ◇ ◇




「だめだぁぁぁぁ」


洞窟にオドの声が響く。


オドが北洞窟に足を踏み入れて今日で5日目、海蛇の手がかりは一切得れていなかった。


前回は3日目に角鹿と遭遇したが今回は更に時間がかかっている。オドには天狼族の誰よりも自分は短期間で海蛇を仕留めるという自信があった。これは生まれつき感覚的に敏感で武器を上手く扱うという器用さを持ち合わせており、かつ、天狼族の最年少として可愛がられて育ってきたオドが無意識のうちに抱いていた他人への優越感である。それと同時に、オドは皆の期待に応えなければならないという焦燥感も抱いていた。


「クソッ」


今日で5日目。


ルナとコウが過去に6日目に海蛇を仕留めたため、オドにとっては今日が心理的な最終ラインだった。オドは足元に転がっている小石を思いっきり水場に放り投げる。


「    」


静寂が周囲を支配、オドの投げた石が水に入る音はしない。


オドが不思議に思い、石の飛んだ方向を凝視すると、一匹の蛇が水面から顔を出しているのが見える。蛇とオドと目が合う。オドはこんなにも近くにいた蛇の存在に気付けなかったことにショックを受ける。


「「何をそんなに焦っている。」」


そんな声がオドの頭に響く。


「イラついてなんかない!!」


そういってオドは矢を番つがえ放つが、矢が蛇の身体を貫くことはなかった。蛇は身体をくねらせ巧みに矢を避ける。オドはありったけの矢を立て続けに撃ちこむ。


「「では、恐れているのか。」」


「恐れてなんかもいない!! お前なんか直ぐに倒せる!!」


矢を避けながら水面を滑るように近づいてくる蛇にオドは必死に矢を放つ。


「「俺が言ったお前の恐れているものは俺じゃないよ。」」


オドの目の前まで蛇が迫る。オドは咄嗟に戦槌を構えて蛇に振り下ろす。


「何を言って、いるんだ!!」


オドの戦槌が蛇を捉え、海蛇は光と共に消滅する。オドはやったとばかりに拳を握るが、喜びは束の間であった。


「まあ、俺を恐れていない時点で自らを過信しているか、判断力が落ちているな。判断を誤るなと何処かのヘンテコな鹿に云われなかったのか?」


オドの背後から声が聞こえる。


オドが振り返ると巨大な蛇が大きく口を開けてオドを丸吞みにしようと迫っていた。


二本の鋭い牙が光り、オドは己の不覚を悟る。オドの視界が真っ暗になり、オドは巨大な蛇に丸呑みされるように、吞み込まれた。





ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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