剣契(前) ⑥
オドが角鹿を探して三日目の朝。この日も洞窟はその姿を変えている。
「今日こそは!!」
そう意気込んでオドは洞窟の中へと歩みを進める。とはいえ毎度イチからの探索になり進むべき道も分からないうえに、魔獣も弱いとはいえ狩りでは経験しない連続戦闘に、肉体以上に精神的な疲労が増してゆく。
「だめだー!!」
半日ほど探して手がかりはなく、オドはちょうどいい岩に腰を着き休息をする。魔獣に警戒しつつも遅めの昼食をしていると、突如オドの目の前に美しい鹿が現れる。全身に今まで見たことのないほどのオーラを纏い、緑色の角を生やしたその鹿は洞窟の景色に溶け込んでいたのかのように静かに佇んでおりオドをジッと見つめていた。
オドも突然の出現に驚き身体を動かせずにいた。
そんなオドを前に角鹿はクルリと身を翻すと洞窟の奥へ跳ねるように駆けていく。
「待って、、」
オドもとっさに角鹿に追う。
角鹿は洞窟内をピョンピョンと跳ね、オドはなかなか追いつけないでいる。追い掛けに放つ矢もことごとく避けられてしまう。いきなり角鹿が立ち止まるとオドを再びじっと見る。
「舐めるな!!」
そういってオドが弓を引くと角鹿がその場から消える。
「っな!!」
オドが急いで角鹿のいたところまで駆け寄るとそこには下に向かう穴があった。
ここまで来たからにはとオドはその穴に飛び込む。真っ暗な穴は滑り台のようにオドを下へ下へと連れていく。
パッと急に視界が明るくなる。
目を開くとそこは広がりを持った空間になっており、ドーム状の天井の遥か上にオドの滑ってきた穴が小さく見える。どこからか木漏れ日が空間を照らしており、周囲は木の枝や葉、花などに覆われている。
「ここに人が来るのは久しぶりだな。」
神秘的な光景にオドが固まっていると、どこからか声が響く。
オドが慌てて弓を構えると、先ほどの角鹿がオドと向き合うように立っているのが見えた。
「まあ、そう警戒するな。地上の子と話すのも久しぶりだ、、、もういいぞユー。」
再び声が聞こえる。するとさっきまでの角鹿は後ろの景色に溶けていくように消え、新たにその何倍もの大きさの角鹿が現れる。その身体は重なり合った枝でできており、角はびっしりとコケに覆われている。
「ユーがここにお主を連れてきたということは、きっと何か意味があるのだろう。」
突然の展開にオドが固まっていると巨大な角鹿は再び言葉を発する。
「何か言わないか。リオの血を引くものであろう、勇気を示せ。」
オドは角鹿の言っていることがさっぱりわからなかった。
「あ、あの、、、リオって、誰ですか、、?」
恐る恐るオドが言葉を発すると、今度は巨大な角鹿が首を捻る。
「誰もなにも、主らの母であろう。お主の髪と同じ色の毛皮と耳を持った狼じゃ。」
「それって天狼王さまのことですか?」
オドが言うと巨大な角鹿はうんうんと頷く。ここでオドは衝撃の事実に気付く。
「天狼王さまって、女性だったんですか、、、!?」
その質問に巨大な角鹿は大笑いしだす。
「ははははは!! リオが雄おすな訳なかろう!! 人の子らはみなリオが雄だと思っているのか?」
オドが頷くと角鹿はその巨体をゆらゆらと揺らす。
「ああ、面白いことを聞いた。久しぶりに人の子と話すのは楽しいのう。」
オドはすっかり弓を降ろしてしまっている。
「そういえばお主はなぜこの洞窟に来たのだ?」
角鹿の問いにオドは角鹿を仕留める為にここに来たことを話す。
「なるほど。お主の言っている角鹿というのはさっきのユーのことだろうな。お主をここに連れてきた奴だ。普段は適当に仕留められて角でも渡して帰ってもらってたんだろう。しかし、、、。」
そういって言葉をつづけながら角鹿がオドと目を合わせる。
「お前はここに連れてこられた。」
オドは全身の身の毛がよだつのを感じる。圧倒的なオーラ。神秘性。魔力。身体の全身が目の前にいる存在に警鐘を鳴らす。
「きっと意味があることだろう。我は緑鹿、名は無い。面白い話の褒美だ。あまり時間はないがお主に何かくれてやろう。」
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