剣契(前) ③
ルナの名前の由来は月です。女性的であり、また海と陸を優しく照らすものとして丁度いいかなと思いました。アルテミスに因んでアルテとか、日本的なカグヤとかも考えましたがカイ、ムツと2文字づつで来てるのと何となく柔らかなイメージがある「ルナ」をいいかなと思いました。
3人が一通り夕食を済ますとコウはローズと話していた内容を改めて切り出す。
「さて、、、オドの剣契についてだが予定通り来月、オドの誕生日に実施することになった。ついては、オドにいくつか準備してもらうことがある。」
コウはオドを見ながら人差し指を立てる。
「一つ目はオドが契約する剣を決めること。オド自身がこれだと思うものを使うといい。自分自身の選択なら理由はなんだっていい。俺だってキーンさん、君のお父さんに憧れて長剣にしたぐらいの理由だからね。」
そういってコウはオドが傍らに置くキーンの剣を見て微笑む。
「二つ目は剣舞の型を覚えること。長剣なら俺に、短剣ならタージさんかルナに教わるといい。剣の稽古は成人してからだが、すべての基礎はここからだ。まあ、楽しんでやるといい。」
剣を振れると聞いて嬉しそうにするオドを見てコウが苦笑する。天狼族は狩りで使う短剣を除いて剣の類を剣契前に振ることが許されていない。その為、常にキーンの剣と共にありながらそれを抜けなかったオドにとって、剣を振ることの許可は待ち遠しいものであった。
「三つ目、これで最後だが、角鹿、海蛇、大鷲のどれかを仕留めること。どれか一種でもいいし三種全てを目指すのもいい。今日から一か月オドは狩りのローテーションから外れて毎日狩りに出ていいぞ。角鹿はいつもオドが狩りをしている西側の絶壁の奥に、海蛇は北側の麓、海を見渡す絶壁の近くに行けばいるだろう。大鷲は運次第だ。大鷲を仕留めるのは大変だが特にオドは探す価値はあるかもな。」
コウの言葉にオドは訳が分からず首をかしげる。
「どういうことですか?」
「あれ、知らなかったか? ここ数十年の剣契で大鷲を仕留めたのはタマモさんだけなんだ。」
オドは急に出た母親の名前に思わず首から下げているタマモの指輪を手に取る。コウはそんなオドを見て微笑むとゆっくりと立ち上がる。
「伝えることはこれくらいだ。一生で一度の自分の為だけの儀式が剣契だ。色々と考えてみるといい。それじゃあな。」
コウはそう言うとローズに一礼して帰ってゆく。コウが帰るとローズが部屋に入ってくる。
「オドももう剣契か、、、。時が経つのは早いな。タマモの時もあっという間だったがオドも、もうすぐ成人か、、、。」
しんみりというローズにオドは質問する。
「爺ちゃん、お母さんは狩りで大鷲を仕留めたのって本当なの?」
ローズは頷く。
「オドのプレッシャーにならないようあえてオドは言ってなかったが、、、コウから聞いたか。」
そういうとローズはオドの母親、タマモについて語り始める。
「タマモは弓の上手な天狼族の中でも群を抜いて弓がうまかった。今のオドのように狩りに出れば常に仕留め頭だったんだよ。でも、それ以上に頑固な娘でもあったよ。決めたことは譲らない子だったから、子育てでは苦労したもんだよ。」
そういって懐かしそうに微笑むローズを見てオドはあまり聞いたことのない母親の一面に興味を深く聞く。
「大鷲を捕まえに行くと聞いたときは驚いたよ。普通、弓が上手ければ蛇、短剣が強ければ角鹿というのが常道だからな。結局ほんとうに大鷲を仕留めて帰った日には儂もクロエも何も言えなかったよ。」
サファイアの指輪を握るオドにローズはかつてタマモに向けたように慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「タマモは確か大鷲は探している限り見つけられないと言って笑っていたな。12歳とはいえまだまだ未熟なはずの娘にその1件以来、一人の大人として接するようになったよ。まあ元々しっかりとした娘ではあったんだけどな。そういえば、タマモはキーンと婚約した時も、、、、、」
ローズが懐かしそうに目を細めてタマモの話を始める。
夜が更けていく。ローズとオドは母親に関する昔話に花を咲かせるのだった。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)