怪しい雰囲気 完
コツコツと石の階段を歩く音だけがが響いている。
オドはユキに連れられて、冒険者ギルドの屋上に続く階段を登っていた。
2人に会話はなく、窓から差し込む青白い月明かりが階段を照らしている。
オドは先を歩くユキを見上げる。
ユキは少し緊張しているのか、唇をキュッと閉ざされている。
2人は階段を登り終え、屋上へと出る。
既に陽は落ちており空には星と月が昇っている。
「綺麗な月ですね。」
幻想的な青みを帯びた月を見てオドが思わず呟く。
ユキとオドの視線の先に浮かぶ月はいつもよりも大きく感じられた。
「、、、オド君。」
ユキが月を背にするようにオドの方を向く。
月の光と同じ淡い水色に輝くユキの瞳にオドは目が離せなくなる。
「オド君。、、、あの時、助けてくれて、ありがとう。」
ユキは真剣な眼差しでそう言うと、オドに歩み寄る。
オドは動けず、2人の距離が近づく。
「これ、、お礼に渡したいの。」
ユキが差し出した手のひらには一つの指輪があった。
銀でできた指輪には中央に窪みがあり、そこからは様々な色を宿す光が発されている。
「この光、見えるでしょ?」
ユキはそう言って自身の首に掛けられた首飾りの石を見せる。
その石からは指輪と同じ光が発されている。
「、、、ありがとうございます。」
「、、うん。」
オドが指輪を受け取ると、ユキは嬉しそうに頷く。
ふいに見せたユキの笑顔にオドは高鳴る鼓動を隠すように口を開く。
「この光、他の人は見えないんですね。」
「そう。これは精霊たちの輝き。」
そう言うとユキは顔を上げて真っ直ぐオドを見つめる。
少しの沈黙ののちに、ユキは決心したように口を開く。
「私も昔、君と同じ森で拾われたの。」
「、、、そうなんですね。」
「拾われる前の記憶はないんだけど、昔からずっと精霊たちを操ることができた。」
オドは思いがけず知ったユキとの共通点に驚きを隠せないでいた。
ユキはオドにもう一歩近づくとオドの手を取る。
「貴方に、精霊の加護があらんことを。」
ユキがオドの手を包みこんで、小さく呟く。
オドは何もできずに立ち尽くす。
ユキはオドの手を離すと一歩下がる。
「あの時、助けてくれて、ありがとう。オド君、かっこよかったよ。」
ユキは恥ずかしそうにそう言うと、その場を去っていく。
オドは何も言えずにただユキの後ろ姿を目で追う。
それでは一条の星が北の空へと駆ける。
精霊王の娘と天狼王の息子は、かくして出会った。
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