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シリウス サバイバー:生き残った天狼族の少年は、やがて大陸の覇者となる  作者: 海溝バケツ
第2章 自由都市ヴィルトゥス(中)
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怪しい雰囲気⑦


「10階層も案外大したことないな」

そう言ってコリンが首をポキポキと鳴らす。

実際、コリンの言うように“鷹の爪”のメンバーは10階層でも余裕を持って戦闘できていた。

炎魔法と氷魔法を織り交ぜて戦うようになったユーグと魔力を通せる大斧を手にしたコリンの2人は成長著しく、オドは新たな剣“フィリーア”を実践投入するまでもなく戦えていた。

「あの2人、英雄祭の本戦に選ばれるかな。」

「うーむ、、、難しいかもな。正直、確定の上位陣はほぼ固定されつつあるからな。」

ハーザーとカルペラの会話が聞こえ、オドは聞きなれない単語に反応する。

「英雄祭、ですか?」

「うん? ああ、オドは知らないか。」

ハーザーはなぜか納得するように頷いたあと、オドに説明してくれる。

「英雄祭は4年に1度、秋に開催されるのヴィルトゥス最大のお祭りだよ。祭りは1週間続いて、なかでも魔法や武技の腕試しをする英雄余興ヒーローズ・コンテストと選出された冒険者が模擬戦をする英雄遊戯ヒーローズ・ゲームは祭りの大一番だね。この日だけはヴィルトゥス市民以外の来客も許されてるんだよ。」

「そんな大きな祭りなんですね。」

「そう。そして、その4年に1度が今年なんだよ!!」

ハーザーが目を輝かせて言う。

「オドも選ばれるかもしれないぞ?」

カルペラがそう言ってオドの肩を叩く。

「僕がですか?」

「ああ。英雄遊戯はデビュー4年以内の冒険者が対象の部門と全冒険者が対象の部門の2種類あるからな。若手枠の方で選ばれるかもしれないな。もちろん、両方に選ばれるかもしれないしな。」

そう言ってカルペラが笑う。

「英雄祭は冒険者としての評価を確立させる絶好の機会だ。同時に、ヴィルトゥスで生まれ育った者にとっては憧れの舞台でもあるんだ。」

カルペラの言葉を聞いて、オドはハーザーの熱意に納得する。


その時、オドの耳にモンスターの足音が届く。

「来ました。」

オドの声に合わせてメンバーが武器を抜いて身構える。

ドシン、ドシンという音が徐々に大きくなり、ついに巨大なゴーレムが姿を現す。

ゴーレムは3m程の巨体で、その身体は金属独特の輝きを放っている。

「撃ちます。」

オドが先制攻撃とばかりに鉄矢を放つが、ゴーレムの頑丈な表面にダメージは与えられなかった。

「行くぞ。」

先制攻撃の結果を確認したカルペラが走り出す。

オドも弓矢を戦鎚に持ち替えてそれに続き、遅れてコリンも走り出す。

「"アイズ・ウェブ"」

同時にユーグが詠唱し、ゴーレムの足元に蜘蛛の巣状の氷が張り巡らされる。

張り付く氷はゴーレムの下半身の自由を奪い、ゴーレムはその場での応戦を余儀なくさせられる。

「おりゃあ!!」

もはや的となったゴーレムにオドとコリンが襲いかかる。

普段通りオドが攻撃を避けながら戦鎚を叩き込む一方で、コリンは間合いを取りつつ大斧を叩きつける。

「コリン、どうした?」

普段、間合いなど気にしないコリンの不可解な行動にカルペラが声をかける。

「いや、なんでもねえ。」

コリンはそう答えるが、明らかに普段とは異なる雰囲気で、まるで違うものとの戦闘をシュミレーションしているかのように振る舞っている。

その時、ハーザーの声が響く。

「ユーグ、危ない!!」

いつの間にかゴーレムに接近していたユーグにゴーレムの腕が振り下ろされる。


ガキン!!


鈍い音が響き、ゴーレムの腕をカルペラの大盾が受け止める。

「ユーグ、出すぎだ。」

「すまない。助かった。」

カルペラが少し怒ったように言うと、ユーグは素直に後方へ撤退する。

それを見たコリンも我に返ったように一気に攻勢を強め、5分もしないうちにゴーレムは倒される。


「ユーグ、コリン。さっきのはなんの真似だ?舐めているのか?」

戦闘が終わった直後、カルペラが怒気を含んだ声で2人を問い詰める。

「すまない。」

「悪かった。」

ユーグとコリンは素直に謝罪するが、カルペラは収まらない。

「謝罪が聞きたいんじゃない。なぜあんな舐めた真似をしたのかを聞いている。ここはダンジョンだぞ。死にたいのか?」

「いや、決してそんなつもりはない。ただ、、、」

「ただ、なんだ?」

口を閉ざすユーグにカルペラが迫る。

「いや、なんでもない。すまなかった。」

ユーグはそれだけ言って黙ってしまう。

カルペラはユーグとコリンに鋭い眼差しを向け、ため息をつく。

「お前たちの考えていることは大体わかる。単独での戦闘を意識したんだろ?」

カルペラの言葉にコリンの目が泳ぎ、ユーグは何も言わずに立っている。

「気持ちわわかる。戦闘に余裕があることで深層界が見え始めたんだろう。同時にいままで気にならなかった自分の個人的な弱点が見えてきた、違うか?」

2人は黙ったままだったが、沈黙がその答えを物語っていた。

俺達・・もそうだった。だからこそ、先輩として言わせてもらう。そんな程度で届くほど深層界は甘くない。1日2日でこの層で通用する程度に自分の弱点が補えるほど戦闘が単純じゃないことくらい、わかっているだろう?」

ユーグが頷く。

「なら今は目の前の戦闘に集中しろ。少なくとも不注意で死ぬよりはマシだろう。」

「すまなかった。」

ユーグが頭を下げ、コリンもそれに続く。

「パーティーにはそれぞれ役割ロールがある。司令塔も、メインアタッカーも、その役割ロールの1つに過ぎない。単独戦闘の練習がしたいなら、そもそもパーティーで潜入するべきじゃない。わかるだろ?」

そう言ってカルペラが2人を見る。

その瞳は優しさと共に寂しさを宿しているようだった。

オドは普段は寡黙なカルペラが初めて見せる1面に驚くとともに、改めて"鷹の爪"というパーティーにおけるカルペラという冒険者の重要性に気付かされるのだった。


「さあ、行くぞ。もうあんな戦闘はしないでくれよ、リーダー。」

「ああ。すまなかった、カルペラ《・・・・》。進もう。」

カルペラに促され、ユーグが歩き始める。

コリンやハーザーもそれに続いて歩き出す。

殿しんがりを歩くオドにはユーグとコリンの燃え上がる闘志が、はっきりと見えた。


ここまでご覧になって頂きありがとうございます。

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