怪しい雰囲気⑥
今日もダンジョンは大混雑だった。
銀狼のダンジョンに来た“鷹の爪”は入口前広場で30分程過ごしていた。
どうやらダンジョンの入口付近で詰まっているのか中々前に進めない。
「どうなってんだよ。こんなこといままでなかったぞ。」
コリンが不満をこぼす。
「ダンジョンは5つもあるんだから分散すればいいのに。」
「いや、どこもダメだったぞ。」
ハーザーがそう言うと、後ろから聞き覚えのある声がする。
コリンとハーザーが振り返ると、そこには先日クラン・クロウの模擬戦で優勝したマジーカの姿があった。マジーカもうんざりといった表情をしている。
「マジーカさん、おはようございます。どこも、というのは?」
「おはよう、ユーグ。そのまんまだ。どこもこの混雑で前に進めん。」
その時、急に列が前進しダンジョン入口が見えてくる。
「お、なんかやってるぞ。」
そう言ってコリンが指さす先には、ダンジョンの入口のすぐ脇に陣取ってなにやら大声で演説をしている集団がいた。よく見ると、クラン・アイを示す紋章の描かれた旗も掲げられている。
「あいつらのせいで混んでたのか?」
コリンが少し恨めしそうに集団を睨む。
さらに列は進み、演説集団の声が聞こえるくらいの距離になる。
「やっと入れそうだ。」
マジーカがそう言った刹那、再び列が止まる。
「まただよ。」
コリンが吐き捨てるように言った、その時、大きな声が響き渡る。
「皆さん!! もし今日、オーバーフローで倒した数だけこのダンジョンでモンスターを倒したら、いくら稼げていたと思いますか!?」
ダンジョン入口横の集団の1人が声を張り上げ、入口に滞留している冒険者達が一斉に注目する。
「それだけじゃない!! オーバーフローが無ければ本来稼げていた金額はいくらになると思いますか? 少なくとも、迫りくるモンスターから市民を守り、この街を救った我々冒険者はその分の保証を受けるべきとはおもいませんか!?」
思わず聞き入っている冒険者達の様子を確認してから、演説を始めた男が自己紹介する。
「皆さん、初めまして。いきなり大声を出し、失礼しました。クラン・アイ所属、ハイド・アルノルドと申します。以後お見知りおきを。」
そう言ってアルノルドと名乗った男は一礼する。
それに合わせて、待たされてイラついている冒険者達から野次が飛ぶ。
「皆さんの気持ちは分かります!! しかし、この現状を作っているのは冒険者よりも市民を優先している冒険者ギルド上層部の責任です!! 私は、それが許せない。だからこうして皆さんの前に立っているのです!!」
アルノルドは胸を張って声を張る。
「よく考えてください。オーバーフローを通して最も優遇されたのは商人、そして市民です。彼らには今も復興の名目で資金が投入されています。商人に至ってはオーバーフローで我々が戦っている最中、街の外という最も安全な場所に避難していたんです。おかしいでしょう!!」
徐々にその場が静まり、アルノルドの声だけが響き渡る。
「魔石仕入価格が据え置きなのも、すべて商人達への忖度だ!! この街は冒険者の街だ。だからこそ、その盟主は冒険者ギルドマスターが務めている。にも拘らず、冒険者の代表たる冒険者ギルドマスターがこんな体たらくで良いと思いますか!?」
徐々にアルノルドに同意する声が出始める。
「我々、クラン・アイは共にギルドマスターに意見してくれるクラン、パーティーを募っています。現状の矛盾した制度を、共に訴えていきましょう!!」
アルノルドがそう言って一礼する。
ちょうどその時、図ったように列が進む。
「くだらんな」
マジーカがそう言って歩き始める。
「そうだったか?」
カルペラがマジーカに聞く。
「ああ。奴は冒険者ギルドマスターのなんたるかが分かっていない。」
マジーカは頷いてカルペラを見ると、それだけ言って離れていく。
ダンジョン内部は思ったより遥かに空いていた。
「結局あの混雑は何だったんだ…」
コリンが疲れた表情で呟く。
「さあ、気を引き締めていくぞ。攻略はここからだ」
ユーグがそう言って歩き出す。
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