怪しい雰囲気③
「おはよう」
モンタックの蜂蜜亭に入ってきたオドにユーグが声を掛ける。
「おはようございます。遅かったですか?」
オドが見ると既に鷹の爪の他のメンバーは店に集まっていた。
「いや、大丈夫だ。皆が早いだけだよ。」
ユーグはそう返すと席を立ちあがる。
普段は感情が表に出ないタイプのユーグだが、今日は沸き上がる闘志が見えるようだった。
「おっしゃ、行くか!!」
それは他のメンバーも同じで、コリンに関しては飢えた獣のようにギラついた眼をしている。
それを見るオドも、触発されてか鼓動が少し高まるのを感じる。
今日は閉鎖されていたダンジョンが解放される日。
ヴィルトゥスの冒険者達が待ち望んだ朝が、ようやく訪れた。
「モンタックさん、行ってきます」
ユーグ達は店の主、モンタックに声を掛けて出ていく。
「久々のダンジョン、気を引き締めていけよ。」
「たりめーよ。ガッツリ稼いでくるわ。」
「コリン、頼むぞ!! そして店にお金を落としてくれよ。」
最後にコリンが軽く言葉を交わして店を出る。
モンタックの蜂蜜亭を後にした“鷹の爪”は南西に向けて歩みを進めるのだった。
10分程度で“鷹の爪”一行は目的のダンジョンに到着する。
白鯨のダンジョンの前は、当然ではあるが、多くの冒険者達でごった返していた。
「流石に初日は混んでるね~。」
「そうだな、それに、、、」
そう言ってユーグが視線を向ける先では、冒険者同士でいがみ合いが発生していた。
「あちゃー。ユーグ、あれ止める?」
それを見てユーグに話しかけたハーザーが頭を掻く。
「いや、ここで変にトラブルに巻き込まれるのも良くないだろう。進もう。」
ユーグはそう言って前進し、他のメンバーもそれに続く。
「大丈夫ですかね?」
「きっと大丈夫だろ。まあ、他の冒険者達も鬱憤が溜まってるってわけだ。」
オドが心配そうにコリンに声をかけると、コリンはこともなげに笑う。
「はあ。」
「実際、オーバフローは戦い損だったからな。命を危険にさらして戦っても、街の復興予算のせいで報酬はなし。さらにダンジョンが再開するまでは街の依頼をこなすぐらいしか食い扶持がなかったからな。」
「そうですよね、、」
「俺らは仮面フクロウの魔石のおかげで蓄えがあったが、そうじゃない連中は気に食わないだろう。特に、その日暮らしになりがちな、クラン所属の低級・中級冒険者は守ったはずの市民にこき使われるんだからな。」
そう言ってコリンは少し同情するように先程の冒険者達の方を見る。
つられてオドも彼らを見るが、彼らはいつの間にか和解をしていた。
「な、大丈夫って言ったろ。俺たちも、ダンジョンに集中するぞ。」
「はい!!」
オドは気合を入れ直して前を見る。
久しぶりのダンジョン攻略が始まった。
攻略開始から約3時間後、オド達"鷹の爪"は第9層で巨大な青いイカのモンスターと戦っていた。
「ほんと厄介だな。」
そう言ってコリンが短剣を振るう。
白鯨のダンジョンは、その名が冠する通り、水系統・魚に関するモンスターの出現するダンジョンである。そして、このダンジョンは物理攻撃をメインとする冒険者にはとことん不利なフィールドだった。
「おら、ずりぃぞ!!」
そう言ってコリンが腕の小盾に刺さった氷の触手を叩き割る。
モンスターは基本的に物理攻撃が通じないが、冒険者に攻撃する場合のみ身体の一部が氷となって物理攻撃可能となるため、コリンのような大型武器をメインとする冒険者にはあまりに相性が悪かった。
「チッ!!」
ハーザーの頬をモンスターの触手が掠める。
ユーグの炎魔法も効かないため戦況は不利の一言に尽きる有様だった。今は盾を持っているコリン、カルペラ、ハーザーがユーグを守り、更にその後方でオドが待機をしている状態である。
「キリがない。おい、ユーグ!! まだか?」
そう言ってコリンが振り返ると、ユーグが準備できたとばかりに頷く。
「よっしゃ。いったれ、ユーグ。」
そういってユーグの防御に徹していたコリン、カルペラ、ハーザーが飛び退く。
「"四面濃霧"」
ユーグの詠唱とともにモンスターの周囲を濃霧が囲い込む。霧はモンスターの表面に張り付き水滴となる。
「"アルケミ・アイズ"」
再びユーグが詠唱し、次の瞬間にはモンスター表面に張り付いた水滴が氷へと変貌する。
表面を凍らされたモンスターは一瞬、身動きが取れなくなる。
「"アイズ・アロー"」
ユーグが力強く詠唱し、大量の氷柱が発生する。
一斉に放たれた氷の矢は硬直するモンスターに突き刺さり、モンスター内部を徐々に凍らせ始める。
「コリン!!」
ユーグが叫ぶと、コリンが一気に飛び上がると、勢いそのままに大斧を振り抜く。
青イカのモンスターは真っ二つに切り裂かれ、モンスターの核が出現する。
最後にオドの放った鉄矢がモンスターの核を捉え、モンスターは消滅する。
「よっしゃあ!!」
コリンが叫び、"鷹の爪"に歓喜が訪れる。
金銭的に得るものはなかったかもしれないが、オーバフローは確実にメンバーの成長を促していた。
久しぶりのダンジョン攻略は"鷹の爪"のメンバーにそんな自信を与えてくれた。
そんな"鷹の爪"を見つめる視線があった。
クラン・アイに所属するSランク冒険者ボギーは"鷹の爪"の戦闘に偶然遭遇していた。
「あの冒険者達、中々のやり手ですね。」
「ああ。いいものを見た。」
一緒に戦闘を見ていた仲間にそう言うと、ボギーはニヤリと笑う。
「さあ、俺達も負けてられないぞ。」
そう言ってボギーは仲間を率いてダンジョンを進んでいくのだった。
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