怪しい雰囲気①
ヴィルトゥスを囲む城壁に一羽の鳥が降り立つ。
光を吸い込むような漆黒を身にまとうその巨鳥は目下に広がる街をジッと見下ろす。
やがて黒鳥は城壁を飛び立つと、復興に沸き立つヴィルトゥスの喧騒の中へと紛れてゆくのだった。
その頃、一躍街の有名人となったオド・カノプスは"獅子の爪"街に本拠を構えるクラン・クロウ本部にいた。
クラン・クロウ本部地下1階にある闘技場で、オドは新たに相棒となった剣である"フィリーア"を握りしめてパウと戦っている。
「フッ!!」
パウの投げた戦鎚に繋がった鎖が"フィリーア"に巻き付くと、オドはすぐに剣から手を離す。
「"通電"!!」
パウの詠唱とともに"フィリーア"もろともパウから放たれる電撃が流れる。
それを見ずにオドはパウへの距離を詰めにかかるが、パウは剣の巻き付いた鎖をムチのようにオドにぶつけようとする。
オドは間一髪のタイミングでそれを避けて飛び上がるが、着地点に向けて大盾を構えて突進するパウが見える。オドは何もできずそのまま着地し、パウの突進のダメージを喰らって後ろにふっ飛ばされる。
「ぐっ!!」
背中を壁に強打したオドが顔をあげると、そこには剣を突きつけるパウがいた。
「そこまで。」
審判の宣言で模擬戦が終了すると、周りから拍手が巻き起こる。
パウに起き上がらせてもらったオドは模擬戦を観戦していた鷹の爪のもとに戻る。
「いやー、オドでも駄目だったか。」
闘技場の観戦席でコリンが悔しそうに言う。
「ていうか、強すぎでしょ。ボス・スレイヤーとはいえ、もう35歳近いのに。」
ハーザーがそう言って、カルペラが頷く。
ダンジョン再開放の前日、"鷹の爪"のメンバー達はクラン・クロウの模擬戦大会に招待されていた。
オドが準決勝でパウと当たり敗北したところで、"鷹の爪"メンバーで残っているのはユーグのみとなった。
「わかってはいたがパウさん、本当に強いな。特に1対1だとほんとに隙がない。オドならもしかしてと思ったんだけどなぁ。これで実質、前衛の優勝はパウさんか。」
準々決勝にてパウに敗北したコリンがそうボヤく。
前衛と後衛でそれぞれトーナメントが分かれる模擬戦大会での準決勝は、各部門の決勝を兼ねている。鷹の爪としては後衛の準決勝に残っているユーグを応援するのみだ。
「いい試合だったな!! パウさんとあそこまで戦える奴なかなかいないぞ!!」
「ありがとうございます」
オドは熱戦に盛り上がるクラン・クロウのメンバーに囲まれる。
オドは模擬戦を通してハードワークを是とする猛者揃いのクラン・クロウのメンバー達に認められていた。
「コリン、お前もなかなかだったが、やっぱりコイツは違うな!!」
「うるせえ!! お前、俺に負けといて何いってんだ!!」
認められているのは元々クランに属していたコリンも同じで、かつての同僚に絡まれる。
「次の試合が始まるぞ。」
カルペラがそう言って、闘技場を指差す。
闘技場では、後衛の決勝である準決勝の準備が整っていた。
クラン・クロウの面々は急いで自席に戻り、試合開始の合図を待つ。
オドも"鷹の爪"メンバーの待つ自席に戻るとメンバーに労いの言葉とともにハイタッチで迎えられる。
ユーグとクラン・クロウメンバーの準決勝進出者が向かい合う。
「はじめ!!」
開始の合図とともに、再び闘技場は熱狂に湧き上がるのだった。
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