英雄誕生
避難民の激励に訪れていたライリー達も異変に気付く。
明らかにダンジョンから流れ出るマナの量が増加し、それに気付いたクルツナリックがライリーに忠告したのだった。ライリー、クルツナリック、ダン、ユーイングの4人は水路沿いに作った安全地帯を移動し、一直線に戦いの渦中である冒険者ギルドを目指す。
◇ ◆ ◇
攻撃の迫るユキに向かって跳び出したオドは空中で時間が引き延ばされるような感覚に陥る。
時間がゆっくりと進み、クリアになった視界はハッキリと周囲の状況を捉える。周囲にある物の位置関係を感覚的に捉えられるようになり、目に見えないはずのマナの存在まで認知できた。オドの紫金色の瞳にはオーロラの光が宿っている。
「Gyaaaaaaaoooooooo!!」
振り下ろされるモンスターの爪とユキの間に入ったオドは咄嗟に唱える。
「“護れ”」
次の瞬間、オドの命令に従うように周囲のマナが凝縮をはじめ、超高密度のマナで生成された透明の盾が完成する。それに気付く由のないモンスターはそのままユキを守るように覆いかぶさるオドに爪を突き立てようとする。
ガキンッ!
鈍い音が響き、オドの手前でモンスターの爪が何かに阻まれる。
一瞬のモンスターの怯みを見逃さなかったオドはユキを抱えるとそのまま門の近くに逃れていたハーザーにユキを引き渡す。オドはすぐにモンスターの下に戻ろうとする。
「オド!!」
その時、コリンがオドを呼ぶ。
オドが振り向くと、コリンが長方形の黒い木箱を抱えて2階に立っている。
オドは跳躍してコリンの下に向かう。
「“寄せるな”」
オドに追いすがろうとするモンスターにオドが恐ろしいほどに冷たい視線を送る。
次の瞬間、モンスターは何かに頭をぶつけたように後ろに弾かれる。オドはコリンの下に降り立つ。
「ありがとう。後は任せて、みんなを避難させて。」
オドはそれだけ言うと、オドはライリーから受け取った鍵を取り出すと、硝子天井の木箱を開けて一振りの剣を握る。
「お、おう。」
コリンはいつもと雰囲気の違うオドに驚きつつも、言葉を返す。
オドは無言のまま頷くと、空中を駆けてモンスターの下へと戻っていく。
コリンは一瞬、衝撃に固まるも急いで倒れている冒険者達の移動を始めた。
「“取り囲め”」
オドがそう言うと、倒れた冒険者達と隔たれたオドとモンスターの周囲のみを囲うようにマナの透明な壁が作られる。オドの身体は以前にも増した魔力が帯び始める。
オドの雰囲気にモンスターは危険を感じたのか後退りをするが、透明の壁にぶつかってしまう。
「Gyaaaauuu!!」
モンスターが鳴き声を上げ、オドに浮遊した瓦礫が殺到する。
轟音と共に土煙が上がり、モンスターがオドのいた場所に視線を向ける。
オドは無傷だった。
マナで生成されたガードは瓦礫の炸裂に耐えきっていた。
モンスターはさらに剣や槍を次々とオドに向かって放つが、それらも全て透明な盾によってオドに触れることなく地面に落下する。
「次は、オレの番だ。」
オドはそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。
◆ ◆ ◆
「これは、、、」
その頃、冒険者ギルドの入口に辿り着いたライリー達は運び出される重傷者達の様子を見て言葉を失っていた。難を逃れた者や軽傷者が担架を使って中から重傷者を運び出し、ハーザーやシオンなどの回復魔法を使えるものが走り回っていた。
「クルツ。」
「うむ。」
ライリーの呼びかけに頷いたクルツナリックもすぐに重傷者の下に向かい回復魔法を使用する。
「ライリー様!!」
ライリーが冒険者ギルドに向かおうとすると、ちょうど冒険者を背負って出てきたコリンと出くわす。
「君は、コリン君、だったかな。中の様子はどうなっている?」
「背負っている彼で怪我を負った冒険者の避難は最後です。後はオドだけが中に残ってます。」
「オド君が⁉」
ライリーは驚きの声を上げ、急いで冒険者ギルドへと駆けていく。
冒険者ギルドの門を潜ると、そこでは天狼王の風格を宿した少年が超巨大モンスターと対峙していた。
◆ ◆
オドは身体に力が漲るのを感じる。
ドクドクと高まる鼓動とは裏腹に頭は冴え、集中力が深まっていく。
「Gyaaaaaaa!!」
再びモンスターが浮遊させた剣や槍をオドに向かって放つ。
オドは何も言わずに地面を蹴って走り出す。
「、、、」
オドは無言のままヒラヒラと飛んでくる武器を避ける。
まるで初めから分かっていたるかのように余裕を持ってすべての攻撃を避けきったオドは一気にモンスターとの距離を詰める。オドの瞳から光が零れる。
「さよなら。」
オドの呟きと共にモンスターの胸に深々と“コールドビート”が突き刺さる。
オドは魔剣を一気に押し込む。最後に何か硬いものに剣先が触れた感覚がし、それが壊れた感触と共に目の前のモンスターは光となって消滅する。
光の粒子は冒険者ギルドの外にも漏れ出す。
同じ頃、街に溢れていたモンスター達も一斉に光となって消滅し、ダンジョンから流れ出ていたマナは逆流するようにダンジョンへと戻っていった。
ヴィルトゥスにいる全ての人々が長い悪夢の終わりを目の当たりにする。
歓声。
歓声。
歓声。
街の至る所で歓声が鳴り響く。
共に苦難を耐えた者達は、肩を叩き合い、握手をし、笑顔を向け合う。
冒険者ギルドに人がなだれ込んでくる。
自分に向かって走ってくるパーティーメンバーの笑顔を見て、オドの身体から力が抜ける。
熱狂の中で、オドはその中心にいた。
ここまでご覧になって頂きありがとうございます。
拙い文章ですが、少しでも気に入っていただけましたらブックマーク、高評価をしていただけると幸いです。
評価は↓にある【☆☆☆☆☆】のタップで行えます。
また誤字脱字の報告、感想もお待ちしています。
Twitterもやってまーす。(@Trench_Buckets)