ブレークアウト ④
「、、、ん?」
ふと寒気を感じてオドが目を覚ます。
【鷹の爪】が寝所にしている部屋はまだ薄暗く、特に変わった様子はない。
他のメンバーもまだ寝ているようで、特に違和感は感じられなかった。
「、、、?」
オドは少し首を傾げるが、もぞもぞと布団から這い出る。
目が覚めてしまったオドは、いつもより早いが素振りに行くことにして木刀を持って部屋を出る。
夜明け前の冒険者ギルドは静まり返っていた。
薄暗い吹き抜けエントランスの壁には蝋燭の灯りがぼんやりと並び、巨大なステンドグラスは月明かりが差し込んで、エントランスの床に淡い青を映しだす。
「さむい」
オドは小さく呟いて、そそくさと上の階に繋がる階段へと向かう。
朝早いからか階段に衛兵の姿はなく、オドは石造りの階段を昇って行くのだった。
◇ ◇
オドは闘技場には向かわず、そのまま屋上へと向かう。
オドが扉をそっと開けて屋上に出ると、先客の姿はなく、ひんやりとした風がオドを迎える。
オドは屋上の柵に手を置いて、以前、客間から見た時とは変わり果てたヴィルトゥスの街を見下ろす。
「まるで、、、溝みたいだ、、」
窓明りが一切ないヴィルトゥスは月明かりをも吸い込む真っ暗闇だった。
一方でヴィルトゥスと取り囲む丘の中腹には避難している市民の発する灯りが見える。
街は天に向かって大きく口を広げた巨大な穴のようにオドの瞳に映る。
「あっ」
オドが声を漏らす。
遥か北の空、地平線近くに、オドは紫金色に輝く星を見つける。
大星天狼星はツヤツヤとした輝きを放ち、地平線スレスレにありながら自身の存在感を示している。
オドは祈るように目を閉じると、遥か北に輝くその星に呟く。
「この街で出会った人たちが、無事でいれますように、、、。」
東の空が薄っすらと明るくなってくる。
ガチャリという音と共に扉が開けられる。
オドが振り返ると、そこにはユキの姿があった。
「おはよう。」
ユキは少し驚いたような表情を浮かべるが、すぐにいつもの表情に戻ってオドに挨拶をする。
オドも慌ててユキの方を向くと「おはようございます。」と挨拶する。
「僕はこれで失礼しますね。」
ユキの歌を知っているオドはユキと入れ替わりで屋上を立ち去ろうとする。
ユキは立ち去ろうとするオドに何か言いたげな表情を浮かべるが、何も言わずにオドの後ろ姿を見送ろうとする。オドは階段の手すりに手をかけた。
その時だった。
突如、耳をつんざくような地響きと共に冒険者ギルドが大きく縦に揺さぶられる。
ユキが小さく悲鳴を上げる。
オドがとっさに振り返ると、ユキは激しい揺れに立っていられず屋上の床に手をついていた。
足元はグラグラと振動を続けている。
「ユキさんっ!!」
オドは手すりを持つ手に力を入れて、ユキに反対側の手を伸ばす。
ユキもオドの手を取ろうと手を伸ばすが、あと一歩のところで2人の手は届かない。
「あっ」
ひときわ激しい揺れにオドの手が掴んでいた手すりから離れる。
オドはユキの方へと吹き飛ばされ、2人は抱き合うように衝突する。
2人はそのまま屋上の壁へと転がり、オドの背中が壁にぶつかる。オドは壁にぶつかった衝撃で一瞬、息ができなくなり小さく呻くが、ユキを抱きとめている反対の手でがっちりと壁を掴み2人の身体が飛ばされないように固定する。
「、、、」
ユキは何も言わず、ただ揺れだけが続く。
激しい揺れは10分ほど続き、落ち着く頃にはオドの腕は限界間近だった。
オドは揺れに耐えきったことに安堵しつつ起き上がる。
ユキも起き上がり、2人は自然と向かい合うようにして立つ。視線が交錯し、沈黙が流れる。
ユキが何か言おうと口を開いた刹那、冒険者ギルドの下の方から悲鳴が上がるのが聞こえる。
その声を聴き、ユキの表情が変わる。
オドとユキは頷き合うと、階段を駆け下りていくのだった。
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