ブレークアウト ③
「、、、」
砲撃用の高台に立ったユーグが口を閉ざして下を見下ろす。
ユーグの反応を見てモンスターの様子を確認した他の冒険者達の顔が緊張で強張る。
「大きくなってますね。」
「ああ。明らかにな。」
オドとユーグは軽く会話を交わして、再び黙り込む。
目下に群がるモンスターの各個体のサイズは昨日までに比べて明らかに大きくなっていた。
「とはいえ、すべきことは変わらん。」
ユーグはそう言って魔法の詠唱を始める。
オドもうんと頷くと弓を構える。
「放て!!」
指揮官の指示と共に魔法が次々と放たれ、モンスターへと降り注ぐ。
モンスターは一斉に消滅していき、高台にいた冒険者達は拍子抜けといった表情を浮かべる。
矢を放ったオドが近接戦闘組に合流しようと高台を降りようとすると、ユーグが声を掛けてくる。
「オド、気を付けていけよ。それと、コリンに“決して驕るな”と伝えておいてくれ。」
ユーグの言葉を聞いたオドは頷き、高台を駆け降りていく。
ユーグはというとオドを見送った後、コリン達が待機している扉とは別の方角に目を向けるのだった。
「おう、来たか。」
オドが近接戦闘組に合流するとコリンが声を掛けてくる。
「お待たせしました。」
オドがそう言うと、コリンは頷いて指揮官に目配せをする。
「出撃!!」
「よっしゃ、いくぞぉぉぉ!!」
指揮官の指示で扉が開くと、コリンが真っ先に雄叫びを上げて飛び出していく。
コリンに伝言を伝えようとしたオドは流れに乗り遅れ、慌てて飛び出していくのだった。
◆ ◆
同じ頃、オド達とは別の方角の扉の前。
パーティー【エレメンタル・ミューズ】の面々が陣取っている。
「それじゃあ、そろそろ行くよー!」
パーティーのリーダーであるリサがそう言ってパーティーを鼓舞する。
5人はリンカが先頭、ユキとリサが次に並び、後ろにランナとシオンが控えるという1-2-2の配置で陣形を組むと、リサが手を挙げて扉を開けるように指示を出す。
「さあ、今日も頑張りましょう。」
リサの一言と共に【エレメンタル・ミューズ】は戦場へと飛び出していく。
戦場へと出ると、いきなりランナが詠唱を始める。
「“エン・スピードメント”、“エン・アジリメント”“エン・フォーチュメント”」
ランナは3種類の強化魔法を先頭にいるリンカに発動する。
「ランナ、ありがと。それじゃあ、行くよ!!」
胸当てと肘当てのみという軽装備に短剣2本を持ったリンカが群がるモンスターへと駆けていく。
リンカは一気に敵へと接近すると、軽い身のこなしでモンスターの攻撃を避けながら短剣で攻撃をする。
短剣での攻撃力は低くモンスターには全く消滅する気配はないが、リンカ猫人特有のボディコントロールで攻撃を避けつつ、お構いなしに次々と別のモンスターへと攻撃をしていく。
「まだまだ。」
徐々にモンスター達はリンカを囲むように一箇所に集まってくる。
そんなリンカの様子を見つつ、リサとユキが軽く会話をする。
「そろそろね。ユキちゃん、どうする?」
「先に行く。」
「そ、りょーかい。」
話を終えると、ユキが腰から剣を抜く。
抜き放たれた剣はユキの髪のように白銀に輝いている。
「そろそろ行くよ!!」
リンカが超人的な回避をしながら声を出す。
次の瞬間、リンカは一気にモンスターの包囲を抜け出し、ユキと入れ替わるようにパーティーメンバーの方へと後退する。
「さようなら。」
ユキはそれだけ言って、無作為に剣を横に振る。
振られた剣は空を切るが、次の瞬間には振られた剣の遥か先にいるモンスターまで、まるで巨大な剣で横から切られたように崩れ落ちて消滅する。ユキは一気に30m半径のモンスターを殲滅させていた。
「進むよー。」
リサの号令で【エレメンタル・ミューズ】の面々は前進する。
すぐに新手のモンスターが迫ってくる。
「それじゃあ、引き続きー。」
リンカがそう言って再び走り出していく。
リンカは先程と同様に回避盾としてモンスターのヘイトを集めていく。
「じゃあ、今度は私だね。」
今度はリサがそう言って前に出ていき、ユキは後方のランナとシオンの護衛に回る。
リサは悠々と歩いていくと、リンカがそれに合わせてモンスターの群れから離脱する。
「燃え尽きなさい。“業火”」
固まったモンスター達が全てを焼き尽くす炎に飲み込まれる。
炎が過ぎ去った後には大量の魔石が転がっているのみだった。
「はい、終わり。さあ戻ろう。」
リサは振り返ると、そう言ってにっこりと笑うのだった。
◆ ◆
引き返していく【エレメンタル・ミューズ】の姿を、ユーグが見ている。
「やはり、凄まじいな、、、。」
ユーグの手は固く握られ、小さく震えている。
基本的に炎と氷の魔法を扱うユーグにとっては炎の魔法のトップ冒険者であるリサは憧れであり、超えるべき目標と考えていた。だからこそ、ユーグはそんなリサに認められたユキに必要以上に対抗意識を抱いている。
「ふぃー、疲れたぜぇ。」
高台の下からそんな声が聞こえ、ぞろぞろと接近戦闘組の冒険者達が戻ってくる。
その中にもコリンとオド、カルペラの姿も確認できた。
ユーグはパーティーメンバーが無事に戻ってこれたことに一安心して、高台を降りる。
「どうだった。変化はあったか。」
「おう、まあちょっと重い位だな。」
コリンはそう言って、軽く肩をまわす。
「そうか、全員無事なようで良かった。」
「おう、ありがとな。」
コリンは軽く手を挙げると、冒険者ギルドへと戻っていく。
ユーグも先程まで【エレメンタル・ミューズ】が戦っていた戦場を一瞥してから、冒険者ギルドへと戻っていくのだった。
◇ ◇ ◇
「問題なく対応できたようだが、、、。」
「うむ。モンスターの変化は見逃せない変化じゃのう。」
冒険者ギルドの執務室でライリーとクルツナリックが話し合っている。
「とにかく、いち早くマナの器を見つけなければ。何か見落としている気がしてならん。」
ライリーが呟き、執務室を沈黙が支配する。
夜が更ける。
来るべき惨事の予感を醸して。
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