運命の子 ⑧
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コウ達は本来決めていた目的地から随分と東側にズレた位置から狼笛の音が響いていることに気付き、何か不測の事態が発生していることを理解した。しかし、狼笛が奪われた可能性を考慮し一旦は予定通りの目的地に向かい直進することにした。
「コウ、正面に待機しているのは敵の騎馬のようだ」
目の利く仲間がコウに声をかける。
それを聞いたコウは狼笛の音は仲間によるものだという希望に縋る思いで進路を右に変更する。それを見た追手、更には正面で待機していた騎馬兵もそれに続くように右へと進路を取る。結果、キーンの作戦通りコウ達は挟み撃ちに遭うことなく追手、精鋭部隊の両方に追われる形となる。
「やったぞ!!」
コウの走る延長線上でキーンと別れた東側組の面々はコウ達の誘導に成功したことで歓声を上げる。コウ達の姿はグングン近づき、東側組がコウ達と併走する形で合流する。
「キーンさんは?」
コウは東側組の中にキーンがいないことに気づく。
「俺らの囮おとりになって敵のを引き付けてくれてる。俺たちはこのまま霧の森に突入するように、だそうだ。まぁキーンさんのことだ、すぐに俺らに追いつくだろうよ。なんなら俺達より先に大星山の麓についてたりしてな」
東側組の仲間の1人がコウにキーンの作戦を伝える。コウはそうかと頷き、キーンの作戦通り霧の森へと一直線に進んでゆく。
「それじゃ、麓で。」
そう言いあうと落ち合った10人の天狼族は霧の森へと駆けこんでいく。それに続くように合計17人の枢機卿親衛隊の騎馬兵も森へと突入していくが、彼らが天狼族に追いつくことはなく遭難の末に霧の森を脱することとなった。
◆
この状況はドーリーにも見えていたが、完全にキーンのテリトリーに入ってしまってることで身動きが取れないでいた。むしろ、目の前の敵から生き延びることに神経を割かなければならず、正直それどころではなかった。事実、キーンの前に10人いた親衛隊はドーリーを含め4人まで人数を減らしており、ドーリー以外はキーンの攻撃を一度も避けれないまま斃れていった。
「フッ」
短く息を吐きドーリーは口に咥えた吹き矢を放つ。キーンの翡翠色に輝く瞳が揺れ毒矢は空をかすめる。次の瞬間にはドーリーの飛び退いた場所に剣が振り下ろされる。剣を振り下ろすキーンの背中に投擲された短剣が迫る。短剣の角度は完全にキーンの死角に入っている。
「よしっ!!」
思わずドーリーの口から喜びが出るのも束の間、キーンはまるで見えていたかのように短剣を軽々避けると、短剣を投げた部下が叩き切られる。再びキーンの瞳とドーリーは目が合う。ドーリーはまずいと思い直感的に自らの剣を両手で抑え魔剣を受け止めるように掲げる。
ガシャン
鈍い音とともに強烈な衝撃が両手を襲い、自らの目の前で掲げた剣がボロボロと崩れ落ちるのが見える。終わった、そう思い死を覚悟するドーリーであったが、魔剣がドーリーに至ることはなかった。
「君は私と同じ能力を持っているようだ。君自身気づいていないようだが。」
魔剣の代わりに声が駆けられる。ドーリーがハッと顔を上げるとキーンは既に霧の森に向かって走り出していた。しまったと思いドーリーも追うが驚異的なスピードに到底追いつけることはなかった。
「クソォォォォォォォォォォォ」
ドーリーは自らの作戦負け、そして力負けに雄たけびを上げる。
周囲にはキーンと相対して運よく生き延びた2名の部下が残るのみとなった。ドーリーはおもむろに弓を取り出すと、腹いせとばかりに一本の矢を霧の森に向かって放つ。
「フールの街に戻るぞ。もしかしたら残党が残っているかもしれん。」
そう部下に指示するとドーリーは騎馬に跨ると霧の森を一瞥し南方、フールの街へと引き返していくのであった。
「この借りは必ず返す…。」
そう呟くドーリーの背中にはどうしようもない悔しさと己が無力感が重くのしかかっていた。
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