ブレークアウト ②
「んん、、、」
オドが目を覚まして、被っていた布団から顔を出す。
周囲はまだ暗く、【鷹の爪】のメンバーもまだ寝ている。オドは音を立てないように今や寝所となっている会議室の扉まで移動すると、そのまま部屋を出ていく。部屋を出たオドは冒険者ギルド3,4階、屋上へと繋がる螺旋階段へと歩いてゆき、そのまま階段を登る。
オドは4階まで来ると、屋上へは向かわず、そのまま闘技場へと歩いていく。
「おはようございます。」
オドが一礼して闘技場に入ると、そこには誰もおらず、静かな空間が広がっていた。
オドは迷いもせず闘技場に入っていくと、客席に立掛けて置いてある木刀を掴む。
オドはいつもの如く素振りを始める。この日課は冒険者ギルドに籠城を始めてからも変わっていなかった。
「~~~♪」
オドが素振りを始めて30分程経つと、どこからかユキの歌声が聴こえてくる。
冒険者ギルドの屋上で歌を歌うというユキの日課もまた冒険者ギルドに籠城を始めてからも変わっていなかった。
「今日も聞こえた。」
オドは小さく呟いてユキの歌声に注意を向けながら剣の素振りを続ける。
空間的に阻まれているのにも関わらず、オドの耳にはユキの歌声がしっかりと届いていた。
オドはユキの歌が完全に終わるのを目安に剣の素振りを終えると、控室のシャワーを浴びてから階段を降りていくのだった。
◆ ◆
「おはようございます。」
「おう、おはよう。」
「おはよう。」
オドが会議室に戻るとコリンとユーグの2人が起きていた。
カルペラとハーザーの姿も既になく、パーティーメンバーは全員目を覚ましたようだった。
「よし、では朝食を取りに行くか。」
そう言ってユーグが立ち上がる。
どうやら2人はオドを待ってくれていたようで、3人で会議室を出ると1階エントランスへと朝食を受け取りに向かう。階段を降りると、オド達に向かって手を振るハーザーの姿が見えた。
「今日はこっちで席取れたよ。」
そう言うとハーザーは混み合っているエントランスの仮設食堂の席へと3人を案内する。
「わざわざ、ありがとう。」
「いやいや全然。それよりオドの分も早く貰ってきなよ。」
オドがハーザーに感謝を述べると、ハーザーは事も無げにそう答える。
オーバーフローが発生してから、ハーザーは戦闘での活躍は目立たないものの、このような細かな気遣いをすることで【鷹の爪】というパーティーを影で支え続けている。そんなハーザーの芯の強さに、オドも、パーティーメンバーも救われていた。
「うん、ありがとう。」
オドはハーザーに微笑むと、そう言って席を立つのだった。
◇ ◇
15分後、、、。
【鷹の爪】の座る席には人だかりができていた。
「おう、コリンじゃねえか。今日も頼むぞ!!」
「ユーグもな。ガツガツ行けよ。」
「あれ、オドはいないのか?」
「オドの奴、、逃げやがった、、。」
コリンが悔しそうに呟く。
曲者揃いのベテラン冒険者がメインのクラン未所属冒険者達の中で、若く、活力があり、実力もある【鷹の爪】の(既にベテランである)カルペラを除く4人は冒険者達に大いに気に入られていた。
沢山の冒険者達が話しかけに来ては、声を掛けてくる。
そんな様子を【エレメンタル・ミューズ】の面々は2階のダンのカフェテラスから見下ろしていた。
「何の騒ぎかと思ったら、この間の人達だよ。」
猫人の女性冒険者、リンカがそう言って人だかりを指さす。
「あんなに沢山の人に認められてるなんて、凄いですね、、、!!」
リンカが示した方を見て1年目冒険者のシオンがそう言う。
「何言ってるのよ、シオン。シオンだって十分凄いし、それにあんな男どもと違って、こーんなにカワイイのに!!」
そう言ってリンカがシオンの髪をわしゃわしゃと撫でる。
「や、やめてください、リンカさん、、。」
「じゃれ合うのも良いけど、そろそろ時間なのを忘れるなよー。」
そう言ってリサはじゃれ合う2人にくぎを刺すと、コーヒーを飲み干して立ち上がる。
「ランナちゃんも、ユキちゃんも、そろそろ行くよ。」
そう言って歩き出すリサに【エレメンタル・ミューズ】の面々も付いていき、5人は1階へと降りていく。
階段近くにいた冒険者達は【エレメンタル・ミューズ】の5人に気付くと道を開けるように左右に避け、その間をシオンを除いた4人は悠々とした表情で通り過ぎていく。
「やっぱり貫禄あるねー。」
そんな様子を見たハーザーがそう言う。
その場にいたコリン、ユーグの2人は何も言わずにその様子に目を向けていた。
◇ ◇
「オド、逃げやがったな。」
会議室に戻ったコリンが部屋にいるオドに声を掛ける。
「いや、鎧の調節をしようと思って、、。」
オドがそう言うとコリンは疑わし気な目を向けるが、すぐにオドの鎧に注目する。
「改めて、その鎧、良く出来ているよな。流石、あの爺さんの作だ。」
肩、腕、肘などのパーツを繋ぐ鎖を調節できるオドの鎧をコリンはまじまじと眺める。
「そう言えば、オドも初めてあった時から身体がデカくなったよな。そりゃこまめな調節も必要だな。」
「そうですか?」
「おう。なあ、ユーグ。」
「ああ、一回りは大きくなったぞ。」
コリンだけでなく、ユーグにも言われて、オドは初めて定期的に鎧がきつくなる原因を理解する。
「オドもいつかカルペラさんぐらい大きくなるかもな。」
身長2mを超える大男であるカルペラの名前を出してコリンが笑う。
「カルペラさんは流石に、、、。」
オドはそう言って苦笑いしつつも、今まで小さく、細いが代名詞だった自分の身体の成長の実感にオドの胸は期待で高鳴るのだった。
そんな話をしていると、ユーグが立ち上がる。
「さ、俺達も行こう。」
そう言って歩き出すユーグを先頭に他の4人も立ち上がる。
「今日も、頑張ろう。」
そう言ってユーグは珍しくニヤリと笑うのだった。
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