ブレークアウト ①
ライリーの提案はすぐに実行に移された。
同時に、クルツナリックの報告はすぐに市街地で戦う全ての冒険者に知らされた。
約2日のうちに冒険者ギルドと大規模クランはロープで繋げられた。
また馬車の車輪を加工した調整器を利用することで物資の輸送も可能となった。
さらに、ロープの敷設の為に屋根と屋根の間に板が掛けられ、少人数ならば板を伝って移動することも可能になった。
一方で、、、
「成果はなしか、、、。」
ライリーはそう言って執務室からヴィルトゥスの街を見下ろす。
クルツナリックの仮説のもと、1週間半、手の空いている冒険者を使って膨大なマナを溜め込んでいるとされる“器”の捜索を行っているが、今のところ成果は出ていなかった。
オーバーフロー発生から5日程でモンスターの攻撃対象が冒険者ギルドに集中しだしたことで籠城戦をしていた大規模クランもある程度自由に動けるようになっているが、それでも手掛かりすら掴めなかった。
「どうにかせねばな、、、。」
ライリーは1人そう呟くのだった。
◆ ◆
「放て!!」
指揮官の号令と共に一斉に放たれる魔法の中に一本の弓矢が唸りを上げて飛んでいく。
その頃、オド達【鷹の爪】のメンバー達は冒険者ギルドに攻め寄せるモンスターの対処をしていた。
「激しいねえ。」
大斧を片手に攻め寄せるモンスターを見下ろすコリンがニヤリと歯を見せる。
コリンの言うように、ここ数日のモンスターの襲来はより激しさを増していた。
「さ、降りようぜ。」
コリンに促されてオドは2人で砲撃用の高台を駆け降りる。
「お待たせ!!」
石垣を降りると既に近接戦闘組の冒険者が待機をしている。
指揮官はオドとコリンが合流したのを確認すると、閉じられた扉を開けるように指示を出す。
「いくぞ、こらぁぁぁ!!」
「「おう!!」」
扉が開くとともにコリンが大声を上げて駆けだすと、それに続くように冒険者達が門を飛び出していく。
オドも戦槌を片手に一緒に飛び出す。
「おらぁぁぁぁ!!」
先陣を切ったコリンはモンスターの群を切り裂いて進む。
そんな頼もしい仲間の背に続いてオドもモンスターを流れるように消滅させていく。
オドはライリーの剣捌きを、コリンはダンの大斧の扱いを間近に見たことで、目指すべき明確な目標ができ、それによって2人はメキメキと実力を上げていた。
冒険者達はどんどんとモンスターを駆逐していく。
モンスターを倒しながら約300m程進んでいくと、大規模クランに属する冒険者達の背中が見えてくる。
大規模クランの精鋭はクラン本部の近くに布陣して冒険者ギルド方面へと殺到するモンスターを食い止めていた。
「合流するぞー!!」
大規模クランの本部と冒険者ギルドの間にいたモンスターを一掃したオド達は、勢いそのままに大規模クランの冒険者と合流すると、そのまま直進してモンスターを押し返していく。
その時、戦場に高々と笛の音が鳴り響く。
「退けー!!」
それを合図にモンスターを押していた冒険者達がサッと振り返って冒険者ギルドへと駆けだす。
同時に、戦っていた大規模クランの冒険者達もクラン本部へと戻り、クラン本部の櫓からモンスターに魔法が放たれ退却する冒険者達を援護する。
オドも冒険者ギルドに向かって走っていると、後ろでざわめきが起こる。
オドが駆けながら少し振り返ってみると、そこには先ほどまではいなかった巨大なモンスターが冒険者達を追っているのが見えた。モンスターは櫓に届くほどのサイズだった。
「このサイズのモンスターもよく出没するようになったよな。オド、戻るか?」
隣に来たコリンがオドに引き返すか尋ね、オドは戦槌を握りしめる。
しかし、オドの決意は取り越し苦労に終わった。次の瞬間、1本の氷柱の矢がモンスターに突き刺さると、今度は矢が突き刺さった場所から炎が上がり、魔石を焼き尽くす。
「ユーグだな。」
コリンがそう言って笑う。
ユーグもまた、クルツナリックの魔法を見て試行錯誤をして魔法のバリエーション向上に努めていた。
「とっとと戻って飯にしよう。」
そう言うコリンにオドは頷くと、冒険者ギルドへと繋がる扉へと駆けこんでいくのだった。
◇ ◇
「だいぶこの生活にも慣れてきたね。」
会議室で支給された夕食を食べながらハーザーが言う。
「ある程度モンスターの特徴も分かってきたしな。後は、これがいつまで続くかだな。」
「特に避難した人達がいつまでも耐えられるわけではないからな。」
カルペラが頷いてそう言うとユーグもそれに続く。
既にオーバーフローが発生してから1週間以上が過ぎており、2週間という避難民達の生活物資が底をつくまでのタイムリミットは刻々と迫っている。
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