濁流の中で ⑪
「では、参る!!」
そう言うとライリーが剣を抜いて押し寄せてくるモンスターと対峙する。
慌てて、オドやコリンが続こうとするとダンとティミーに止められる。
「君達は見学だよ。」
ティミーがそう言うとライリーの方を指さす。
オドがライリーに目を向けるとライリーは嬉々として剣を振るっていた。
「、、、?」
そんなライリーを見てコリンが首を傾げる。
オドも違和感、というよりもライリーの異常さに気付いていた。
「無駄な動きが1つもない。」
オドが小さく呟く。コリンも黙って頷く。
普通、剣で戦うのなら振り上げと振り下ろしの動作が必要となるが、ライリーにはその動作が極端に少なかった。通常ならば1回の攻撃に1回の動作が必要になるが、ライリーは1度剣を振り下ろすと、そこから剣の重力と遠心力に従って連撃が繰り出される。そして、初めから分かっていたかのように連撃は全てモンスターの核となる魔石を真っ二つに切り裂いていく。
「流れの中での動きじゃねえよ、、、。」
コリンが呟き、2人はライリーの独特な戦闘スタイルに見入ってしまう。
「まあ、あの程度はまだまだ序の口じゃよ。奴の真骨頂は、、、オドなら体験したじゃろう?」
そんな2人にクルツナリックが声を掛ける。オドはライリーと模擬戦闘を思い出して頷く。
「そう。奴の真骨頂は1対1の戦闘における殺気と緩急の管理、これに尽きる。それが、圧倒的身体能力と鋭敏な感覚の持ち主だった奴の相棒に対抗する中で鍛えた奴なりの戦い方だよ。」
クルツナリックはそう言ってオドを見る。
「さて、そろそろ儂らの出番じゃ。ダン、ユーグ君、頼むよ。」
クルツナリックがそう言うとコリンの物より一回り大きな大斧を持ったダンが頷く。
「では、“岩砕き”!!」
ダンがそう言って地面に大斧を振り降ろすと、水路と並行に地面に亀裂が刻まれる。
その長さはコリンが丘に刻んだ亀裂とは比べ物にならない程長く、遥か先まで亀裂が続く。
「なっ、、、!!」
それを見てコリンが小さく驚きの声を上げる。
「“アイス・ウォール”」
ユーグが詠唱すると亀裂に沿って突き刺さるように氷の壁が生成され、モンスターの侵入を阻む。
「うむ、上出来、上出来。」
氷の壁を見てクルツナリックが満足げに呟く。そして、ユーグを見る。
「ユーグ君、ではここからは“魔術”の指南だ。これはその一つの到達点じゃ。よく見ておるといい。」
クルツナリックはそう言って微笑むと、ユーグの作った氷の壁に手を触れる。
「“アルケミ・メタモール・マキシマ”」
クルツナリックが詠唱した次の瞬間、氷の壁が一瞬で岩の壁へと変貌を遂げる。
余りに突然の出来事にユーグをはじめ【鷹の爪】の面々が絶句する。
「中々に良い表情をしてくれる。」
クルツナリックがそう言って笑う。
「魔術は4大元素を無からの表出をする魔法だけじゃない。元素の密度の変更、そして錬金術と呼ばれる元素を他の元素へと変質させる術、これも魔術だ。」
驚きの表情のまま絶句するメンバーにティミーが解説してくれる。
「ユーグ君、魔法の奥は深いものだよ。さあ、続きの壁を作ろう。水路の周り全てを覆うんだ。急がなければ。」
そう言ってティミーも歩き出す。
「レジェンドって、やっぱ凄ぇんだな。」
コリンの言葉と共に【鷹の爪】の面々はまだ衝撃から覚めない様子で頷くのだった。
結局、水路の周りに砦を築くのは半日もかからなかった。
そしてオーバーフローが発生してから最初の夜がヴィルトゥスに訪れる。
オド達「鷹の爪」のメンバーは割り当てられた会議室で休息を取ることになった。
「見張りを任せっきりにして大丈夫だったかな?」
「せっかくのご厚意だ、有難く休ませて貰おう。それに状況が長丁場になったら余り寝れなくなるかもしれん。今はしっかり休もう。」
ハーザーの呟きにユーグがそう答える。
「それもそうだね。おやすみ、みんな。」
「ああ、おやすみ。」
「おう。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」
「、、、おやすみ。」
暗い会議室のなか、皆、寝れずとも黙って目を閉じる。
【鷹の爪】の怒涛のオーバーフロー初日はこうして幕を閉じていくのだった。
「皆、緊急事態のなか良くやってくれた。この街の長として感謝する。」
一方その頃、ギルド4階の会議室ではライリーを始めとしたメンバーが作戦会議をしていた。
「報告によると冒険者ギルド管轄での被害者は出なかった。これ以上の成果はない。本当によくやってくれた。ありがとう。」
感謝の言葉で会議を始めたライリーはそう言って拍手をする。
ライリーに続くように会議参加者も互いに拍手をして成果を称え合う。
「さて、それでは今後について話し合おう。」
拍手が静まった所でライリーは座ると話を切り出す。
「まずは成果だ。水路の防衛成功によって外部からヴィルトゥスへの供給ラインは確保された。これで外へ逃がした商人たちからの必要物資の調達ができる。」
「ただ、最も物資が必要なのは籠城を強いられている大規模クランだ。短期戦が望めないのなら、彼らへの供給ラインの確保が最優先事項となるな。それに丘に避難した市民もだ。蓄えを持たせたとはいえ、耐えて2週間だぞ。」
ライリーに続いてダンが発言する。
「その通りだ。我々にとってのデッドラインは2週間。それまでに街の状況を解決しなければならない。」
「しかし、未だにダンジョンからはマナが溢れ続けている。まずはマナの流出を止めなければ。」
「そうです。元凶を絶たなければ事態は解決しない。」
「長期戦になれば冒険者達の士気の維持も難しくなる。」
ティミーが言うと、それに続いて他の支部長達も発言する。
「クルツは何かあるか?」
ライリーがそれまで黙っていたクルツナリックに話を振るとクルツナリックはライリーを見る。
「ああ、すまんすまん。少し考え事をしとったわい。気にせず続けてくれ。」
「、、、そうか。それでは皆、一先ずは大規模クランへの供給ラインの確保だ。その方法についてアイデアがあれば発言して欲しい。」
「どうにかして道を切り開くことは出来ないか? それこそ今日の水路のように。」
「いや、それだと範囲が広すぎて時間がかかる。それにクルツナリック様の負担が大きい。」
「しかし、他にどんな手が、、、。」
、、、、、、、、、、、、
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作戦会議は続き、夜は深まっていくのだった。